暗号資産(仮想通貨)に関して昨今、エネルギー消費が議論の的となっている。批評家たちは暗号資産がエネルギーを大量に消費していると主張し、推進派は現在の世界経済に比べ、エネルギー消費量は少ないと評価している。
そんな批評家の1人であるDigiEconomist(デジエコノミスト)創業者のAlex de Vries(アレックス・ド・フリース)氏は「Bitcoin(ビットコイン)ほど非効率的なものは見たことがない」と話す。
一方、ARK Investment Management(アークインベストメントマネジメント)の調査によると、Bitcoinのエコシステムが消費するエネルギーは、従来の銀行システムに必要なエネルギーの10%以下であることがわかった。銀行システムの方がはるかに多くの人々にサービスを提供しているのは事実である一方、暗号資産はまだ発展途上にあり、他の産業と同様、インフラの初期段階では特にエネルギー消費量が多くなる。
2021年2月だけで14億ドル(約1520億円)近くを稼いだ暗号資産マイニング業界は、工業化した現代社会におけるその他の問題と比較すれば、環境にとって特別にひどい影響はまだもたらしていない。ド・フリース氏もTechCrunchに対し、環境に配慮した規制当局が「Bitcoinに対してありとあらゆる行動をとったとしても、すべての政府がそういったマイニング規制に賛同するとは思えない」という。
「理想的なのは、内部から変化が起こることだ」とド・フリース氏は話し、Bitcoin Core(Bitcoinコア)の開発者が、コンピューティングの消費エネルギーが少ないソフトウェアに変更することを期待しているとして、こう付け加えた。「Bitcoinは現在、世界中にあるデータセンターの半分に相当するエネルギーを消費していると思われる」。
ケンブリッジ大学のBitcoin電力消費指数によると、Bitcoinのマイナーは約130テラワット時のエネルギーを消費していると予想されており、世界の電力消費量の約0.6%に相当する。これは、Bitcoin経済がスリランカやヨルダンのような小さな発展途上国の二酸化炭素排出量と同等であることを意味する。とりわけ、ヨルダンの人口は約1000万人だ。毎月何人の人がBitcoinを使っているのかはわからないし、アンマンの住民がヨルダンディナールを使うよりも、Bitcoinを使う頻度の方が少ないのは確かだ。しかし、CoinMetrics(コインメトリックス)のデータによると、100万以上のBitcoinアドレスが日常的にアクティブであることが示されている。暗号資産取引所Crypto.com(クリプトドットコム)の記録では、過去10年間のアクティブアカウントは最大1億600万である。
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「当社は上場している取引所のアドレス総数を数え、同じユーザーが複数の取引所で所有しているアドレスを差し引いて、Bitcoin(BTC)とEthereum(ETH)のユニークユーザー総数を算出している。その後、ETHとBTCの両方を所有するユーザーを考慮して、この総数をさらに減らしている」とクリプトドットコムの広報担当者は話す。
これにより、多くの人々がこれらの金融ネットワークを利用していることがわかる。さらに、Bitcoinマイニング事業の多くは、水力発電や油田から漏れ出る天然ガスなど、環境に配慮したエネルギー源を利用している。マイニング業界で経験豊富なCompass Mining(コンパスマイニング)のCOO(最高執行責任者)、Thomas Heller(トーマス・ヘラー)氏は、四川省や雲南省にある中国の水力発電所では、雨季になると電気料金が安くなると話す。乾季には採算が取れなくなるが、水力発電を1年中使い続けているという。
「5月から10月『雨季』以外の電気料金はずっと高くなるが、雨季以外で水を供給している発電所もある」とヘラー氏はいう。
基本的に、コンピューターはあらゆる供給源からの電力を利用できるため、暗号資産マイニングは本来、余分な二酸化炭素を排出しない。2019年、デジタル資産運用会社のCoinShares(コインシェアーズ)は、Bitcoinマイナーの最大73%が、少なくとも何らかの再生可能エネルギーを電力供給の一部として使用しているとする調査結果を発表した。そこには中国の巨大ダムによる水力発電も含まれている。Bitcoinのマイニングプール(マイナーが協力して利益を上げるための共同体)の上位5社は、いずれも水力発電を多く利用している。ド・フリース氏がこの調査結果に驚くことはない。同氏は、マイナーが消費する全エネルギーの39%は再生可能エネルギーであることを、ケンブリッジ大学の研究者が確認していると指摘した。
「私の発電所にはソーラーパネルを1台設置していますし、再生可能エネルギーを組み合わせて利用しています」とド・フリース氏はいう。
地域別でみると、中国のBitcoinマイニング作業が、ハッシュレートと呼ばれるネットワーク計算能力の約65%を占めていることが、ケンブリッジ大学のデータから明らかになっている。中国の新疆ウイグル自治区のような一部の地域では、Bitcoinマイナーたちが石炭を燃やして電気を供給することもある。同自治区は、暗号資産マイニング以外にも、ウイグル人に対する人権侵害で知られている。中国はこの地域にある天然資源を利用しようとさまざまな攻撃を仕かけており、その一環として、ウイグル人を激しく弾圧している。批評家が暗号資産マイニングとエネルギー消費に警鐘を鳴らすとき、彼らが懸念しているのはこの点である場合が多い。
一方、世界のハッシュレートの約8%は北米のマイナーが占め、ロシア、カザフスタン、マレーシア、イランのマイナーが僅差でそれに続く。イランのHassan Rouhani(ハッサン・ローハニ)大統領は、2020年に国家的なBitcoinマイニング戦略を策定することを呼びかけた。米国による銀行を対象とした制裁の下においても、この金融システムにおけるイスラム国家の影響力を強めることが目的だ。
自分たちに最も有利になるようなマイニング規制を加えている国や組織では、Bitcoinマイニングが盛んになっていく。これまで中国が優位であったのは、少なくとも部分的には、政府によるマイニング事業への補助金に依るところがあった。中国やノルウェーなどでは、Bitcoinマイナーが地元の水力発電所を利用することを奨励する補助金を出している。
ノルウェーに本社を置く60億ドル(約6500億円)規模の上場企業Aker ASA(アケル)が設立したSeetee(シーティー)の調査報告書には、こう書かれている。「マイニング事業の財務管理者は、最も安価なエネルギーの利用にこだわるであろうから、当然、その電気の利用は経済的にそれほど大きな意味がないだろう」
暗号資産マイニングをより環境に配慮したものにするためには、エネルギー源がすでに十分に活用されていない地域でマイニングを推進しようとする政治家を支援するのが一番だ。
北米に関していえば、Blockstream(ブロックストリーム)のCEOであるAdam Back(アダム・バック)氏は、300メガワットのマイニング能力を持つ同社のマイニング施設は水力発電などの産業用電源を組み合わせて利用していると話す。また、ブロックストリームは、古くなったマシンの「リタイヤメントホーム」のようなものとして、太陽光発電によるBitcoinマイニングを検討しているという。
バック氏は「太陽光発電を利用する場合、もし50%の時間しか稼働しないのであれば、コストを分析して検討する必要がある。機器のコストをすでに回収した後であれば、これは古いマシンの良い利用方法となる」という。
暗号資産の価格高騰により、今、Bitcoinのマイニング機器が世界的に不足している。需要が供給を上回っており、マシンの製造には1台あたり最大6カ月を要しているとバック氏は付け加えた。コンサルタント会社MMH Blockchain Group(MMHブロックチェーングループ)の創設者であるEmma Todd(エマ・トッド)氏によれば、この不足によりマイニングマシンの価格が押し上げられているという。
「例えば、2020年7月に中古市場で35~55ドル(約3800〜6000円)だったマイニングマシンのBitmain Antminer S9(ビットメインアントマイナーS9)が、今や275~300ドル(約3万〜3万3000円)ほどになっている」とトッド氏は言い、こう付け加えた。「つまり、新品機器や中古機器の購入を検討しているマイニング企業は、すべてではないにせよ、多くが同じような課題を抱えているということだ。世界的なチップ不足で、今後数カ月のうちに発売予定だった新しいマイニング機器のほとんどが、ほぼ確実に発売延期となるであろう」。
ド・フリース氏のような批評家は、効率的な新しいマシンを使っても、市場原理により、マイ二ング業者は電力消費量を減らすことはできないだろうと指摘する。
「より効率的なマシンがあっても、稼ぎ出す額が同じであれば、1台だけでなく2台のマシンを動かすことになるだろう」とド・フリース氏はいう。
それでも、暗号資産の価格は新しいマイニング機器を製造するよりも早いスピードで上昇しているため、再生可能エネルギーを利用する「引退した」古いマシンを使う方が、単に新しいマシンと入れ替えるよりも利益が大きくなると、バック氏は述べている。また、Bitcoinの強固なマイニングインフラは、電力を使い果たすといったことはなく、むしろコミュニティを支えることができると同氏は話す。Bitcoinのマイニング機器は、エネルギーを蓄え、売買で利益を出すことに役立つからである。
「価格が高騰する状況になればマイニング機器をオンにしたりオフにしたりできるし、緊急性や収益性が高ければ、人々のために電力を使って家を暖めることもできる。Bitcoinは事実上、電力網を支えることができる」とバック氏はいう。
一方、カナダ国境のすぐ北にあるUpstream Data(アップストリームデータ)の代表取締役Steve Barbour(スティーブ・バーバー)氏によると、伝統的な石油・ガス会社の中には、独自のBitcoinマイニング事業を密かに強化しているところが増えているという。
これは、Bitcoin経済が、スリランカやヨルダンのような小さな発展途上国の二酸化炭素排出量と同等であることを意味する。
バーバー氏は「現在大規模なマイニング事業の大半を占めているのは水力と石炭である。しかし、世界規模でみれば、天然ガスのような安価な電力にどんどんシフトしていくだろう。油田には、排出されるフレアや廃ガスを利用した安価なエネルギーがすでに存在しており、2021年は約160ギガワット(の採掘電力)が得られる可能性がある」という。
アップストリームデータは、石油会社がこれまで売却することができなかった廃棄物や低品質のガスを回収するという方法でBitcoinのマイニング機器の設置・運用を支援しており、北米で合計100件の導入実績がある。これらの企業のほとんどは、Bitcoinの批評家から否定的な意見を受けることを懸念し、マイニング事業について公表していないとバーバー氏はいう。
「確かに彼らは自社の評判に傷がつくことを懸念している。しかし、Tesla(テスラ)のような信頼できる大企業がBitcoinに関わっているのだから、そうした考えは間もなく変わるであろう」と同氏は付け加えた。
暗号資産業界においても、Bitcoinマイニングによる電力の大量消費が懸念され、さまざまなマイニング方法があちこちで試されている。例えば、Ethereum(イーサリアム)のコミュニティは、Bitcoinのエネルギー集約型のPoW(プルーフ・オブ・ワーク)モデルではなく、保有コインの割合によってネットワークを動かすPoS(プルーフ・オブ・ステーク)のマイニングモデルに切り替えようとしている。
その名が示す通り、PoWは多くの計算「作業」を必要とする。それがマイナーの行う仕事だ。難しい数学の問題を大量に解くため、コンピューターは大量の電力を必要とする。Ethereumに関して言えば、現在はPoWで運用されており、数年後に原理的にはPoSで運用されることになるのだが、日常的にアクティブなアドレスは数十万で、Bitcoinの半分ほどになることもある。Bitcoinと同様、中国に施設を持つ少数のマイニング事業のプロジェクトが、Ethereumネットワークの電力の半分以上を生み出している。Ethereumの1回の取引は、米国の家庭2軒が1日に使用するエネルギーとほぼ同量のエネルギーを必要とする。
ド・フリース氏は「Ethereumのコミュニティで気に入っているのは、少なくとも彼らが問題を解決する方法を考えているということだ。気に入らないのは、彼らが数年前からそのことについて語っているのに、実際には実行できていないことである」という。
Ethereumのエコシステムは、毎年、パナマの国全体に電力を供給できるほどのエネルギーを消費している。Bitcoinと同様、Ethereumの各取引にはおいしいランチを買えるほどの電気料金がかかる。Ethereumの1日の利用者数はBitcoinの利用者数100万人の半分以下だが、両ネットワークはいずれも小さな国を動かすのに十分な電力を必要とする。暗号資産の取引はVISA(ビザ)の取引よりも多くの電力を必要とすることは明らかだ。しかし、暗号資産は単なる決済会社ではない。それは、通貨システムそのものなのだ。
Bitcoinの時価総額を、通貨供給量の値を使い、1つの国としてランク付けした場合、Bitcoinは日本に次いで5位となる。これはEthereumのようなそれに次ぐエコシステムについては考慮すらされていない。つまり、世界のBitcoin経済における電力消費量は、他のいくつかの産業化された金融システムのそれに匹敵するものなのだ。新興経済国で使われている多くのシステムと同様、ド・フリース氏が指摘するように、これは非効率的である。何百万人ものユーザーがいる中、世界中の何千人ものユーザーが収入源として暗号資産に依存しているが、彼らは暗号資産のエコシステムについて概して楽観的で、技術が成熟するにつれ今より効率的になると信じている。
カナダのビジネスコンサルタントの1人Magdalena Gronowska(マグダレーナ・グロノフスカ)氏は「クリーンで進歩的な、より分散化されたエネルギーシステムへの移行において、Bitcoinマイニングはますます重要な役割を果たすと考える。マイナーは、バランスのとれた電力網や柔軟なデマンドレスポンス(需要応答)サービスを提供し、再生可能エネルギーの統合を強化することができる」と話す。
カテゴリー:ブロックチェーン
タグ:暗号資産、Bitcoin、Ethereum、電力、マイニング
画像クレジット:Visual China Group(Image has been modified)
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(文:Leigh Cuen、翻訳:Dragonfly)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2021/04/03/2021-03-21-the-debate-about-cryptocurrency-and-energy-consumption/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:katsuyukiyasui,Leigh Cuen,Dragonfly
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