ニューヨーカーの標準スマホ
誰もが憧れたブラックベリー
ブラックベリーはカナダの旧RIM(リサーチ・イン・モーション)が開発したスマホだ。もともとは1996年に発売したページャー、つまりポケベルタイプの製品だった。QWERTYキーボードを備え双方向にメッセージを送受信できることからビジネスユーザー層に利用者は広まっていったのだ。その後は電子メールに対応し、縦型スタイルというブラックベリー固有の本体デザインを確立した。
ブラックベリーは電子メール用に専用のサーバーを使い、本体を紛失したときも拾得者が悪用しようと考え本体の電源を入れてパスワードを10回間違えるとデータが全部消えるという、高い安全性を提供した。それゆえ大手企業の多くが採用した。ニューヨークやロンドンの金融街を歩けば、右も左も誰もがブラックベリー、そんな時代があったのだ。
また政府や軍関係者にも利用されるほど高い信頼を得ていた。2009年に第44代アメリカ大統領に選出されたオバマ大統領はブラックベリーのヘビーユーザーだったが、ホワイトハウスでは別の端末を使わねばならず、継続して自分のブラックベリーを使えるようになったものの、メール送受信者が10名に限られてしまい不満だらけだったっというのは有名な話だ。
やがてiPhoneやAndroidスマホが出てくると、ブラックベリーもスマホへの転身を図っていった。2013年にはアプリが使える「BlackBerry 10 OS」を発表、2015年にはAndroid OSを搭載し、スライド式のキーボードを搭載した「Priv」を発売した。このPriv以降、ブラックベリーのスマホはサムスンやファーウェイのスマホ同様に、市場で出回っているアプリを自由に入れて使えるようになっていったのだ。だが同時に市場ではキーボードスマホ熱が一気に冷めていってしまったのだ。ブラックベリーのPriv以降、ブラックベリー以外の大手メーカーからキーボードスマホが出てくることは無かったのだ。
キーボードスマホはニッチな存在
スタートアップから次々と新製品
Android OSを搭載したブラックベリースマホは合計10機種が出てきた。しかしその内訳を見ると、キーボードスマホは4機種、キーボードの無い普通のスマホが6機種と、実はブラックベリー自身からもキーボードスマホの数は減っているのだ。そしてPrivのあとに出てきたキーボードスマホ「Keyone」、その後継機「KEY2」「KEY2 SE」はブラックベリーではなくTCLが製造を行った。TCLはアルカテルブランドのスマホを出しており、ブラックベリーも手掛けることでブランド力アップとスマホの販売増を狙ったのだ。
しかしブラックベリー以外のキーボードスマホが出てこなかったということは、TCLががんばってキーボード付きのブラックベリーを出しても販売数増はおろか、世界中の多くの消費者に新製品をアピールすることはできなかったということなのである。
ではキーボードスマホはこの世の中から全滅してしまったのだろうか?実は2018年以降、キーボードスマホはいくつかの製品が出てきている。しかしそれらはすべてクラウドファンディングを使ったスタートアップ系の製品ばかりだ。またスタイルは横型のものが多く、キーボード付きスマホと言ってもブラックベリーとは似ていない、全く別の形状をしている。
一方、ブラックベリー型スマホを求めていた「キーボード難民」を喜ばせたのが中国Uniherzの「Titan」だ。Uniherzは超小型スマホなどを手掛ける中国の新鋭メーカーだが、Titanはクラウドファンディングで資金調達を行った。つまり購入者を一定数集めなければ製品化できないとメーカーが考えるほど、キーボードスマホを求める消費者の数は減っていたのだ。
Titanは無事製品化された。ところが実製品を見てみると、本体サイズは92.5×153.6×16.65mmとかなり大きく、重量も303gと重戦車級だった。写真ではブラックベリーのように片手で持ててポケットにも入るスタイリッシュなキーボードスマホに見えたのに、現実はそうではなかったのだ。小型で押しやすいキーボードを作るコストも馬鹿にならず、同社の技術ではこのサイズで製品化するのがやっとだったのだろう。
TCLのブランドでスマホを展開
世界シェア奪回を目指す
TCLのスマホ事業はアルカテルブランドのスマホが格安スマホとして世界中で人気となり、一時期は世界シェア10位以内にはいるほど好調だった。しかし今では数多くの格安スマホが生まれ、ハイエンド製品を持たないアルカテルのスマホは人気が急落。ブラックベリーも売れずTCLのスマホ事業は大苦戦している。
そこでTCLが打ち出したのはスマホブランドの再構築だ。2019年9月にTCLブランドのスマホ「TCL PLEX」を発表。4800万画素カメラを搭載し、TVメーカーとしてのTCLが開発した美しい映像表示技術NXTVISIONを採用している。価格は日本でも3万円弱と手ごろ感があり、「新生TCL」を十二分にアピールできるスマホだ。
また2020年1月にはCES 2020で「TCL 10」シリーズ3モデルを発表。いずれも500ドルを切る価格設定で、「TCL 10 5G」は5Gにも対応する。2020年は世界的に5Gの普及が本格化する年であり、日本でも3月からドコモなどが開始する。現在海外で販売されている5Gスマホはほとんどが10万円以上であり、TCL 10 5Gの価格はそれらの約半額という、驚異的な安さである。
TCLのスマホ事業は、格安なアルカテルスマホを大量に販売することで利益を上げてきた。しかしアルカテルスマホが売れなくなった今、新たにTCLの名前を前面に打ち出し、新しいスマホブランドとして再起を図ろうとしているのだ。そして「ブラックベリー」「キーボードスマホ」の人気が落ちてしまったとなれば、ブラックベリースマホの製造から撤退するのも必然なのだろう。
ブラックベリーはTCL以外にも数社にブランド契約を結び、ブラックベリーブランドのスマホを提携企業が製造・販売してきた。しかしそちらも新製品はでてきておらず、このままブラックベリーの名前を付けたスマホは市場から完全に消え去ろうとしてる。これも歴史の流れとはいえ、古くからのブラックベリーファンでもある筆者にとってさみしい限りだ。しかし一度は市場から撤退を余儀なくされたノキアのスマホが復活したように、ブラックベリーの名前を付けたスマホがまたいつか市場に出てくることを望みたいものだ。
- Original:https://www.digimonostation.jp/0000121641/
- Source:デジモノステーション
- Author:山根康宏
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