変態的腕時計世界=ビザールウォッチVol.15 Breguet/マリーン トゥールビヨン エクアシオン マルシャント5887

●What’s ビザールウォッチ? 

針も読めなければ、現在時刻もわからない奇妙すぎる時計たち。変態的腕時計=ビザールウォッチ。腕時計とは「時刻を知り、また時間を計るのに使う、腕にのせる器機」である。ところが現代の高級時計の世界には、最高峰の時計技術を駆使しているにも関わらず、針も読めなければ、現在時刻もわからないという“ 奇妙な時計”が生まれている。それこそが「ビザールウォッチ」。誰もが忙しく暮らすスマートフォン時代に現れた、時間を豊かに楽しむための“ 最高の贅沢品”である。
機械式時計は、メカニズムが複雑であるほど時計の価値が高まり、価格にも直結する。しかし複雑な時計機構に遊び心を加えると、ビザール度がぐっと高まってくる。高級時計を知りすぎた人がたどり着く末路へようこそ!

<今月の時計>
Vol.15
Breguet
マリーン トゥールビヨン エクアシオン マルシャント5887

失われた“本物の一日”を追い求める

一日は24時間。その長さが変化することはない。しかし実は古代の一日は、日々長さが変化していた。現代社会が成熟する過程で、どこかに置き忘れてしまった“本物の一日”を可視化させる不思議な時計がある。

Breguet
マリーン トゥールビヨン エクアシオン マルシャント5887

現代の時間を離れ、本物の時間に触れる

作家ミヒャエル・エンデの名著「モモ」は、時間どろぼうに時間を盗まれたことで心の余裕を失った人間と、盗まれた時間をとりかえしてくれた女の子の物語。幼少期に読んだことがある人も多いだろうが、時間に追われる現代の大人にとっても、時間の意味を改めて理解するきっかけになるかもしれない。というのも“盗まれた時間”というのは、物語の中だけの話はないのだ。

そもそも時間の始まりは、太陽にあった。太陽の動きが作り出す影を観察することで、時間の流れを知ったのだ。そして太陽の南中(太陽が最も高くなる=影が短くなる)から次の南中までを「一日」とした。これを「真太陽時」と呼ぶ。太陽で一日の長さを計測しているうちに、真太陽時の長さが微妙に変化していることに気が付いた。実は太陽の動き、すなわち地球の自転周期は一定ではないのだ。これは地球の公転周期が楕円形になっていることから生じる現象で、太陽に近くなると自転が速くなり、離れると自転が遅くなる。そのため太陽が作り出す一日の長さは、常に変化しているのだ。

「ブレゲ」の創業者は、“時計を2世紀進化させた”と称される天才時計師アブラアン-ルイ・ブレゲ。この「マリーン」コレクションは、彼がフランス海軍御用時計職人であったというルーツを、デザインや防水性に反映している。

時間が社会システムに組み込まれていなかった14世紀までは、時間は目安でしかないので、一日が延び縮みしても問題はなかった。ところがその後、機械式時計が発明されると、時針がくるりと一周する一日の長さを機械的に決める必要が生じる。そこで真太陽時を平均化して、“ルール上の一日の長さ”を決めた。これを「平均太陽時」と命名し、現代まで続くシステム上の時間の基準となっている。

平均太陽時は厳密に管理されており、現代社会を円滑に動かす基準として使われている。つまり平均太陽時は、忙しい時間の象徴でもある。逆に太陽が作り出す真太陽時は、のんびりとした時間の象徴といえる。つまり現代人は、便利な世の中と引き換えに、伸び縮みする曖昧な時間を“盗まれ”てしまい、心の余裕を失ってしまったのだ。

ケースバックから見えるムーブメントには、羅針盤や帆船の姿をエングレービングしている。パーツは斜面まで丁寧に磨いており、工芸品のような美しさがある。

実は一年に24時間になる日は4回だけ

いまさら曖昧な真太陽時の世界に、逆戻りすることはできない。しかし太古のノンビリとした時間を感じていたいという人には、ブレゲ「マリーン トゥールビヨン エクアシオン マルシャント5887」という時計をお勧めしたい。

そもそも高級時計の世界では、時分針が示している平均太陽時とは別に、真太陽時との時間差(均時差)を示す「イクエーション・オブ・タイム」という機構が存在している。名門時計ブランド「ブレゲ」は、この機構を視覚的に進化させた。永久カレンダー機構とイクエーション・オブ・タイム機構を組み合わせ、先端に太陽のモチーフがついた針が、日の流れとともに左右に動いて、その日の均時差を示すようになっている。均時差はマイナス16分からプラス14分の間で動くので、太陽針が10分位置にあれば「本当の今日は、いつもより10分長い」ということになるし、55分のところにあれば「5分短い」となる。ちなみに0分に太陽針がくると、平均太陽時と真太陽時の誤差がゼロということになるが、実は一年を通して太陽が作る1日がきっちりと24時間になる日は、なんと4回しかないという。

正確無比の時間が現代社会を円滑に動かしているのだから、追いかけられるように感じるのは無理もない。しかし本物の時間は、もっと自由で曖昧なものだった。先行き不透明な時代だからこそ、ちょっと肩の力を抜いて、曖昧な時間と戯れるのもいいだろう。

この時計には、高精度機能トゥールビヨンも搭載。機構を丸ごと回転させて重力の影響を相殺する複雑機構は、初代ブレゲが1801年に考案したものだ。

Breguet
マリーン トゥールビヨン エクアシオン マルシャント5887

自動巻き、18KRGケース、ケース径43.9㎜。23,280,000円。
問 ブレゲ ブティック銀座 ☎03-6254-7211
https://www.breguet.com/jp

篠田哲生が断言するビザール度!
視認性★★★★★5
メカニズム★★★★★5
コンセプト★★★★★5
プライス★★★★★5


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