飼料配合の効率化が出発点!スマホカメラで豚の体重を測定できる「PIGI」開発の背景

デジタル化やDXという言葉を毎日のように耳にする昨今。屋外作業の多い業界では、その実現ハードルがデスクワークに比べて高そうというイメージを持つ人もいるでしょう。

これまでデジタル化を実現できていなかった畜産分野に、テクノロジーを使った変革をもたらすツールとして、豚の体重を簡単に測定できるアプリ「PIGI」をリリースしたのが、株式会社コーンテックです。

同社代表取締役の吉角裕一朗氏に、畜産業界の課題やそれを解決するために必要なこと、PIGIによって実現できることなどをうかがいました。

飼料配合の効率化のために開発

−−まず、「PIGI」開発のきっかけについて教えてください。

吉角:私たちの会社では、豚の飼料を配合するプラントの事業を手がけてきました。飼料の配合にあたっては、気温と湿度、豚の体重に応じてパラメーターを変動させていくことが理想なのですが、これまでは自動で取得できる情報は気温と湿度に限られていました。

体重のデータを簡単に取得できるようになれば正しい配合で効率的に飼料を作ることができるので、それを実現できる方法がないか探していました。

−−そこで開発したのが今回の「PIGI」ということですね。畜産関係の会社がAIを使ったサービスを開発するのはめずらしいように思います。

吉角:プラント事業は私の父が始めたもので、じつは私自身はIT畑の出身なんです。

先端技術などにも知見があったので、それらを活用できないか模索していたタイミングで、AIや3Dスキャン可能なカメラが一般化して実装しやすくなってきました。それが「PIGI」の開発につながっています。

当初はプラント事業の効率化をめざして開発したものなので、豚の体重データを出荷効率を上げるために使うことは想定していなかったのですが、そこにニーズが多いことがわかり、今回の無料アプリをリリースすることになりました。

効率化が必要とされる背景にある深刻な課題

−−そもそも、畜産で効率化が必要な理由はどこにあるのでしょうか?

吉角:根本的な部分からお伝えすると、「現状のままの畜産のあり方を続けることはできない」という問題があります。

日本は家畜用の飼料のほとんどを輸入に頼っており、1日あたり5トンの穀物を輸入しています。この5トンという数字はスカイツリー1本分の重量に相当します。

そして、穀物を育てるにはそのための土地や水が必要になります。つまり、輸入した穀物で家畜を育てるということは、間接的にほかの国の土地と水を借りることで、日本の家畜を育てているような状況といえます。

とくに水についてはあまり意識していない方が多いと思いますが、たとえば、日本が穀物を輸入しているアメリカの穀倉地帯では、土地が弱って地下水が枯れかかっている状況が起きています。

−−よく耳にする「食料自給率が低い」ということにも関連しているのでしょうか?

吉角:日本の食料自給率は40%前後といわれていますが、人間が直接口にする食べ物の自給率自体は70%近くあり、そこまで低いわけではないんです。ところが、そこに飼料として使う穀物などを含めると一気に数字が下がってしまいます。

つまり、それだけ飼料を輸入に頼っている深刻な状況があるということです。

−−世界全体としてはどのような問題があるのでしょうか?

吉角:世界では大型の家畜だけで約50億頭飼育されており、人間が食べている穀物の量よりも家畜が食べてる量のほうが多いのが現実です。

当然、穀物を育てるためにも多くの土地と水が必要となりますが、それらは有限ではありません。

−−そのような問題があるため、現状の畜産のあり方を続けることはできないということですね。

吉角:穀物を育てるために使われる資源が有限であることをを考えると、近い将来、日本でも世界でも今のような家畜の飼い方を続けることは困難になると思っています。家畜を飼うことはそれだけ資源を使い、地球に大きな負荷をかけることなのです。

だからこそ、畜産業界に携わる立場として、PIGIのようなツールを使った効率化を含め、業界を少しでもよくすることに貢献していきたいと考えています。

iPhoneで写真を撮るだけで豚の体重を測定

−−今回リリースされた「PIGI」アプリでは、何ができるのでしょうか?

吉角:AIとビッグデータを使い、画像を使って豚の体重を測定できます。

深度センサー「LiDAR」を搭載したiPhoneとiPadで利用でき、カメラで豚を撮影するだけですぐに体重が画面上に表示されます。基本機能は無料で提供しています。今後は、出荷の適性体重の豚がすぐにわかる機能や、肉質を測定できる機能も追加予定です。

体重の変化は目視ではわかりにくいものです。人間でも1日単位で今日は太ったとか痩せたということは判別できず、「なんか太ったな」と思ったときには5キロぐらい増えてるといったことがあると思います。

人間ですらそれぐらいのレンジでしか気づけないものなので、何万頭、何十万頭の豚が1か所に集まる養豚場ではなおさらです。

これまでは時間をかけて個別に体重を測るか、勘と経験に頼るしかなかった部分にPIGIを使うことで、正確かつ効率的に体重測定を行えるようになります。

−−iPhoneやiPadを使うということで、利用する側のハードルも低そうです。

吉角:デジタルツールの導入にあたっては、養豚場にはWi-Fiがないという環境面のハードルと、そもそもデジタルに慣れていない人が多いという利用者にとってのハードルの2つがありました。モバイル端末で写真を撮るだけで使えるPIGIは、その両方をクリアできるプロダクトとなっています。

−−この先、新たに実現したい機能などはありますでしょうか?

吉角:現状のサービスは、端末1台ごとに個別のアカウントで使う形ですが、今後はチームで管理できるような有料機能も追加したいと考えています。スタッフがそれぞれの端末で撮影したデータを集約し、養豚場全体での出荷状況を一覧できるようなイメージです。

また、豚だけでなく牛や鶏、海外ではヤギや羊などでのニーズも多いので、将来的には他の家畜向けのサービスにも広げていけたらいいですね。

「DX」と肩肘を張らずに進めていけばよい

−−御社の取り組みは「畜産DX」などともいわれていますが、これまであまりデジタル化が進んでいなかった業界がDXを実現するには何が大切なのでしょうか?

吉角:あまり「DX」という言葉を意識する必要はないと思います。たとえば、GoogleのサービスやDropboxを使い始めるときに、それをDXと呼んでいた人はいなかったと思います。

すでにこれだけデジタル機器やサービスが普及していて、多くの人が普通に使っている状況なので、何か特別な取り組みを実施しようと意気込むのではなく、単純に使いやすくて便利なものを選んでいけばよいのではないでしょうか。

あとは、UIやUXが導いてくれると思います。

−−最後に今後の展望をお聞かせください。

吉角:ヨーロッパでは、家畜にストレスがかからないように飼育する「アニマルウェルフェア」という概念が主流になっています。今後は、日本の養豚場でも古い設備を使っているようなところは生き残りが難しくなっていくのではと予測しています。

だからこそ、世界基準のアニマルウェルフェアに即したシステムは今後ますます必要とされていくだろうと考えています。PIGIも、アニマルウェルフェア実現のためのサービスとして、さらに展開していきたいと思っています。

(文・酒井麻里子)


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