やっぱ北欧生まれは違うね!ボルボ「V60」ポールスター仕様は雪道でも速くて安定してます

2020年、ボルボの日本法人は全ラインナップから内燃機関のみのモデルをなくし、全車電動化を完了した。とはいえ“楽しいクルマ”がボルボからなくなったわけではない。

今回採り上げる「V60 T8 ポールスターエンジニアード」は、ボルボ自ら走りを磨いた、いわばV60のエボリューション仕様。その実力とキーテクノロジーのひとつである4WD性能をチェックすべく、冬の青森を駆け抜けた。

■高性能でも乗り心地抜群のポールスター仕様

今回のメインテーマは、ボルボのハイパフォーマンスモデルであるV60 T8 ポールスターエンジニアードの、雪上での実力を検証すること。舞台は冬の青森だ。

とはいえ異常気象の影響か、2020年12月の青森は雪が少なかった。筆者が訪れた日の朝も、青森市街は雪ではなく雨が降っていた。幹線道路に雪はなく、路面コンディションは雨によるウエットの状態。そのため深い雪を求め、雪深いと思われる八甲田山方面を目指すことにした。

V60 T8 ポールスターエンジニアードで雨の青森市街へと走り出すと、2ブロックほど走ったところで「あれ、どうして?」という不思議な感覚が筆者を襲った。「V60」はボルボの中核となるステーションワゴンであり、ライバルはメルセデス・ベンツの「Cクラス ステーションワゴン」やBMWの「3シリーズ ツーリング」といった日本でもお馴染みのドイツ勢。そんなプレミアムワゴンをベースに仕立てられたV60 T8 ポールスターエンジニアードは、2020年はわずか20台だけが日本に導入された、いわばV60のエボリューションモデルだ。

V60 T8 ポールスターエンジニアードは、V60のカタログモデルにはない“T8”というボルボ最強のパワートレーンを搭載。フロントタイヤは、333馬力のエンジンと46馬力のモーターが協調して、後輪は、87馬力のモーターが単独でそれぞれ駆動する。このほか走行制御においても、専用のチューニングが施されている。

さらにサスペンションには、減衰力を22段階に調整できるという、まるでレーシングカーのようなオーリンズ製ショックアブソーバーを採用。またフロントブレーキには、イタリアの名門であるブレンボ製の6ピストンキャリパーを、直径371mmという大径ローターと組み合わせて装着している。

このようにV60 T8 ポールスターエンジニアードは、走りの実力を引き上げた、いわばメーカー純正のチューニングカー。しかし、サーキット走行にももちろん対応するものの、メインステージは公道でのスポーツ走行としている。チューニングを担当するポールスターは、かつてボルボのモータースポーツ活動を担っていた組織であり、ボルボ純正のスポーツパーツなどを手掛けたほか、今ではボルボ傘下の電動自動車専門ブランドとしての顔も持っている。

そんな名門が開発したスペシャルなモデルだからこそ、青森市街を走り出してすぐに「おや?」と思ったのだ。走りを重視したサスペンション(試乗時は最も硬い状態からフロントを6段、リアを9段戻した工場出荷時の状態)を装着する上、鍛造タイプとはいえ19インチという大径のタイヤ&ホイールを履くモデルである。一般的に考えれば、乗り心地がいいわけがない。

しかし、V60 T8 ポールスターエンジニアードの乗り心地は予想に反したものだった。路面の凹凸を足回りがしっかりと吸収し、段差を乗り越えた際の車体の挙動もなめらか。しなやかな乗り心地は上級サルーンをしのぐほどで、魔法のじゅうたんに乗っているかのように感じられたのだ。感動レベルといっても過言ではない乗り心地の良さは、オーリンズ製ショックアブソーバーがいい仕事をしているからにほかならない。

また、ハイパフォーマンスカーでありながら、プラグインハイブリッド仕様となるV60 T8 ポールスターエンジニアードのパワートレーンは、他の高性能モデルにはない新しさを感じさせる。エンジン+モーターによる強力な駆動力で素晴らしい動力性能を発揮する一方、市街地などではエンジンを止め、モーターだけでの走行も可能。日常領域であれば、エンジン音のないスムーズで静粛性に優れた移動を実現にしているのだ(モーターだけでの航続距離は、カタログ記載のWLTCモードで最長40㎞)。正直いって、これほど快適なハイパフォーマンスカーなど、これまでお目にかかったことはない。

■快適性やしなやかさも高次元でミックスした乗り味

青森市街を抜けて峠道に入る。市街地ではモーター走行がメインだったこともあり、V60 T8 ポールスターエンジニアードはとても穏やかなクルマに感じられた。その状況は、峠道においても基本的には変わらない。フツーに淡々と走るだけなら、静粛性抜群で快適そのものだ。

しかし、走行モードを最も活発な「ポールスターエンジニアード」に切り替え、アクセルペダルを深く踏み込めば、秘めていたパワーが発散される。エンジンの音やレスポンスには、あふれんばかりのエネルギッシュさこそ感じられないが、300馬力オーバーのエンジンと46馬力+87馬力のモーターによる共演で導き出される速さはかなりのもの。バリバリの体育会系といった印象こそないが、涼しい顔をしながら運動神経抜群のアスリートといった印象で、勾配のキツい登り坂でもグイグイと進んでいく。

そうした印象は、ハンドリングにおいても同様だ。ハイパフォーマンスカーだからといってミズスマシのようにクイックかつシャープに動くかといえば、まるで逆。ジワリと穏やかな挙動でありながら、気持ちよく曲がっていく。この奥深い動きは、まさに人間の感覚に逆らわないもの。そのため、ドライブしていてとても心地いいのである。

運動性能が高いというだけでなく、優れた快適性やしなやかな乗り味なども、高次元かつバランスよくミックスされている。これこそが、他のハイパフォーマンスカーとは根本的に異なる、V60 T8 ポールスターエンジニアード最大の魅力といえるだろう。

■充電量が減るとエンジンが発電して4WDをキープ

八甲田山の山麓付近に差し掛かると、周囲の景色が一変。路面が雪に覆われてきた。そんなシーンを走っていると、さすがは北欧生まれのボルボだな、と感じた。何しろ、雪に囲まれた寒さ厳しい状況でも、車内のホスピタリティが抜群なのだ。

例えばシートは、フロントだけでなくリアにもシートヒーターを装備。シートヒーターはエアコンのヒーターより早く発熱し、カラダをいち早く温めてくれるから寒い日のドライブにうってつけだ。また、V60 T8 ポールスターエンジニアードはハンドルにもヒーターが組み込まれているので、外は大雪でも車内に乗り込んでしまえば快適にドライブすることができる。

おまけに、コックピット中央に位置する縦長のタッチパネルには、感圧式や静電容量式ではなく赤外線式を採用。寒い日でも手袋をはめたままの手で操作できるよう配慮されている。ウインタードライブにおいては、こうした細かい心使いがありがたい。

V60 T8 ポールスターエンジニアードは、ターボとスーパーチャージャーで過給した2リッター直列4気筒エンジンに前後ふたつのモーターを組み合わせ、状況に応じて前後4本のタイヤを駆動させる。モーターだけで走行する場合は、リアモーターのみを使う後輪駆動となるが、雪上などの滑りやすい路面を走行する際や、走行モードで「コンスタントAWD」を選んだ場合は4WD状態となる。

そのため、滑りやすい雪上路でもトラクション性能に優れ、運転していて心強いし、常識的なドライビングに終始する限り車両の挙動も安定している。一方、高度なドライビングテクニックの持ち主であれば、コーナリング中にアクセルペダルを深く踏み込んで後輪に多くの駆動力を伝達し、ドリフト状態に持ち込むのも簡単だ。“T8”と名づけられたボルボ最強のパワートレーンは、前輪をエンジンとモーターが協調して、後輪をモーターのみでそれぞれ駆動する特殊な仕組みだが、それを全く意識させることなくテールスライドを楽しめる。

ちなみに、“T8”のように後輪をモーターのみで駆動するボルボのハイブリッド4WDに対して「バッテリー残量が減るとリアモーターが作動せず、前輪駆動車になるのでは?」と心配する人がいるかもしれない。しかし心配は無用だ。そうした場合は、適時、エンジンによる発電でバッテリーが充電され、4WD状態がキープされる。

雪深い八甲田山から十和田湖へと下ると辺りの雪はまた少なくなり、目的地である八戸市街の手前では雨も完全に上がり、路面状況は完全にドライとなった。今回、冬の青森のさまざまな路面を駆け抜けたわけだが、V60 T8 ポールスターエンジニアードはいずれのシーンでも速く、安定して走れたのが印象的だった。アンダー1000万円級のハイパフォーマンスカーの中で最も優れた1台と断言できるほど、秀逸な乗り味には感動さえ覚えたほどだ。残念ながら2020年の上陸分は完売(瞬殺だったという)してしまったが、2021年の“おかわり”を期待したい。

<SPECIFICATIONS>
☆T8 ポールスターエンジニアード
ボディサイズ:L4760×W1850×H1435mm
車重:2050kg
駆動方式:4WD
エンジン:1968cc 直列4気筒 DOHCターボ+スーパーチャージャー+モーター
トランスミッション:8速AT
エンジン最高出力:333馬力/6000回転
エンジン最大トルク:43.8kgf-m/4500回転
フロントモーター最高出力:46馬力/2500回転
フロントモーター最大トルク:16.3kgf-m/0〜2500回転
リアモーター最高出力:87馬力/7000回転
リアモーター最大トルク:24.5kgf-m/0〜3000回転
価格:919万円(完売)

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。


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