日本車としては貴重なビッグサイズの高級クーペ、レクサス「LC」が先頃マイナーチェンジ。
ホットニュースはオープン仕様がラインナップに加わったことだが、2017年春にデビューしていたクーペ仕様にも、地味だが実のある改良が施されている。今回は、レクサスのこだわりが詰まった最新型LCの魅力に迫る。
■デザインが息をのむほど美しいレクサスLC
2ドアクーペは、実用性を犠牲にしてまで美しいスタイルを重視したクルマである。セダンやSUVに対してドアの枚数を減らし、リアシートの居住性を下げながら、徹底的にデザインコンシャスとしている。
2ドアクーペというと、日本では若い人のクルマというイメージが強いが、それは世界共通の認識ではない。ヨーロッパではむしろ、人生を楽しむ大人のためのクルマという印象で、年配の人こそ好んで乗っている。そのため、メルセデス・ベンツのフラッグシップセダンである「Sクラス」をベースにした「Sクラス クーペ」や、BMWの最上級セダンである「7シリーズ」のクーペに相当する「8シリーズ クーペ」など、多くのメーカーが高額なフラッグシップクーペをラインナップしている。
いずれも全長5m前後の大柄なモデルで、上級セダンに匹敵するサイズのボディを実質ふたり乗りのパッケージングに充てているのだから、なんとも贅沢な設計だ。もちろん、スタイルが優美なのはいうまでもない。
何を隠そう日本メーカーにも、Sクラス クーペや8シリーズ クーペに負けないエレガントなクーペが存在する。それがレクサスの手掛けるLCだ。全長5m弱の大型ラグジュアリークーペで、プラットフォームはフラッグシップセダンの「LS」と共通となる。
しかし、なんと美しく存在感のあるクルマだろうか。LCの実車を前にすると、そのオーラに思わず目がくぎづけとなる。LCの魅力は“優雅”という2文字に集約されるといっても過言ではない。大柄なクーペというポジショニングだけで贅沢さを具現しているようなものだが、LCはそれに加え、デザインが息をのむほど美しい。
Sクラス クーペや8シリーズ クーペもエレガントで、優美なデザインの見本ともいえるが、LCはそれらと比べてもヒケを取らない。プライスタグを含め、これほどラグジュアリーなクーペは過去の日本車には存在しなかったし、風格などの面でも、手強いドイツ勢に対して全く見劣りしない。
■乗り味が格段に良くなったハイブリッド仕様
そんなLCが2020年に商品改良を受けた。とはいえ、目に見える部分の変更点は、内外装に新しいカラーが追加されただけだ。一方その中身は、サスペンションのロアアームがアルミ化されたほか、フロントスタビライザーのサイズ変更や、リアスタビライザーの中空化、ショックアブソーバーの制御変更など、大掛かりな改良の手が加えられている。加えて、ハイブリッド車の制御を変更するなどパワートレーンも進化。走りに関する変更点は、資料からリストアップしただけでも16項目以上あり、まさに“見た目より中身のバージョンアップ”といえる改良となっている。レクサス開発陣による「しっかり育てていく」という意気込みが伝わってくる内容だ。
そんなLCには、2タイプのパワートレーンが用意される。ガソリン車の「LC500」は、自然吸気式の5リッターV8エンジンを搭載し、477馬力という高出力を発生する。もうひとつはハイブリッド仕様の「LC500h」で、299馬力を発生する3.5リッターのV6エンジンに、180馬力のモーターを組み合わせている。
今回試乗したのは、後者のハイブリッド仕様だ。正直に告白すると、久しぶりにドライブしたLC500hは「こんなに気持ちよく走れたっけ?」と筆者を驚かせる出来栄えだった。少し前まで、トヨタ製ハイブリッド車は「アクセル操作に対する反応が鈍い」というのが常識だったが、昨今登場したモデルはそのウイークポイントを徹底的に改良。そのため、かつてのような退屈なドライビングフィールはかなり払拭されているのだが、LC500hの出来はさらに上をいく。ドライバーの意のままに操れる感覚は、ハイブリッドカーの概念をガラリと変えるものといっても過言ではない。
アクセル操作に対してレスポンスよく呼応し、ドライバーが加速したい時には加速したい分だけしっかりとパワーを発生してくれる。今回の改良でハイブリッドシステムの変速マップを改めるとともに、モーターによるトルクアシストも増幅しているが、それらが効いているのだろう。
LC500hのハイブリッド仕様は、そもそも燃費優先ではなくドライバビリティを重視した性格で、効率に優れる一方、ドライバーの要求に対して力強くダイレクトにパワーを引き出すよう設計されている。それが一般的なハイブリッド車との大きな違いであり、結果的に出来のいいドライブフィールにつながっている。筆者はこれまで、走りにおいては5リッター自然吸気V8エンジンを積むLC500に分があると思っていたが、ここまでキビキビと気持ちよく走れるなら、LC500hもいいなと感じた。
■エレガントさを徹底的に追求したコンバーチブル
そんなLCのラインナップに、先頃、電動開閉式ソフトトップを備えたオープン仕様「LC500コンバーチブル」が加わった。大柄なクーペである上に屋根も開くのだから、まさに贅沢の極み。なんとも余裕を感じさせるモデルである。
高級オープンカーといえば少し前まで、ルーフを閉じた時の静粛性などを重視し、硬いルーフを備えた“クーペカブリオレ”が流行っていた。しかし、LCのオープン仕様はあえてソフトトップを採用する。その理由は、ひと目見てオープンカーだと分かるデザインとエレガントさを追求したため。クーペカブリオレはルーフを収納する都合上、トランクリッドが高くなったり、前後に長くなったりしがちだが、レクサスはそれによりデザインがスポイルされるのを嫌ったのだろう。
その意味は、実車を前にするとよく分かる。まずトランクリッド周辺が低くてスマート。そして、屋根を開けた時はもちろん、閉めた時でも通常の固定ルーフとはひと味違う優雅さや色気が感じられる。これこそソフトトップ仕様ならではの美点といえる。気になる静粛性も、幌を多層構造とすることで課題をクリア。個人的には、白いボディカラーに赤いソフトトップ、そして赤い内装色なんてコーディネートは最高だと思う。
LCのオープン仕様に用意されるパワーユニットは、力強く極上のフィーリングに加え、サウンド面もエモーショナルな5リッター自然吸気V8エンジンのみとなる。大型のオープンカーは優雅に走ることが似合うだけにハイブリッド仕様が似合う気もするが、ソフトトップの収納部と駆動用バッテリー搭載位置が干渉するため、オープン仕様にはハイブリッドシステムを搭載できないという。
ドライブしてみると、躍動感にあふれ、高回転になるほどパワーや高揚感が盛り上がるフィーリングは、大排気量の自然吸気ガソリンエンジンならでは。人生を楽しむためだけに存在するといっても過言ではない大型オープンカーだけに、こうした味わいも気分を盛り上げる重要なエレメントになっている。
今回、最新型のLCとそのコンバーチブルをドライブし、「ついに日本車もこんなクルマを作れるようになったか」と感慨深くなった。実用性や効率といった呪縛から解き放たれ、その上、運動性能を誇るのともまたひと味違う。人間を精神的に満足させる贅沢なクーペ&コンバーチブルが日本から登場したことがうれしく感じた。
<SPECIFICATIONS>
☆LC500h Sパッケージ
ボディサイズ:L4770×W1920×H1345mm
駆動方式:RWD
エンジン:3456cc V型6気筒 DOHC + モーター
トランスミッション:電気式無段変速機
エンジン最高出力:299馬力/6600回転
エンジン最大トルク:36.3kgf-m/5100回転
モーター最高出力:180馬力
モーター最大トルク:30.6kgf-m
価格:1500万円
<SPECIFICATIONS>
☆LC500コンバーチブル
ボディサイズ:L4770×W1920×H1350mm
駆動方式:RWD
エンジン:4968cc V型8気筒 DOHC
トランスミッション:10速AT
最高出力:477馬力/7100回転
最大トルク:55.1kgf-m/4800回転
価格:1500万円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
- Original:https://www.goodspress.jp/reports/349434/
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