2017年に起業し事業開始前にも関わらず2000万円を調達したSEAMの石根友理恵氏。しかし、1年弱かけて進めていた子ども向け知育動画事業を本リリース直前にピボットしてしまう。「次は絶対に失敗できない」と50個以上の事業案を考えた結果、たどり着いたのが漬物のD2Cブランド「和もん」だった。
なぜ動画事業から漬物D2Cに?起業からサービスリリースに至るまでの背景を聞いた。
プロフィール
石根友理恵:株式会社SEAM CEO。神戸大学卒業後に新卒でサイバーエージェントへ入社株式会社ワンオブゼムに転職しスタートアップ業界に入り、その後、フリーランスとして複数の企業でマーケティングや広報を担当し、起業。2017年5月に子ども出産。会社経営しながら子育て中。
Twitter:@yurieru1115
生と死の間で「世の中に家族と事業を残したい」と思うように
石根氏が起業したのは2017年。フリーランスとして順風満帆に働いていた彼女が経営者を志したのは、「父親の突然の死」と「自身の妊娠」がきっかけだった。
「数年前に父親が突然亡くなったんです。あまりにも急な出来事だったので『人は明日にでも死んでしまうものなんだ』ということを改めて実感しました。その一方で2016年、27歳のときに自分の妊娠が発覚しました。生と死を見つめる中で、『生きた証として自分が死んでもずっと残るものを残したい』と強く思うようになりました」。
「そしてたどり着いたのが『家族』と『事業』でした。家庭を持ちながら後世に残る企業をつくる。そういう人生を生きようと決めて起業しました」。
妊娠中に起業をすると決心。まずは出産までできるだけ働いて貯金をしたそうだ。
「起業後に数年無収入でも生計が立てられるよう、なるべく貯金することを意識しました。実際に今は給料はほとんど入っていませんが、そのときの貯金で生活をしています。また、フリーランス時代の実績で事業開始前に2000万円の資金調達をすることができました」。
YouTubeで子ども向け知育動画事業を始めるも1年弱でピボット
最初に始めたのは子ども向けの動画事業。今やYouTubeをはじめとした動画コンテンツは子育てに欠かせない存在となっている。だが、数多くある動画の中には子どもに悪影響なものが少なくない。そこでYouTubeでの知育動画事業をはじめることに。しかし、構想から1年弱でピボットすることになる。
「動画カメラマンやディレクターなどのスタッフを集めてテストマーケもし、『いざコンテンツを量産し舵を切ろう!』としていた、まさにそのとき自分の中でこの事業に対する不安が募ってしまいました。
その理由は2つあります。1つ目はYouTube市場のエンタメ領域の参入が激化し、テーマであったIPを使用しない知育動画では伸びにくくなっていること。多くのタレントや高コストで高クオリティ動画、オリジナリティを持ったキャラクターIP動画が次々と出てきて、競合に勝てるイメージを持てませんでした。2つ目はこの事業で自分が人生をかけられる自信がなかったこと。やらない言い訳を並べていただけで、もっとも大きな要因は後者です」。
だが、メンバーに事業を考え直したい気持ちを言い出せないまま3カ月が過ぎてしまう。意を決して打ち明けると、意外にも「石根さんがそう思うならきっとそうだと思います。気持ちを尊重します」と前向きな返答が返ってきた。
「めちゃくちゃ裏切り行為だと思ったし腹切りする覚悟だったのですが、予想外の反応で驚きました。そのときに初めて、まだ事業が始まってもないスタートアップ企業にも関わらずみんなが仲間になってくれたのは、『私の考えていることに共感してくれたから』だと気づいたんです。だからピボットしたいという意見にも納得してくれたんだと思います。今考えればメンバーのことを信じて、もっと早く伝えられたらよかったと反省しています」。
漬物マーケットは新たな変化が起きていないからこそD2Cの可能性を感じた
動画事業のために集めたチームは解散することに。
「新しい事業はもう失敗できないので、次は清水寺の舞台に飛び降りるつもりで臨みました。3カ月かけて事業案を50個ほど考えた結果、たどり着いたのが『漬物D2C』です」。
漬物のマーケット規模は2019年で約3200億円。2000年から約10年で1000億円ほど下がっているが、それからは横ばいが続いている。販売チャネルの多くが量販店やスーパーで、シェアの6割は大手数社が占有。
一方で、市場の半数以上は中小企業や家族経営だ。作り手が高齢化したり機械の老朽化したりして閉店する店舗も多い。新たなイノベーションが起きていない市場だからこそ、D2Cの可能性を感じたそうだ。
「人生を賭けて漬物D2C事業を始めよう」。その気持ちの背中を押したのは、やはり父親と子どもの存在だった。
「父親は亡くなる数年前から食が細くなり体重が落ちていたようです。食欲がな苦なり栄養が不足し、精神的にも肉体的にも弱ってしまう悪循環に陥っていました。さらに私自身も先ほど話したとおり妊娠中にたくさん働いていたら貯金は増えたけれど、体に問題が起きる事態に。お腹の中の赤ちゃんに栄養がいき渡らず胎児発育不全という病気にかかってしまいました」。
「これらの経験を経て、『食と栄養』について真剣に向き合ったビジネスをしたいと思い、栄養価の高い健康的な食べ物である漬物を選びました。自分自身が大好きだったのも大きな理由の1つです」。
パートナー探しはネットやタウンワークより、Facebookの投稿が一番効果的だった
事業内容が決まり最初に動いたのは、製造先のパートナー探し。
「まずはインターネットで『漬物』『製造』などと検索して出てきた会社へ順番に電話をしました。30社ほどテレアポしましたが成果はゼロ。次にタウンページを取り寄せて200社ほどの業者に電話をかけたけれど、これも全然うまくいかず。『今どき漬物は売れないからやめたほうがいいよ』なんて言われる始末でした」。
「最終手段としてFacebookに『漬物屋さんか漬物屋さんのお知り合いの方はいませんか?』と投稿しました。ダメ元だったんですけど、意外と一番リアクションがありました(笑)」。
そして、Facebookの投稿を見た友人の紹介で漬物の製造業社を紹介してもらえることに。紹介していただいた地方の製造会社を飛び回るうち、そのうち1社が閉鎖的な漬物業界を一緒に変えたいと快諾してくれた。
「実際に動いていてわかったのは、日本のものづくりは人のつながりが大事だということ。何者かわからない一見さんより、紹介のほうが仕事につながりやすいんです。だから商品の監修も知り合い経由の管理栄養士さんと老舗の寿司屋さんの料理人にお願いすることにしました」。
D2Cはビジネスの総合格闘技、「参入障壁が低い」なんて嘘!
製造元がわかったあとも、前途多難な日々は続く。
「まずD2Cの知識がまったくありませんでした。なのでしばらくは商品自体や入れ物、パッケージの平均価格や原価をリサーチする日々。インターネットに載っている相場を鵜呑みにしてしまうとどんどん値段が高くなってしまうので、展示会に足を運んだり、タウンワークで直接仕入れ先に連絡するなどでして、なんとか予算内で作ることができました」
「ビジネスの総合格闘技」と言われるD2C。しかしECやグロース、在庫管理など物流のすべてを行う必要があり「よく『D2Cは参入障壁が低い』と言われているけど、嘘でしょ?とつっこみたくなる日々です(笑)」と語る。
2019年7月より本格始動した漬物D2Cブランド「和もん」は4月15日からmakuakeで事前登録を開始し、5月15日にサービスサイトをオープンする。
「リリースしたあとも地道なマーケティング、商品改善が続くと思います。一気にブレイクすることはまずないので、着実に積み上げて商品のブランドを作っていく予定です。そして、和菓子や干物など横展開して日本のものづくり産業に変革を起こしたいです」。
- Original:https://jp.techcrunch.com/2020/03/18/seam/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Hiro Yoshida
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