ネモ(根本直樹)氏は、世界最大規模のeスポーツチーム「Team Liquid」(チーム リキッド)に所属する、格闘ゲーム「ストリートファイター」シリーズのプロゲーマーだ。大手ゲーム会社スクウェア・エニックスの社員であると同時に、世界な大会で上位に食い込む活躍を続ける社会人プロゲーマーでもある。
ネモ氏は、2016年7月にALIENWAREとプロ契約を行い、2020年に社会人プロゲーマー5年目を迎えた。海外でのeスポーツの隆盛を目の当たりにしプロになり、現在の日本での盛り上がりを支えてきた選手のひとりといえる存在なのだ。
経歴および最近の活動内容は?
ネモ氏: 高校生のころからゲームの大会や試合に多く参加し、2016年にプロゲーマーになりました。現在も働きながらプロゲーマー活動を続けています。
基本的には、カプコン公認の世界大会「カプコンカップ」出場のために、公式認定大会「CAPCOM PRO TOUR」(CPT。カプコンプロツアー)に毎年参加して、優勝するように日々練習しています。
今年は、新型コロナ感染症の影響で、オンラインでの大会参加が多いという状況です。試合以外では、ゲーム関連の活動としては、ファン向けの動画配信で自分が参加した試合の解説なども行っています。
ファンの方と対戦することもありますか? 対戦希望者はどういった方が多いですか?
誰でも対戦に参加できる仕組みを利用して、初心者の方や、強くなりたいというファンの方と対戦することがあります。20代だとプロゲーマーになりたい方が多い印象です。30代だとゲームが趣味という方が多くて、せっかくの機会なので対戦したいと考えて挑戦してくれたりします。
どのような経緯で社会人プロゲーマーに?
プロゲーマーになる以前にも、先に触れたように大会への参加など活動自体は続けていて、企業にスポンサーについてもらったのが30歳を過ぎてからです。
前職で、自分のキャリアプランを上司と話した際に検討し始めたことがきっかけで、海外でeスポーツシーンが広がる中、今のままでいいのかと考えたんですね。すでに海外大会にも参加していたので、もっとゲームに特化したスキルを活かしたかった。
そこで「プロゲーマーになる」と決めて、その1週間後には、東京ゲームショウをはじめスポンサーを探すために名刺を配り始めました。ただ2015年当時の日本は、eスポーツがまったく認知されていない状況で、前例がないという理由で断られ続けていました。その後、デルさんのALIENWAREブランドを紹介してもらって、プレゼンを行っています。
当時のALIENWAREブランドでは、ちょうど担当者さんがeスポーツについて検討中という状況だったようです。自分のプレゼンに興味をもっていただいて、必要な資料など具体的なアドバイスをいただきました。そこで手応えを感じて、5~6回プレゼンをさせてもらっています。
その際自分の強みとしたのは、社会人として働きながらでも、eスポーツの大会で活躍できること、強いことです。「年を取ると、いつかはゲームをやめないといけない」という考え方がありますけど、それをなくしていきたい、ゲームが好きな社会人を応援したいということで、ALIENWAREブランドにスポンサーとなっていただいています。
専業プロゲーマーと社会人プロゲーマーの違いは?
社会人プロゲーマーの場合、企業に勤めているので、両親・家族をはじめ周囲の理解が違います。正直なところ、最初は否定的だったのですが、仕事をしながらという点をキチンと伝えて、好きなことを仕事にするということで安心してもらうように説明しました。また、メディアなどに露出しているうちに、少しずつ理解してもらっています。
現在だと専業になっても家族に認めてもらえるかもしれませんが、プロとして活動を続ける上で家族の協力が必要になる場面もあります。家族の理解が得られずに苦労している方は、まず社会人として仕事をしつつ活動を続けて、家族に求めてもらってから専業になるといいかもしれません。
専業プロゲーマーだと、ゲームに使える時間が増えるのはメリットです。ただ自分の場合では、例えば空き時間などに試合内容、技の連携などプレイの流れを練習としてイメージしたりしています。専業プロゲーマーと社会人プロゲーマーとでは、そういったイメージした連携をどの程度早く実際に試せるかどうかが違う程度にとらえています。
プロゲーマーを続ける上での障害は?
ゲームの寿命が選手の寿命につながる可能性があります。特定の1タイトルだけの場合、そのタイトルで勝てないと、そのまま選手寿命なりかねません。例えば人気のある格闘ゲーム、同じジャンルの違うタイトルにも挑戦するなど、ゲームの変化についていく必要があります。
またそれが、多くのファンの方に支持されるかどうかにもつながります。
どのように試合や練習などの時間、あるいは練習場所を確保していますか?
普段の練習は、仕事を終えてからです。また土日を使って長時間練習しています。練習場所は、新型コロナの影響があるので、自宅に環境を整えて練習しています。
こういった状況になる前は、知り合いのeスポーツプロゲーマーさんの自宅に行ったり、eスポーツの施設で練習していました。
また、兼業で社会人としてプロゲーマーを続けられるのは、会社や一緒に仕事をしている方の理解・協力が大きいです。自分が大会で休むとなると、周囲の方に仕事をお願いする必要が出てきます。
そういった活動を認めない会社であれば、そもそも難しく、現職のスクウェア・エニックスでは、周囲の方の協力に助けられています。
練習のためのハードウェア環境は、家庭用ゲーム機を使う場合が多い?
練習で家庭用ゲーム機とPCのどちらを使うのかは、大会によって変えています。昨年のカプコンカップ決勝大会では、試合環境として家庭用ゲーム機を採用していたので、同じ環境で練習するために家庭用ゲーム機を使っていました。
現状ではPCを使う大会が多いので、PCで練習しています。PC系企業の大会スポンサーがだんだんと増えていて、PCが試合環境になることが多くなっています。
日本でのeスポーツの隆盛を受けて、どんな変化がありましたか?
メディアの扱いが変わってきています。メディアで取り上げられる場合、以前は「eスポーツとは?」といった基本的な解説が多かったのですけど、現在ではそういった紹介は減っています。eスポーツは多くの方に認知されるようになっていて、どんなゲームタイトルか、どんな選手なのかが注目され始めているように思います。
そのぶん、選手のブランド力が大事になってきていると感じます。強いというだけではなく、あるeスポーツ選手のイメージやカラーが、スポンサー企業に合うのかなどが大切です。将来のことを考えると、選手にとってもその方が長く活動できるように思います。
例えば自分なら、「ALIENWARE=ネモ」といったイメージを持たれるようになりたいですね。
個人戦とチーム戦で大きく違う点は? 個人戦とチーム戦では、どちらが好きですか?
ストリートファイター限定の話になりますけど、個人戦は、試合結果は自分ひとりの責任、たとえ負けてもあくまで自分だけの責任で済みます。チーム戦は、個人の力量や勝ち負けだけではなく、他選手との兼ね合いが大きい。チームワーク、団結力の違いが大きいですよね。勝ったときの喜びも強いです。
チーム戦はもともと好きで、大学生のころは「闘劇」(とうげき)という大会に、仲が良いメンバーと組んで全国大会での優勝を目指して戦っていました。個人戦とは別の魅力があって、チーム戦は悔しさうれしさがまったく違います。
これからeスポーツに挑戦する10代の個人、また社会人に対してメッセージは?
これからeスポーツに挑戦する方は、「ゼロかイチ」という気持ちで挑んでほしいんですよ。
ダラダラと続けても、正直なところ成功しません。ゲームを楽しくプレイするというだけでは続かない。自分もゲームが楽しくて続けてきたものの、特殊例だったと思います。格闘ゲームというジャンルしかプレイしないような道を歩んできて、他の人より強くてプロゲーマーになれています。
これからプロゲーマーになりたい、eスポーツに挑戦したい方の場合は、ある時はこのゲーム、別の時期には違うジャンルを遊んで、いろんなゲームで「俺はこのゲームで、(別の時期に別のゲームで)プロゲーマーになるんだ」とフワフワしていると、中途半端になってしまうと考えています。
本当にプロゲーマーになりたいなら、「この時期までにプロになる」と決めて活動して、挑戦した方がいい。そこでプロゲーマーになれなかったら踏ん切りも付けやすく、別の道も歩みやすいと思います。
実は、新作ゲームが出る度にそれに飛びついてしまい、試合で勝てるほどの実力がつかず、いつまでもプロゲーマーになれない方が今後増えてしまうのではないかと気にかけています。「あなたは、いつプロゲーマーになれるのか?」ということですね。
ゲームが好きで遊び続けるのは、良いことだと思います。でも、プロを目指す方なら、常に先々のことを考えて挑戦してほしいです。
プロゲーマーのスポンサーになることを検討している企業にアドバイスは?
ゲームをやってきた人は変わっているところがあります。企業とは違う感覚・文化があるので、企業側も自分達の考え方やスタンスを伝えて、プロゲーマー側を成長させていく必要があると考えています。スポンサーとして金銭的な支援をしているのにと不満を持つ企業もあるのですが、多少長い目で見てもらって、ゲームを強みとする選手達をうまく使ってほしいです。
その選手が何が得意なのかも見てほしい。例えば、あまりしゃべりがうまくないのに、MCをやらせるのは無理がありますよね。逆にゲームは多少下手だけど、人に教えることがうまい場合もありえます。企業側のほうが様々な人材を見ているはずなので、一緒にチャンスをつかんだり、長所を伸ばせるようにしてほしいのです。
もうひとつ、企業内で決定権を持つ方、金銭面で権限を持つ管理職が、ゲームを知っている世代やゲームで育った世代になってきたという変化も感じています。自分がプロゲーマーになるためにプレゼンをして回った5年前と比べても、ゲームに対する理解度の高さが違います。
その点では、ゲーマーと企業との間のインターフェースが整って、コミュニケーションが取りやすくなってきています。その影響を考えると、eスポーツはむしろこれからスタートといえる業界で、今後理解度の高いスポンサー企業がさらに増えて、もっと変化する可能性があると考えています。
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- Original:https://jp.techcrunch.com/2020/09/04/nemo-esports/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Takashi Higa
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