komham代表の西山すの氏に初めて会ったのは、大手テック企業の発表会だった。当時彼女は、PR会社で企業ブランディングを手がけており、その後も発表会で何度か顔を合わせることがあった。その西山氏が、地元北海道に戻ってバイオテックのスタートアップkomhamを起業したことを知り、今回取材を申し込んだ。
牧草由来の微生物群で生ゴミや畜糞を1週間で分解
komhamは、牧草由来の微生物群で生ゴミや畜糞を1週間で分解する技術を擁するスタートアップ。もともとは西山氏の父親が手がけていた事業を引き継ぐかたちで新たに法人化した会社だ。すでに導入して8年が経過している取引先もあり、微生物群の働きは実証済みだ。
西山氏が起業を考えるようになったのは「PR/ブランディングで自分が実現できる限界を感じた」からとのこと。そしてせっかく起業するなら、これまでの経験を生かせて世の中のためになることで考え、自らなにかを創り出したいと思ったそうだ。とはいえ、エンジニアでもない自分がテック分野で戦っていくのは難しいとも感じていたそうだ。
そんな思いを抱きながらもPRやブランディングの仕事を続けていたころ、当時の部下がいつもエコバック持ち歩いたり、木のスプーンを使ったりとエコな日々を送っていたのを見たとき、環境に優しい半面、それをチョイスする生活者の意識に依存した仕組みでは継続が難しいと感じ、個人レベルではなく社会的にサステイナブルな事業を考え始めたという。
そんなとき、TechCrunch Tokyo 2018で最優秀賞を獲得したムスカのことを知る。そして、ムスカと近い事業をやっているが、事業運営に悩みを抱えている父親のことを思い出したそうだ。西山氏は、テック同様バイオも素人で簡単に事業化できる分野ではないが、スタートアップには競合が少ないこともあり、この事業での起業を決意。
とはいえ、ゴミ処理系の技術はこれまで詐欺まがいの事例が過去に何度もあり、業界的にすんなり受け入れてもらえる素地は整っていないことを知る。業界に認めてもらうには、科学的根拠をしっかり公開したクリーンな経営が必要とされていることを認識。この点をきちんと進めれば、すでに実績も出ている事業なので勝てる可能性があるのではないかと感じたそうだ。
すでに10トン/日の処理実績、導入して8年の産廃処理業者も
komhamは、独自で開発した牧草由来の微生物群(komham菌)を、生ゴミや家畜糞尿、下水道汚泥などの有機物に仕込むことで微生物が分解を進めて減容するバイオマス処理。焼却炉の役割を果たす菌床をクライアント先の処理場に作り、菌床に毎日基準量の有機物を投下して攪拌することで、24時間後には有機物が分解され、次の有機物の受け入れ態勢ができるという仕組みだ。
komham菌の処理プラントはビニールハウスをカスタマイズしたような建物で、中小の養鶏場や養豚場などが各自で設置できる程度のコスト感とのこと。なお処理プラントの建設費のほか、自動攪拌機やタイヤショベル、トラクター、ミキシングなどの重機も必要だ。
実は技術的にはまったく新しくなく、畜産業者が堆肥舎に家畜糞尿を置いて堆肥に変える堆肥化と同じ流れだが、大きく異なるのはそのスピード。通常の堆肥化だと、数週間から2カ月程度かかるとされているところが、komham菌を使用するバイオマス処理の場合1日で投下物の98%以上を減容できるのが特徴だ。
バイオマス処理では臭気と汚水が問題になるが、その原因の大半は処理スピード。処理過程で投下した有機物の分解に時間がかかると腐敗が始まり、異臭や汚水の問題が起こる。komhamの場合は処理スピードが24時間以内と早いため、投下するゴミが腐敗する前に処理が完了し、臭気と汚水の問題が出にくいという。
なお、バイオマス処理された生ゴミや畜糞は堆肥として利用できるものの、ゴミから堆肥化した肥料を敬遠する傾向もあり、実際に生成した堆肥を受け入れてくれる大きな市場は国内にはなく、自家使用するか無料配布するぐらいしか需要がないそうだ。komhamは堆肥化がマストではなく、売り先がある場合は必要な量だけ堆肥にし、必要なければ減容処理の機能のみ使い続けることができるという、無駄のない処理技術を提供できるのが特徴だ。
もちろん処理できる廃棄物は限られている。komham菌が得意とするのは、肉や魚、野菜、穀類、菓子、甲殻類や卵の殻など生ゴミとして処理できるものや、落ち葉や草花、糞尿、割り箸など。金属類やガラス、紙・段ボールなどは分解できない。
komham菌は実績としてすでに10トン/日規模の生ゴミや畜糞を問題なく処理できているとのこと。既存取引先のある産廃処理業者は、komham菌の処理能力の高さを実感し、それまで続けていた大学とのゴミ処理の共同研究から切り替えたほどで、この業者とはすで8年の取引実績があり、近日中に処理量を現在の10〜12トンから20トンにまで引き上げる計画もあるそうだ。
課題は科学的根拠と大量生産技術
実績がある一方で、komham菌についてこれまで科学的根拠を導き出したことはなく、これから導入を考えている企業や行政の誰が見ても安心できる状況を作ることがマストだと考えている。そこで現在、大学との共同研究を進めており、春先までには正式に内容を発表できる予定だ。同時に特許も取得するとのこと。
今後の事業展開について地域は特にこだわっておらず、すでに現在国内外からの問い合せもきているそうだ。komham菌は北海道でも60〜80度ぐらいの発酵熱を出すので、温暖地もちろん寒冷地でも問題なくゴミ処理できるという。なお、産廃処理業は産業構造が出来上がっている業界でもあり、飛び込み営業で顧客獲得という手法ではなく、大手で信頼のおける業者とアライアンスを組み、komham菌の導入を進めていきたいとのこと。
ネックとなるのは現状のkomham菌の製造方法で、大量生産の技術が確立されておらず、新規顧客は年間で1〜2社程度しか増やせないとのこと。そのため、後日発表する学術機関との共同研究で培養実験も開始する。培養実験が成功して大量培養できるようになった際に、一気にドライブかけられるようにしたいとのこと。処理するゴミの種類に合わせて菌のブレンドを変えて、バイオマス処理の効率化も図りたいという。
ほとんどの銀行が門前払いの中、唯一北海道銀行が融資 ・事業伴走
komhamは2020年1月設立の創業の間もないスタートアップで、現在はデットファイナンス(融資、借入)による資金調達で会社を運営している。拠点が東京でもなく、事業がSaaSやAI、ロボティクスなどテックでもないため、資金調達にはかなり苦労したそうだ。
バイオテック系の事業は、事業計画が半年、1年と遅れてしまうことケースが多くあり、起業したばかりで先が見通せない状況では、株主にとっても自分たちにとっても現状ではメリットが見い出せないため、まずエクイティファイナンス(第三者割当増資)の調達は難しいと感じたそうだ。ネットサービスやソフトウェアであれば、とりあえずローンチ日までに基本機能の実装を間に合わせて、あとでアップデートをかけていくという手法を使えなくもないが、バイオテック系の事業は人が頑張っても乗り越えられない壁があるわけだ。もちろん、前述した大学の共同研究によって、科学的根拠や量産体制が整えば事業シナジーのある企業やVCから調達したいと考えているが、現在はエクイティを検討する材料がまだそろっていないとのこと。
残るはデットでの資金調達となるが、創業したばかりで資本金100万円、社会的信用のないkomhamに対して、ほとんどの銀行から融資の前段階で却下され、申し込みすらできない状態だった。そんな中、唯一相談に乗ってくれたのが地元の北海道銀行だった。融資だけでなく、営業支援や会ってみたい人との仲介など、北海道銀行がサポーターとして伴走してくれていることは本当に心強く、事業を早くグロースさせて恩返ししたいという気持ちが強くなったという。
カテゴリー:バイオテック
タグ:komham、北海道
画像クレジット:komham
- Original:https://jp.techcrunch.com/2020/10/13/komham/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Hiro Yoshida
Amazonベストセラー
Now loading...