クラウド型のVR内覧システム「ROOV」を開発するスタイルポートは4月28日、マーキュリアインベストメントとヒノキヤグループを引受先とする第三者割当増資を実施したことを明らかにした。
今回の調達は同社にとってシリーズBラウンドに該当するもの。具体的な金額は公開されていないが、関係者によると数億円規模とみられる。スタイルポートでは調達資金を活用してセールスや開発体制を強化し、新築分譲マンションやオフィス物件に加えて、戸建て住宅などにもROOVの対象領域を広げていく計画だ。
現場で内覧しているような体験をオンライン上で実現
ROOVはCADデータから室内空間を3DCG化することで、実際に現場を歩き回りながら内覧しているような体験をオンライン上で実現する。独自開発したエンジンにより、部屋の採寸や家具のシミュレーション、カラーセレクトなどの豊富な機能を「一般的なPCやタブレット、スマホ端末のブラウザ上で動かせる」のが大きな特徴だ。
不動産VR系のプロダクトでは360度カメラなどで撮影した画像からVRコンテンツを制作するタイプのものも多いが、ROOVでは図面データを3DCGに変換するアプローチを採用。そうすることで建設中の建物など、室内の画像が取得できないような場合にも対応する。
ビジネスモデルは月額10万円からのSaaS型(VRデータ制作料は別途必要で40万円から)。現在は新築のマンション販売やオフィス案件で活用が進み、三菱地所レジデンス、三井不動産レジデンシャル、大和ハウス工業、伊藤忠都市開発など大手デベロッパーを中心に累計45社、100プロジェクトで導入されているという。
ROOVは販売担当者が対面接客時に使う補助ツールとしてはもちろん、オンライン上で顧客にプレゼン資料や3DCGデータなど役に立つ情報を丸っと共有することにより、自宅で検討してもらう際の参考資料にもなる。
同サービスの役割は図面だけではイメージが掴みづらい部分を3DCGコンテンツなどを用いて補完することだ。顧客はURLをクリックするだけで“オンラインマンションギャラリー”に入室し、気になる部屋の様子をいつでもチェックすることが可能。高価なデバイスや専用アプリを用意する必要もない。
また顧客がROOV上でアクティブに物件をチェックすることは販売担当者にとっても大きな価値がある。同サービスでは顧客ごとに個別のURLが発行され、各顧客のオンライン上での検討状況が可視化される仕組みになっているからだ。
「ベテラン営業マンでなくても、ROOVを使いながら説明をすることでコミュニケーションの質が良くなって(契約までの)商談回数が減ったり、モデルルームへの再来率が上がったりといった効果が出ている。対面販売の効率が上がるというのがわかりやすいメリット。またモデルルームがないタイプの部屋を紹介する際にROOVで代替するという使い方もされている」
「また行動ログを解析することで、顧客がどんな部屋に興味を持っているのかを把握できるのもポイントだ。たとえば商談の際は2LDKの物件の説明をしていた顧客が、実際は自宅で3LDKの物件を見ていたので、次の商談で予算に合うコンパクト3LDKを提案して制約に至った例もある」(スタイルポート代表取締役の間所暁彦氏)
間所氏によるとこれまでは対面接客の質をあげるコミュニケーションツールとして訴求することが多かったが、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で前提や現場のニーズが大きく変わったという。そもそもモデルルームでの対面販売が当面難しくなり、オンライン化の流れが加速。その選択肢としてROOVにも問い合わせが急増し、4月については1〜3月の月間平均受注量を1週間で獲得するほどのペースで推移しているそうだ。
「これまで新築のマンション販売は対面が主流だったのが、対面の機会を作れなくなることで『メインの説明はオンライン、対面は最後のクロージングだけ』という流れに変わってきている。オンライン商談に使えるサービスとして認知されることで受注も増え、以前は何回プレゼンをしても響かなかったような企業からも問い合わせが来るようになった」(間所氏)
新築戸建て住宅市場など、ROOVの活用領域の拡張目指す
スタイルポートは2017年10月の設立。不動産業界一筋で分譲マンションの開発や不動産投資ファンドの組成などに携わってきた間所氏と、リクルートやエムスリーを経てべンチャー支援などを行なっていた中條宰氏が共同で立ち上げた。
事業アイデアについては「不動産の世界をアップデートする」ことをテーマに、海外の不動産テック事例などもリサーチしながら時間をかけて検討したそう。その中でピンときたのが3Dカメラを用いたバーチャル内覧サービス「Matterport」であり(同社は昨年4800万ドルを調達)、ROOVの原型も同サービスをベンチマークにしながら、日本の業界慣習や生活習慣に合うような形で作ったという。
現在スタイルポートでは30名強のメンバーのうち、約7割をエンジニアが占める。3DCGデータを標準的なデバイスのブラウザ上でサクサク動かすための独自エンジンや、制作工程を徹底的に自動化・効率化するための仕組みはすべて社内で開発。一部屋あたりの制作時間は「平均的なものと比べて1/6ほどの時間でできる」そうで、これらが同社にとっての強みにもなっている。
今後はこれまで培ってきた技術と知見をもとに、まずは新築マンションやオフィス領域のニーズをしっかりと取りきるのが目標。その上で新築戸建て市場などROOVの活用領域を拡大するべく、開発体制や営業体制を強化する計画だ。
なお投資家の2社とは事業面でも連携する予定とのこと。ハウスメーカーのヒノキヤグループとは戸建て領域へのサービス展開に関して、伊藤忠商事を中心にサンケイビルや日本土地建物建物など不動産・物流業界の事業会社とパートナーシップを組むマーキュリアインベストメント(マーキュリア・ビズテック投資事業有限責任組合)とはLPとのさまざまな事業連携に関して今後具体的な取り組みを検討していくという。
- Original:https://jp.techcrunch.com/2020/04/28/roov-fundraising/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:masumi ohsaki
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