【バッグ迷子からの脱却白書】
上野恩賜公園の西側、閑静な住宅街の一角に店を構える「池之端銀革店」。セレクトショップとしての側面を持ちながら、オリジナルレザーブランドCramp、Dual、Haruを展開する革製品の専門店です。

職人の技術に裏打ちされたモノづくりにより、素材としての革が持つ本来の魅力を丁寧に引き出したプロダクトに定評があります。この地に根ざして20年、レザー愛好家から厚い信頼を集めてきました。
同社のアイテムは、どのような工程を経て作られているのか。その背景を見ていきましょう。

「天然の素材なのでどうしても細かな傷やシワは入っているんです。だから、バッグで言えば表に出るメインのパーツはできるだけ状態の良い部分から取る。逆にポケットの内側など見えなくなる部分には多少傷やシワのある箇所を使う。その見極めを、まず裁断の段階でやってもらっています」そう語るのは、池之端銀革店の代表・小野勝久氏。
革製品の品質は最初の裁断で大きく左右されます。天然の革は部位ごとに繊維の密度が異なり、いわゆる“モモケツ”と呼ばれる部位は繊維が締まり、強度に優れます。一方で腹部は繊維が粗く、伸びやすい特性も。さらに、繊維の流れには方向があり、それを無視すると完成後の歪みや伸びに繋がってしまいます。
▲お腹周りやシワ・傷のある生地をどう活用できるかが製品の出来や価格に直結。職人の目が試される
「伸びにくい方向と伸びやすい方向があるんです。その向きを見極めて裁断していく。人間と同じで、緩んでいる部分はどうしても弱いですから」その判断は極めてシビア。と言うのも、革の使い方ひとつで製品のコストが大きく変わるから。傷を避け首周り特有のシワである“トラ”を排除しようとすれば、素材の約3分の1を無駄にすることも。完成サイズに対して1.5倍の革で済むか、あるいは2倍必要になるか。その差はそのまま製品価格に直結します。
「傷を全部避けてほしい、トラも入れないでほしい、となるとどうしてもロスは増える。その分、革代として乗ってくる。だからこそ、信頼できる裁断職人の存在は大きいんです」

裁断には約2トンの圧力をかけて型抜きする“クリッカー”と呼ばれる機械が用いられます。しかし、機械そのものよりも重要なのは、どこを切り出すかという判断。傷やシワを避けるだけでなく、仮に含まれる場合でも完成時に目立たない位置へ配置することを想像しながら裁断を行います。
「ボタンを押せば誰でも裁断自体はできます。でも、それだけでは職人とは言えない。良い取り方ができて、なおかつ速い。それを両立できて初めて“一人前”です」

裁断は1回あたり数十円から100円程度の単価で積み重ねられ、1日に何千回もの作業をこなさなければならず、精度と同時にスピードも求められる作業。素材の見極め、配置の判断、そして作業効率…そのすべてが揃って初めて革製品の品質は成立します。「裁断は単なる前工程ではなく、完成度を左右する重要な起点」だと小野さんは話します。

裁断された革は縫製職人の手に渡り、ひとつひとつ手作業で縫い上げられていきます。ここでも重要になるのが、職人との関係性。
「“ざっくりとこの雰囲気で”、“この感じでこう(仕上げてほしい)”と伝えると大体120点で仕上げてくれる。そういう職人さんの存在に支えられています」
そう語る小野さんの言葉からも単に発注側・受注側というだけではなく、信頼関係の中で成り立つモノづくりであることがわかります。

縫製には厚物に対応したパワーのあるミシンが使われますが、そのまま縫うのではなく縫い幅や仕様に合わせてアタッチメントを自ら削り、細かく調整する必要があるそうです。さらに、ガイドに頼らず感覚だけで革巻きを縫い上げるなど、求められる技術と精度は非常に高いもの。こうした職人の手仕事によって、裁断された革はようやく製品としての輪郭を持ち始めます。
「池之端銀革店」の大きな特徴のひとつが“製品染め”を自社で行っている点。元々外部に委託していた工程ですが、需要の拡大により既存の体制では対応しきれなくなったことを契機に廃業の危機にあった染め工場へ足を運び、高齢の職人の下で技術を修得するに至った経緯があります。
▲高齢で廃業を考えていた染め職人の下で5年程修行した伊藤さん。確かな技術を継承している
この染め工程では効率と仕上がりの両立が図られています。「一般的には革を水で濡らしてから染めることが多いのですが、ウチでは乾いた状態から50度のお湯で染めています。吸い込みが良くなることで作業時間を短縮でき、仕上がりも安定します」と製品染めを担当する伊藤さんは言います。

染色の工程は一見シンプルですが、実際には繊細なコントロールが求められます。動かしすぎれば革を傷めてしまい、逆に動かさなければムラが生じる。そのバランスを見極めながら適切な動きを保ち続けることが重要です。何気ない口調で語られるその言葉の裏には、長年の修業によって培われた確かな技術が息づいています。
また、化学染料には保湿のための薬品を加え、乾燥時に革が過度に硬化するのを防ぐ必要があります。しかし、その配合は容易ではなく革の状態や気温などの条件を見極めながら調整しなければなりません。ここでも受け継いだ技術が光ります。

乾燥工程においても納期短縮を目的とした人工乾燥機は用いず、あえて約1週間の自然乾燥にこだわっているそうです。ひび割れや縮みの発生を抑えるために、その時間は惜しみません。

最後の仕上げが“バフがけ”と言われるもの。革用ワックスを塗布し、機械で表面を磨き上げることで光沢や手触りに変化を与えると同時に、色止めの役割も担っています。この工程で使用する機械は、一般的な靴磨き用と比べてバフ(磨く部分)の幅が広い特注品。
バフがけをすることで革に意図的な濃淡を生み出せ、程良い使用感、所謂ヴィンテージな風合いが付与できます。この工程は仕上がりを大きく左右する繊細な作業なのだそう。
▲画像上部がバフがけ前、画像下部分がバフがけ後。ツヤ感とともに表情が生まれたのがわかる
「当たりを強くしすぎると、極端なムラになってしまう。一度濃くなった部分は戻せないので、全体を均一に仕上げられるよう調整していきます。すべて感覚で行う作業なので、大事なのは培った経験ですね」
全体の均一性を保ちながらも、製品の表情としての僅かな濃淡は残す必要があります。そのバランスを取る最終工程は数値ではなく職人の感覚、“手の加減”によって成立しているのです。
▲幾人もの職人の手を渡り完成する「池之端銀革店」の製品たち
* * *
「ウチより安いところもあれば、高いところもある。仮に4万円のものと5万円のものが同じ数売れるなら、5万円にしたほうがいい。でも、手間や革の質といった原価の積み上げでしか自信を持って値段を付けられないんです」と小野さんは語ります。
▲「池之端銀革店」代表の伊藤さん
自身を“慎重なタイプ”と笑うその言葉の裏には、無理に価格を引き上げない理由・理念があります。
「価格は上げられるかもしれない。しかし、それによって受注が減れば、職人たちの仕事量は不安定になってしまう。同社には常時10名以上の職人が関わっているため、1年を通して仕事を出し続けることもまた重要な役割。仕事が減れば関わる職人の数も減ってしまう、それでは意味がない。利益だけではなく、継続的にモノづくりをし続けること。その両立を考えた結果が現在の価格設定」とも教えてくれました。
「正直者なの。ウチは正直者だから、ね」
そう言って笑う小野さんの表情には、長年職人たちと二人三脚で真摯にモノづくりと向き合い続けてきた覚悟が滲みます。

【店舗情報】
「池之端銀革店」
住所:東京都台東区池之端3-4-20 河津ビル1F
営業時間:12:00~19:30
定休日:水・木
>> 池之端銀革店
<取材・文・動画/山口健壱(GoodsPress Web)>

山口健壱|キャンプ・アウトドアと動画担当。2年半ほどキャンプ場をぐるぐる回って、回り回ってGoodsPress Web編集部所属。“キャンプの何でも屋”としてキャンプを中心にライティング、動画製作、イベントMCなどを行う。来夏、富士登山を目標にまずは減量から。
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