ソフトバンクが取り組むスポーツDXとは?現場で感じたDXの可能性

さまざまな業界においてDXが進む現在。

ソフトバンクは、スポーツの自己学習ができるアプリ「AIスマートコーチ」と、専門家にオンラインでコーチングをしてもらう「スマートコーチ」の2つのサービスを展開しており、学校スポーツのDXに取り組んでいます。

今まで、多くのテクノロジーにまつわるサービスを提供してきたソフトバンクが、スポーツのDXに取り組む理由とはどんなものなのでしょうか。「AIスマートコーチ」を企画したソフトバンクの星川智哉氏にお話を伺いました。

ソフトバンクがスポーツDXに取り組むワケ

——なぜソフトバンクはスポーツDXに取り組んでいるのでしょうか?

星川:ソフトバンクは、あらゆる産業をDXし社会課題の解決に取り組んでいます。スポーツ(する・みる・支える)は人々の活気・健康・地域のつながりを通じ、ウェルビーイング(幸福)を向上させる素晴らしい産業です。スポーツDXで社会に貢献したいと考えています。

——プロスポーツとアマチュアスポーツどちらもサポートされているのはどうしてですか?

星川:スポーツ産業全体を長期的に成長させていきたいからです。元々ソフトバンクはプロ野球では福岡ソフトバンクホークス。バスケットボールではBリーグに2016年の開幕時から携わっています。プロスポーツをみてくれる人を増やすためには、スポーツの担い手である子どもたちをサポートし、「スポーツをみる・続ける環境」の整備が必要です。

——プロスポーツを発展させるには、まずスポーツそのものに関心を持つ子どもたちを増やさなければならないということでしょうか?

星川:プロスポーツのサポートをする中でアマチュアスポーツの重要性に気づかされました。しかし、アマチュアスポーツ・スポーツ教育の環境は子どもたちにとって良いとは言えません。

例えば、学校の部活動において、顧問の先生がその競技の経験がなかったり、競技の経験はあっても指導者の資格を持っていなかったりする課題があります。これにより、スポーツを「する・みる・支える」人として担っていく子どもたちがスポーツ離れしていくことを防ぐために、より良い環境を作っていきたいと考えています。

特にスマホやタブレット、GIGAスクール(編注:全国の児童・生徒1人に1台のコンピューターと高速ネットワークを整備する文部科学省の取り組み)などの環境が整備されてきたということもあり、2022年3月に「AIスマートコーチ」アプリをリリースして、今年度から本格的にアマチュアスポーツ・スポーツ教育のDXに取り組み始めました。

環境に左右されず専門的な指導を受けられるスマートコーチ

——それでは、まず「スマートコーチ」について教えてください。

星川:元プロスポーツ選手やアスリートなど、知識や経験が豊富な専門コーチから、スマホやタブレットを使って気軽にオンラインでレッスンを受けることができます。

コーチと課題を共有し自身の動画を送信すると、コーチがチャットや動画へペンや音声を入れることで動画を添削してくれます。一般のお客さまや法人のお客さまに加え、教育現場でも使えるのではないかと考え、部活動でも活用してもらえるよう教育委員会や学校に働きかけました。
導入するにあたり、遠隔での指導への不信感といいますか、「人がサポートしないのは心が通わないのではないか」「指導が上手くいかないのではないか」といった不安の声をいただいたこともありました。

しかし、導入してみると対面での指導と変わらず、生徒は遠隔で指導をするコーチとコミュニケーションが取れていました。

実際、先生からも「スマートコーチ」の導入によって生徒とのコミュニケーションが深まったという感想をいただいており、部活動のサポートツールとして有効だと感じています。

これまで55の自治体で265の部活に導入した実績(2022年3月時点)はありますが、さらに普及させていきたいですね。

子どもたちの自発的な学びを促進する「AIスマートコーチ」

——「スマートコーチ」はすでに多くの部活に導入が始まっているんですね。「AIスマートコーチ」についても教えていただけますか?

星川:「AIスマートコーチ」は、お手本動画、比較、マッチ度、振り返るという機能を使って、スポーツの自己学習ができるアプリです。筑波大学の学生やプロ選手の「お手本動画」や、個別に撮影した先輩や上手な選手の動画などと自分のフォームを上下に並べたり重ねたりしながら、AI骨格解析を用いて比較できることを特長としています。

現在無料でご利用いただけますが、我々はさまざまな学校や団体で試験的に活用していただく実証実験に取り組んでいます。

サービスは色々な場面での活用を検討している段階ですが、成長実感を持てるということがこのサービスの大きなメリットです。

中学校の部活動に導入した事例を挙げると、導入前は厳しい練習などの影響もあり、「運動は好きだけど部活動の練習は好きじゃない」子どもは少なくありませんでした。

しかし、「AIスマートコーチ」を導入したことで部活動の練習にも前向きに取り組める子どもが増えました。「向上心の高い子どもは、休み時間に自主的にAIスマートコーチを使って練習している」とのありがたいお言葉もいただきました。

また、中学校の体育の授業で器械体操の指導で導入していただいた際、「AIスマートコーチ」のお手本の動画と自分の動きの動画を見比べて、AI骨格解析をしながら生徒同士でお互いの気づいたことについて生徒同士で話し合う場面がみられました。

体育の授業では、10個のマットがあっても先生がみている1つのマット以外は好き勝手に遊んでいる、というのはよくあることです。

しかし「AIスマートコーチ」を使うと、先生が付き添っていなくても子どもたちが主体的に学べるため、先生の負担軽減や効率化が図れるでしょう。

ただ、欠点は動画をみている時間が発生して体を動かす時間が減り、純粋な運動量自体が減ってしまうことです。とはいえ、運動量は減っても効率良く運動できるようになったり、それ以上に子どもたち自身が主体性を持ってスポーツに取り組めたりするツールとしては有効だと感じています。

今は6種目(野球・サッカー・バスケ・ダンス・ゴルフ・水泳)のサービスを提供していますが、部活動という観点から考えると対応するべき競技はたくさんあります。

競技人口が多いスポーツのお手本動画は現在増やしている最中ですが、例えば弓道など指導者が少ないものについても対応していけば学ぶ機会を増やせるのではないかと考えています。

加速度的に進む部活動のDX。部活動はどう変わる?

——コロナ禍で部活動でのICTの活用はどう変化しましたか?

星川:コロナ禍で集団で集まることができないのは、スポーツにとって大きなマイナスとなりました。今は状況が改善したことで緩和されていますが、それでも自分で学ぶ部分などリモートでできる部分はICTによって実現可能だと感じています。

GIGAスクールにより、子どもたちはスマホやタブレットを使って学習する習慣が浸透したことも追い風になってます。

——最後にICTによって部活動がどのように変わるのか教えてください。

星川:ICTによる学校スポーツ改革の可能性は3つ考えられます。「指導者不足の解消」「練習の質向上」に加え、特に重要なのは「子どもたちの主体的な学び」です。ICTを通じて、主役は先生から子どもに変わります。自ら考える力が身につくと考えています。

単純に運動の効率を上げるだけではなくて、その子たち自身がワクワク、イキイキできるようにするためのサービスであることは本当に忘れてはいけませんし、ICTを用いて子どもたちの未来に貢献できることに大きな価値を感じています。

そのことを忘れないように、今後もスポーツDXを通じて社会課題を解決していきます。

<著者プロフィール>
星川智哉

1972年愛知県生まれ。
中京大学体育学部卒。大学時代はアメリカンフットボール部に所属。

東海デジタルホン株式会社(現在・ソフトバンク株式会社)入社
カスタマーセンター→広告宣伝→代理店営業→マーケティング→コンテンツ/サービス企画・推進
2017年グループとのシナジー(連携)を推進
・Yahoo!プレミアム使い放題、Yahoo!ショッピング10倍
・PayPay立ち上げをソフトバンク側から推進
2021年5Gサービス・スポーツ配信事業
・スポーツのスキル向上をサポートする「AIスマートコーチ」立ち上げ


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