【CEOインタビュー】10万人に支持される球状の子宮内デバイス、2025年にも日本展開か

生理用品はナプキン派が9割、避妊方法は不確実性の高いコンドームが半数以上と、情報不足ゆえにリプロダクティブヘルスの選択肢が限られている日本。「月経は毎月あるのが普通」で「生理痛は我慢するもの」といった思い込みも根強く、月経(排卵)をコントロールしてQOLを改善するという考えも浸透していない。

日本はピルの服用率が3%に満たない「ピル後進国」であり、IUD(Intrauterine Device・子宮内避妊用具)やIUS(Intrauterine System・子宮内避妊システム)にいたっては使用率0.3%という低さである。そんな日本で、イスラエル発のIUDならぬIUB(Intrauterine Ball)の名を冠する革新的デバイス「IUB Ballerine」が来年2025年から展開される予定だ。

左からBarelline、SEAD、PRIMAのIUB製品。これまでスティック状だった子宮内避妊具を球状にしてサイズダウン。Image Credits:OCON Therapeutics

ボール状のこのデバイスは、リプロダクティブヘルスの新たな選択肢として日本の常識を塗り替えてくれるのだろうか。開発元であるイスラエル企業OCON Therapeutics社が日本で2月に開催されたFemtech Fes! 2024に二度目の参加を果たし、IUBシリーズを出展。二度目の来日となった同社CEOのKeren Leshem氏にIUBシリーズの開発背景について話を聞いてきた。

次世代スマートIUDはボール状の“IUB”

IUBの「B」は「ボール」のこと。これまでスティック状だったIUDを球状にすることで3分の1にまでサイズダウンし、使用時の身体的負担を大きく軽減したものだ。OCON社CEOであるKeren Leshem氏は、実演を織り交ぜながら説明してくれた。

「IUBシリーズは副作用のある経口避妊薬からの脱却だけでなく、避妊手術や子宮筋腫、子宮内膜症のための侵襲的な外科手術からの脱却をも目指したものです。ステントを使って薬剤を子宮に直接送り込むという、まったく新しいプラットフォームを設計しました。デバイス本体にはそれぞれ異なる種類の薬品が不可されていて、Barellineの場合は銅によって避妊します。SEADとPRIMAには別な薬品が使用されています」。既存のIUD同様、ホルモンではなく銅イオンの作用によって卵子と精子の受精や受精卵の着床を阻害する。Barellineは99%の避妊効果があり、最長で5年間有効とのこと。

Femtech Fes! 2024で出展されたIUBシリーズ、右端が「Barelline」。青いひも状の部分はニチノール製

「薬剤溶出ビーズが通っているひもの素材はニチノールで、形状を記憶する特性があります。チューブ内を移動している間はまっすぐですが、チューブから出て子宮に到達すると同時に丸くなるんです。とても革新的な技術で、特許を取得しています」


IUDをスティック状ではなく球状にするという着想は、イスラエル出身の医学博士Ilan Baram氏が2008年に医療の現場で得たものだ。「自分のクリニックで女性たちの診療にあたっていた時に思い付いたものです。クリニックに通う患者さんたちから、IUDを使用すると痛いという苦情が絶えなかったんですね。何が問題なのか超音波で調べても、デバイスが子宮内にあることしか分かりません」標準的なT字型デバイスは子宮内で移動・回転するため、超音波では検出が難しいという。

「そこで内視鏡で確認してみると、デバイスの位置異常が起こっていたんです。これが原因で子宮が収縮していたので、激しく痛むのも当然です。それで医師はこう考えました。体内の“腔”である子宮は三次元空間なのに、二次元的なスティックがフィットするはずがない。ボールが必要なんだと」。しかし、子宮の入り口は3~4ミリほどと非常に狭い。どうすれば球状のデバイスを通過させられるのか。そこで到達したのが、素材にニチノールを採用するという設計だった。

右がIUB Barellineで左のT字型をしたものが従来の子宮内デバイス

実際に従来のT字型デバイスを見てみると、膣経由で子宮に挿入するには無理のある形状に思われた。IUDの位置異常が発生すると激痛はもちろんのこと、過剰出血の恐れやアームの先端による子宮壁穿孔の可能性もある。スティックは見るからに痛そうだと感想を伝えると、Leshem氏は「そうなんです、70年間デザインが変わっていませんしね。だからイノベーションが必要だったんです!」と、自社製品への自信を見せてほほ笑んだ。

海外で10万人が支持するIUB、ピル後進国の日本でリープフロッグとなるか

日本では、生理用品のタンポン挿入でさえネガティブなイメージがあって使用率が低く、子宮に挿入するIUDやIUSにいたっては使用率0.3%だ。そんな日本で「IUB Ballerine」をはじめとする同社の製品シリーズが受け入れられると思うかと尋ねると、Leshem氏は自信たっぷりに「もちろん」と応えた。

「このデザインを女性に見せると、自分の身体のためによりデリケートに作られていると直感的に理解してくれるんですよ。ユーザーを対象に調査したところ、最も選ばれたのはわが社の製品という結果が得られました」

新機軸デザインを打ち出したIUBは、既存のスティックタイプと異なり尖った先端や折り畳みが必要なアームもなく、プラスチックも含まない。デバイスの挿入処置を行うのは医師だが、従来製品より簡単かつ安全に挿入でき、患者の苦痛が少ないIUBシリーズは医師からも歓迎されているという。「もちろん、挿入自体は楽しい経験ではありませんが、挿入時のツールもとても細いのでこれまでのような苦痛は間違いなくありません」

製品について女性たちユーザーに対して周知・提案するうえで、医師の果たす役割の大きさについて強調するLeshem氏はさらに、ユーザーに新たな選択肢を周知するうえでメディアの存在も重要だと語る。「こうした選択肢があることをメディアの皆さんが女性たちに知らしめてくれるのは、本当に素晴らしいことです。『このボール、新聞・ネットの記事で読んだことがある』となれば、この製品について医師に尋ねてくれるはずですから。だから、こうした取材と報道は本当に重要なんです」

IUBをおさめた容器は指輪のケースそのもの。自社製品を手に笑顔のLeshem氏

リプロダクティブヘルス/ライツに関する情報の重要性

確かに、性教育に課題がある日本でこうした情報は極めて貴重だ。冒頭にも書いたとおり、日本ではリプロダクティブヘルス分野での選択肢がかなり限られている。生理用品であればナプキンユーザーが約9割と圧倒的多数。避妊方法については、不確実性が高く男性主体であるコンドームを使用する人が前年代で最も多く全体で約50%。しかも“腟外射精”というあり得ない回答が約17%(20代では約25%、30代と40代でも20%台)で2位というありさまなのだ。

また、「ピル=避妊目的」という思い込みも強い。実際には月経困難症に処方されることもあり、生理不順や生理痛の改善が期待できる医薬品だ。ピルやIUSなどで月経(排卵)をコントロールすれば、旅行や出張、受験やスポーツの試合といった大切なイベントに月経が重なって十分に楽しめない・実力を発揮できないといった事態も避けられる。

ピルで月経を抑制・操作するのは「不自然」だという感じ方もあるが、実は「月経は不要」であることは近年医学的に常識となっている。むしろ、妊娠の予定がないのに毎月生理を迎えていると子宮にも卵巣にも負担がかかってしまう。卵子は質のよいものから使われるので、「もったいない」状態でもあるのだ。平均寿命の延長と出産回数の減少によって、現代日本での生涯月経回数は明治時代の約9倍とも言われている。「自然」や「不自然」とはどういう状態なのか、考えさせられるのではないだろうか。

研究開発中の「SEAD」は異常出血などに効果があるIUS。Image Credits:OCON Therapeutics

OCON社のIUBシリーズ製品のうち「Ballerine」は避妊が目的であり月経を抑制する効果はない。同社が現在臨床研究中の「SEAD」はIUDではなくIUS(※既存のIUSは黄体ホルモンを放出する)で、こちらは異常子宮出血や大量の月経出血などの問題を解決し、ユーザーのQOLを改善するものだ。また、「PRIMA」は、子宮腔内に薬剤「レボノルゲストレル」を制御放出して異常子宮出血および避妊の両方に対して効果を発揮する。

将来的にはBallerineだけでなくSEADやPRIMAも日本で展開され、日本ユーザーのQOLを改善してくれることを期待したい。

<Keren Leshemさんプロフィール>
医療デバイスおよび製薬業界における20年以上の経験を持つ。イノベーティブなスタートアップのマネジメント、事業戦略、商品化などを専門とする。Forbes誌「女性の健康の未来を形作る3人の女性」をはじめ、各種媒体の「注目の女性CEO」などにも多数選出されている。

(取材・文:Techable編集部)


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