サヨナラが名残惜しい!35年の最後を飾るヤマハ「セロー」ファイナル仕様

1985年に誕生し、35年に渡って人々に愛されてきたオフロードバイク・ヤマハ「セロー」。そんなロングセラーの生産終了というニュースは、多くのライダーに衝撃をもたらしました。

今回試乗したのは、モデルライフの最後を飾る特別仕様車。新車で入手するには最後のチャンスとなりそうです。

■あって“当然”の定番モデルが突然の生産中止に

当たり前のように通っていた定食屋さんが店を閉めてしまう! まさか、こんな日がやって来ようとは…。そんな風に感じているバイク好きも多いのではないでしょうか。昨2019年の末に、セローの生産中止が発表されました。

道を選ばず、山道、林道、はたまた未舗装路を、時にはライダーが足を地面に着けつつ走っていく。そんなマウンテントレールを提案した、日本を代表するオフローダーの1台です。

1985年に最初のセローこと「XT225」がデビューして以来、爆発的な大ヒット!…といった派手なニュースはないけれど、コンスタントにジワジワと売れ続け、ヤマハのラインナップにあるのが“当然”と思われてきた定番モデル。2005年には、空冷単気筒エンジンの排気量を223ccから249ccに拡大した「セロー250」が登場しました。

2008年には、排ガス規制をパスするため燃料供給装置をインジェクション化。さらに厳しいエミッションコントロールを実現するため、一時的な生産中止を挟み、2018年に現行モデルが市場に投入されました。混合気の状態をより緻密にコントロールするべくO2センサーを備え、気体となったガソリンを回収するための“チャコールキャニスター”をボディ左サイドに吊っているのが特徴です。テールランプがLED化されたのも新しい。

そんな新型セローの登場に喜んだのも束の間。もう一段階の環境性能アップが求められ、ABS装着義務化の猶予期間が終了することもあり、残念ながら先の決定となったわけです。現在、その名の通り、最終バージョンとなる「ファイナルエディション」が販売中です。

価格は、ノーマルが58万8500円。アドベンチャースクリーン、ハンドルガード、アドベンチャーリアキャリア、そしてアルミアンダーガードといったワイズギア製の人気アクセサリーをセットで装着した「ツーリングセロー」が64万4600円となります。

■スペックからは想像もつかない力強い出足

セロー ファイナルエディションのカラーは、グリーンとレッドの2種類。従来のセロー250ではブラックアウトされていたフレームは、最終版ではボディ同色にペイントされ、しかもダブルコートが施されました。オフロードでは、バイクを木の枝に擦ったりコケたりすることがあるので、ありがたい仕様です。

ツーリングセロー

エンジンを抱く緑や赤のクレードルを見て、223cc時代の“旧セロ”を思い出す人がいるかもしれません。実はファイナルエディションのカラーは、初代セローの色味を意識したものだそう。ヤマハの、セローに対する思い入れが伝わってきますね。タンクには、ファイナルエディションのエンブレムが付きます。

試乗したのは、グリーンのファイナルエディション。シート高は830mm。数値だけみると高めですが、シングルエンジンのセローは全体に細身な上、シートにまたがるとソフトな足回りがググッと沈むので、意外と足つきがいい。その上、車重が133kgと軽いので、足がベッタリと接地しなくても不安がありません。自然に腕を広げ、上体を起こしたアップライトな姿勢となります。

いざ空冷シングルを響かせて走り始めると、セローは総じて“走り”が優しい。乗り心地が柔らかいこともありますが、前輪21インチ/後輪18インチというオフロードらしい大径タイヤを履いていることもあって、オンロードでのハンドリングは鷹揚なもの。乗り手をせかしません。

249ccシングルユニットのアウトプットは、最高出力20馬力/7500回転、最大トルク2.1kgf-m/6000回転。スペックは控えめですが、中低回転域で存外、力強いので、セローの出足は悪くない。スロットルを多めにひねった時の瞬発力もバカになりません。

高速道路では横風に少々弱い面もありますが、90km/h前後で淡々と行くと、思いのほか早く目的地に着いてしまうことも。気楽なライディングで周囲をよく見ながら走れるので、退屈しないのがいいところです。高速を降りてからの馴染みのない一般道では、そんな長所がなおさら印象づけられます。改めて思ったのですが、セローとのツーリングは、楽しい!

ちょっとした山道・林道では、ボディの軽さはもちろん、最小回転半径1.9mと大きく切れるステアリングも大いに助かります。必要となればバイクから降りてすぐにUターンできるので、知らない小道にもドンドン入っていけます。気軽に探検気分が味わえる、個人的には“ロケハンの最良の友である”と確信しました。

セローが35年にわたるロングセラーになったのは、年ごとに使いやすさに磨きを掛け、ビギナーにドンドン間口を広げてきたからですが、一方で、それはベテランライダーが惜しみなく使い倒せるキャラにもつながっています。セローに育てられ、セローを育ててきた幅広いユーザーがいるわけですね。

そんな“愛されバイク”の退場は、やはりさびしいもの。閉店が決まってから、あわてていつものお店に並ぶような、そんな気持ちになっているライダーも少なくないはずです。

<SPECIFICATIONS>
☆セロー ファイナルエディション
ボディサイズ:L2100×W805×H1160mm
車両重量:133kg
エンジン: 249cc 水冷単気筒 SOHC
トランスミッション:5速MT
最高出力:20馬力/7500回転
最大トルク:2.1kgf-m/6000回転
価格:58万8500円

文&写真/ダン・アオキ

ダン・アオキ|15年ほど出版社に勤務し、クルマ専門誌、カメラムックなどの編集に携わった後に独立。フリーランスの“カメライター”になる。現在は、2輪・4輪のコンテンツ制作を担当するほか、女性を被写体とした人物撮影も行っている。


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