景気後退の絶え間ない脅威にもかかわらず、2019年はベンチャーキャピタル投資が多くの地域で非常に活発だった。もちろんサンフランシスコは世界のスタートアップの震源地であり、投資に関しては他のすべての地域を圧倒している。ただ他の地域も成長を続けており、今年はこれまで以上に多くの資金を集めた。
スタートアップの新しい集積地であるユタ州では、Weave、Divvy、MX Technologyなどの企業が、非公開市場で投資家から総額3億7000万ドル(約400億円)を調達した。北東部では、ニューヨーク市で記録的な取引件数を記録し、取引金額の中央値も着実に上昇している。ボストンでは、2010年代の締めくくりの年に、1億ドル(約109億円)を超える公表案件が10件以上あった。美しい太平洋岸北西部に位置するシアトルは、テック企業の巨人、Amazon(アマゾン)とMicrosoft(マイクロソフト)の本拠地だ。シアトルがいよいよその潜在力を十分に発揮する兆候があるとして、VCの関心が高まっている。
PitchBookのデータによると、シアトルのスタートアップは2019年、約375件の取引で合計35億ドル(約3800億円)をVCから調達した。2018年は346件で30億ドル(約3300億円)、2017年は348件でわずか17億ドル(約1800億円)で、2019年はいずれの年と比べても増加した。最近のシアトルの成長は、数社の急成長が大きく寄与している。
Convoy(コンボイ)は、トラック運転手と荷物の送り手を結ぶデジタル貨物ネットワークで、先月4億ドル(約430億円)のラウンドを完了し、バリュエーションは27億5000万ドル(約3000億円)になった。この取引はいくつかの理由で注目に値する。第一に、PitchBookによれば、シアトルに拠点を置く企業にとしてはここ10年で最大のベンチャーラウンドだった。今回のラウンドで、Convoyはシアトルで企業価値が最も高い企業のリストの上位に躍り出た。2018年に大規模なシリーズDで資金調達したOfferUpの14億ドル(約1500億円)のバリュエーションを上回った。
同社は、AmazonのCEOであるJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏、Salesforce(セールスフォース)のCEOであるMarc Benioff(マーク・ベニオフ)氏、U2のBonoとThe Edgeを含む多数の著名な投資家を魅了している。2015年の創業以来、同社は総額6億6800万ドル(約730億円)以上を調達した。
Remitlyはシアトルに本社を置くフィンテック企業で、シアトルのスタートアップエコシステムの発展に貢献している。国際送金が専門で、Generation Investment Managementがリードした1億3500万ドル(約150億円)のシリーズEでエクイティを、今年初めにBarclays、Bridge Bank、Goldman Sachs、Silicon Valley Bankからデットで8500万ドル(約92億円)を調達した。エクイティラウンドには、Owl Rock Capital、Princeville Global、Prudential Financial、Schroder&Co Bank AG、Top Tier Capital Partners、さらに、既存投資家からDN Capital、NaspersのPayU、Stripes Groupも参加した。このラウンドで、同社のバリュエーションは10億ドル(約1090億円)近くになった。
コワーキングスペースプロバイダーのThe Riveter、不動産ビジネスのModus、同日配達サービスのDollyなどの有望なスタートアップも最近になって投資を引きつけている。
長く切望されたシアトルのスタートアップの隆盛には、他の要因によるところも大きい。Stripe、Airbnb、Dropboxのような優良企業は、Uber、Twitter、Facebook、Disneyなどの多くの企業と同様に、シアトルにエンジニアリングオフィスを構えている。当然これによって豊富なエンジニアを集めることができた。エンジニアの確保は、成功するテックハブの構築に欠かせない要素だ。近隣のワシントン大学からのエンジニアのパイプラインは頭脳の供給に不足がないことを意味する。
シアトルは長年、優秀な人材であふれているが、ほとんどがMicrosoftとAmazonで働いている。問題は、高収入が得られるギグワーカーを辞めてリスキーなベンチャーで働こうとする人材と、起業家の不足だ。シアトルのベンチャーキャピタリストにとって幸運なことに、スタートアップの世界に企業から労働者を誘致するための新たな取り組みが進められている。今年初めに紹介したPioneer Square Labs(パイオニアスクエアラボ)は、この動きの代表例だ。シアトルの独自性ある起業家のDNAを擁護するというミッションのもとPioneer Square Labsは2015年に設立され、太平洋岸北西部に本社を置くテック企業の立ち上げや資金調達を支援している。
RSLやMighty AIの創業者であるGreg Gottesman(グレッグ・ゴッテスマン)氏を含む創業経験者とベンチャーキャピタリストで構成されるPSLのチームは、「スタートアップスタジオ」モデルの下で、スタートアップのアイデアの創造・育成や、ビジネスをリードする創業CEOを彼らのネットワークから探し、採用することに取り組んでいる。シアトルは、世界で最も企業価値の大きい2つの企業の本拠地だが、期待したほど多くの創業者を生み出していない。PSLは、リスクの一部を軽減することで、アマゾンの元シニアプロダクトマネージャーで現在はBoundlessのCEOを務めるXiao Wang(シャオ・ワン)氏のような将来の創業者の育成が促進できるのではと期待している。
「スタジオモデルは99%の人にとって非常にうまく機能する。『ちくしょう、会社を始めなければ』と考えるようになる」とPSLの共同設立者であるBen Gilbert(ベン・ギルバート)は3月に語った。「素晴らしい起業家というのはそういう人達だが、スタジオが触媒として機能しなければ、彼らは起業しようとしないかもしれない」。
Boundlessは、PSLからスピンアウトした成功例の1つ。複雑なグリーンカード取得プロセスを支援する同社は今年初め、Foundry GroupがリードしたシリーズAで780万ドル(約8億5000万円)を調達した。既存投資家からは、Trilogy Equity Partners、PSL、Two Sigma Ventures、Founders ‘Co-Opが参加した。
シアトルのMadrona Venture Groupなどの古くからの機関投資家は、シアトルのスタートアップコミュニティを発展させるために一定の役割を果たしてきた。Madronaは今年初めに1億ドル(約109億円)のAcceleration Fundを立ち上げた。次の取引は「庭の外」で行う予定だが、同社は引き続き太平洋岸北西部のスタートアップの最大の支援者の1つだ。1995年に設立されたMadronaのポートフォリオには、Amazon、Mighty AI、UiPath、Branchなどがある。
シアトルに拠点を置くもう1つのVCであるVoyager Capitalも、太平洋岸北西部の投資に向け今年1億ドル(約109億円)を調達した。Starbucks(スターバックス)を率いたHoward Schultz(ハワード・シュルツ)氏が共同設立したベンチャーキャピタルファンドであるMaveronは5月、アーリーステージのコンシューマースタートアップへの投資に向け、さらに1億8000万ドル(約200億円)を集めた。Flying Fish Partnersのような新しいVCも、有望な地元企業への投資に忙しい。
まだまだ語るべきことがある。シアトルに拠点を置く資金豊富なエンジェル投資家がスタートアップエコシステムの拡大に果たす役割の拡大や、シリコンバレーのトップファンドのような、シアトルの人材に資金を投入する非ローカルの投資家などだ。要約すると、シアトルのスタートアップ関連の取引は、優秀な人材、新しいアクセラレーターモデル、燃料補給したベンチャーファンドのおかげでようやく活発になってきた。シアトルのスタートアップコミュニティが今の成長期をどのように活用し、トップに躍り出るスタートアップがどこなのかを見届けよう。
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(翻訳:Mizoguchi)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2020/01/01/2019-12-30-in-the-shadow-of-amazon-and-microsoft-seattle-startups-are-having-a-moment/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Kate Clark
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