SEIKO 140年の遺産と、腕時計づくりの未来。

1881年、服部金太郎が銀座で創業した「服部時計店」にはじまるセイコーの歴史は、今年で140年を迎える。これを記念した4本の限定記念モデル第3弾に込められた想いと、エポックメイキングな時計の数々、今後の腕時計作りが向かう先を占うべく取材を敢行。カギを握るのはライフスタイルの変化に伴う“腕時計の多様性”にアリ!?

*  *  *

■時代に合わせて変化を続ける腕時計づくりと変わらない「理念」

第1弾は情緒あふれる「日本の情景」、第2弾は腕時計の明るい未来を描く「光芒」、そして新作となる第3弾に創業の地である「銀座」をモチーフとした、セイコー創業140周年限定記念モデルが登場する。

「創業者の理念をどうやって具現化するかを考えながら、各シリーズのコンセプトを練ってきました」と話してくれるのは、商品企画二部・マネージャーの古城滋人さん。

140周年限定記念モデル全シリーズのプロジェクトリーダーを務め、通常はグローバルブランドのディレクションを担当している。毎回、ブランドを横断して開発をする必要があり、そのまとめ役としても苦労した甲斐もあってか、どのシリーズも大変好評を博している。

セイコー創業140周年記念限定モデル
プロジェクトリーダー 古城滋人氏

商品企画二部・マネージャーを務め、現在はグローバルブランドの戦略や企画を担当。初期アストロンの開発にも関わり、もっとも思い入れの深いモデルでもあると話す。

■最新作に込められた作り手の矜持とは!?

▲140周年限定記念モデル第1弾

特に第1弾の「夜桜」アストロンは即完売。第2弾のプロスペックスも海外から受注が殺到した。他にも、トレンドであるグリーンを文字盤に配したプロスペックス(第1弾)など特徴的なカラーリングが目立った。

▲140周年限定記念モデル第2弾

「一昔前は、グリーンダイヤルは売れないのでタブー視されていたほどでしたが、ここ数年で人気カラーとして完全に定着しましたね。第1弾のプロスペックスは西表島の深緑をイメージしたもので、もちろんトレンドも意識しています。時計づくりとカラーリングは密接に関係していて、その時代の世相を反映することが多いんです。働き方改革でスーツだけではないライフスタイルが増えたうえに、コロナ禍によって時計の着け方はさらに自由度が高くなったと感じています」

▲140周年限定記念モデル第3弾

長い歴史を持つセイコーならではの解釈ともいえる、腕時計と各時代の相関関係。デジタル最盛期の現代において、アナログ的な原点回帰ともいえる古き良き時代と最先端の象徴でもある「銀座」をモチーフとした第3弾の新作群を見ながら、その歴史を紐解いていこう。

▼国産初の腕時計「ローレル」

▲1895年の懐中時計発売以来、国産時計の牽引役として技術力を高めてきた。国産初となる腕時計「ローレル」は1913年に登場。当時の精工舎によって作られた

 

■レトロなデザインも相まって独特の雰囲気を醸し出す

<140周年限定記念モデル第3弾>
プレザージュ
「Style60’s SARY207」(6万6000円)

1964年発売の「クラウン クロノグラフ」をもとにした「Style60’s」は、レトロなボックス型ガラスなど機械式時計の魅力が味わえる。SSケース、自動巻き、ケース径40.8mm、5気圧防水、数量限定4000本

▲機械式時計の面白さを伝えるべく生まれたプレザージュらしく、裏側からもムーブメントの鼓動が感じられるシースルーバック仕様。キャリバーは「4R39」を搭載

 

■38mmという身に着けやすさと初代「アルピニスト」を再現

<140周年限定記念モデル第3弾>
プロスペックス
「1959 アルピニスト 現代デザイン SBDC151」(8万2500円)

1959年に発売された「セイコー アルピニスト」をベースに、38mmというコンパクトなサイズ感を実現。最大約70時間駆動という実用性も魅力だ。SSケース、自動巻き、ケース径38mm、20気圧防水、数量限定3500本

▲裏蓋はプレザージュと同じくシースルーバックで、「LIMITED EDITION」の表記も。スポーツウオッチらしい高い防水性を誇る。キャリバーは「6R35」を搭載

 

■情緒あふれるデザインを時計に加え機能性以外の価値もユーザーに届ける

140周年限定記念モデル第3弾に共通しているのは、秒針に緑色を帯びた柔らかなブルーの「金春色(こんぱるいろ)」を配し、ダイヤルに西洋式ストリートである銀座通りの石畳パターンが採用されているところだ。

特徴的なダイヤルパターンが放射状に広がり、光の当たり方によって多彩な表情を見せる。ブルーグレーのカラーは銀座の街を彩る近代的なビルや、建築物の現代性を表現。伝統を重んじながらも革新性を取り入れ続ける銀座の街と、セイコーのモノづくりがマッチしたデザインだ。

こうしたクラシカルな文化はレトロブームなどで若者にも受け入れられており、最先端技術との二面性として時代を反映するプロダクトでもある。

「当然、ビジネスツールとしての役割を持つ腕時計ですが、在宅ワークが増えたり、ライフスタイルが多様化したりで、求められるのが機能性だけではなくなってきています。そこで日本の情景や、第3弾でいえば銀座の街並みといった“情緒的”な部分をカラーリングなどで時計に落とし込むことが重要だと考えました」と、古城さんはデザインに込めた思いを話す。

世界初のクオーツ式、またGPSソーラー時計としてエポックメイキングなアストロン、セイコーダイバーズウオッチの系譜を継ぐプロスペックス、さらに日本の美意識を取り入れた機械式時計をコンセプトにしたプレザージュといった看板モデルたちが、時代に合わせた顔で身に着けられるのは、ユーザーにとってもうれしい限りだろう。

■常に時計業界をリードしエポックメイキングなモデルも多いアストロン

<140周年限定記念モデル第3弾>
アストロン ソーラー電波モデル SBXY023(11万円)

大胆に配されたアラビア数字、石畳のダイヤルパターンと、チタン素材の軽やかな装着感は丸一日つけていても快適。純チタンケース、ソーラー電波駆動、ケース径41.3mm、10気圧防水、数量限定300本(10月8日発売)

▲抜群の機能性を誇るアストロンの持つ実力を、「LIMITED EDITION」の表記とともに裏ぶたに刻印。「キャリバー8B63」を搭載し、高い実用性を備えた一本だ

 

<豆知識>「クオーツ式腕時計」の誕生

1969年12月25日に世界初のクオーツ腕時計「セイコークオーツアストロン 35SQ」を発売。電圧を加えると正確に振動するクオーツ(水晶)の性質を生かした時計で、この特許権利化した技術を公開したことにより、クオーツ腕時計は劇的に普及した。腕時計の新たなるスタンダードとして確固たる地位を築いた革新的機構である。

▲「セイコークオーツ アストロン35SQ」

 

■ダイヤモンドの輝きと表情を変える石畳のダイヤルに目を奪われる

<140周年限定記念モデル第3弾>
ルキア
「I Collection ワールドタイム機能つき ソーラー電波モデル SSQV098」(11万円)

白蝶貝の美しさを生かす石畳のパターンにより、見る角度で表情がきらびやかに変化。またインデックスには8個のダイヤモンドが光る。ソーラー電波駆動、ケース径28mm、10気圧防水、数量限定 300本(10月8日発売)

 

■アナログとハイテクだけではない新たな時計の楽しみ方も模索される

今後、腕時計はどのようなカルチャーに変化していくのだろうか。特に近年、スマートウォッチが出現したことで、りゅうずにすら触らない腕時計スタイルも珍しくはない。

「機械式時計のように手間のかかるヴィンテージでアナログ感のあるものを好むか、反対にハイテクなデジタルウォッチなど利便性を追求したものか、さらに細分化していくでしょうね」と古城さんは予想する。

「ファッション界でも同じことが起きていて、機能的でリラックスしたオーバーサイズの服が流行る一方で、古着やハンドメイドといった愛着の湧くものを好む傾向もあるなど真逆です」

そういう文脈で言えば、機械式時計はいま「SDGs」としてのフォーカスも当たっている。メンテナンスすることで何十年も使用できてエコなプロダクトとして再認識されているのだ。特に男性ファッションではアクセサリーが少なく、例えば同じスーツを何十年も着るということは稀。その点、お気に入りの腕時計を末永く使うというスタイルは、一周回って最先端のカルチャーともいえる。

▲「腕時計に癒やしを求めたり、自分の好きなスタイルを重ねたり、楽しみ方が増えた気がします」と古城さんは言う。機械式か、クオーツ式か、といった機能性だけではない選び方が主流になりそうだ

「特に若年層ではこうした意識は珍しいものではなく、自然とそういうものとして受け入れている気がする」とは古城さん。

「SDGsなどの意識を持った若者に機械式時計の楽しさを知ってもらうためリブランディングされた『セイコー 5スポーツ』シリーズも注目を集めています。もともと海外や年齢の高めな層で認知度の高かったブランドですが、スケボー業界とのコラボなどでかなり幅広い世代にアプローチできています」

つまり腕時計は単に時間を計るだけのものではなく、身に着ける者の主義主張やライフスタイルを表すツールとして多様化しつつあるのだ。それはカラーリングをファッションとして楽しむのはもちろん、昨今のジェンダーレスや、環境・人種問題など、さまざまな社会情勢も反映されていくことだろう。

先達の技術を受け継ぎ、新たな世代へ時計文化を伝えていく。今あるべき時計を、最高の技術で作り続ける。その矜持を腕に感じられるセイコーに141年目からも注目していきたい。

>> セイコー

<取材・文/三宅隆(&GP) 写真/田口陽介、江藤義典>

 

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