Harley-Davidson(ハーレーダビッドソン)が電動化を果たして1年を迎えるにあたり、我々はまだ同社のEV転換をどう評価すべきか思案に暮れている。
ガソリン、クローム、スチールからなるアメリカンシンボルのHarley-Davidsonは、昨年秋に同社初となる量産用電動バイク「LiveWire」をリリースした。2万9799ドル(約319万円)の電動バイクは、同社が将来的に製造を計画しているモーターサイクル、自転車、スクーターなどのEVラインアップの先陣を切るものとなった。
LiveWireのディーラーへの出荷は9月27日から始まっている。同製品はHarley-Davidsonが誇る内燃式クルーザーモーターサイクルを補完するものであり、置き換えるためのものではない。
LiveWireは、デザイン、機能、パフォーマンス面においてモーターサイクルファンから主に好意的な評価を受けている。ただし、Harley-Davidson初の電動バイク製造と電動化への包括的な取り組みを採点するには2つの点が欠けている。
同社はEV個別の販売データを公開し、電圧駆動型製品のラインナップにおける次のプランを明らかにする必要があるのだ。
統計
LiveWireのデビューから7か月が経過し、同モーターサイクルが市場でどう出回ったかについて、特にそのTesla Model 3を少し下回る価格設定に関し、多くの憶測がある。
著者は、上場企業として同社が年末と2020年第1四半期の会計報告にEVデータを提供することを望んでいた。
しかしそれが実現することはなかった。モーターサイクル販売に関するHarley-Davidsonの報告書には、電動バイク専用の項目が含まれていなかったのだ。その代わりに、販売されたLiveWireユニット数はHDのSofttailやCVOラインの約16種類のバイクモデルが含まれる「クルーザー」部門の統計の中にまとめられていた。この数値から見てHarley-Davidsonの2019年の同カテゴリーの売上高が減少したことは明らかだが、同社のEVデビューが市場でどのような役割を果たしたのかは知る由もない。
Harley-Davidsonの広報担当者にも確認したが、同社はいかなる形においてもLiveWire個別の販売データを公表していないとのことだ。
この情報なしには、たとえばLiveWireの売れ行きは「いまいち」だというReutersの10月の記事など、ディーラーからの不十分なフィードバックをもとに書かれた記事から推測する以外方法がない。米国内のモーターサイクル購入データの主な情報源であるモーターサイクル産業評議会(MIC)がデータを収集したりリリースしたりしていないため、信頼できる電動バイクの統計を見つけることは極めて困難である。
Harley-DavidsonはEV個別の販売数を発表するべきであり、それによって電動製品の進歩に関する基準を提示することができたはずだ。
市場
ウィスコンシン州ミルウォーキーを拠点とする同社は1903年以来、大音量で強力な内燃式二輪車を作り続けており、電動モビリティラインの製造は非常に大胆な動きであった。
LiveWireのデビューにより、Harley-Davidsonは米国で初めて公道用電動モーターサイクルを製造する大手ガソリン車メーカーとなる。
米国のほとんどのモーターサイクル業界と同様に売上が数年下降しており、若年層の顧客への販売において不調が続いている同社にとって、この動きが必要不可欠なものであったということは間違いない。
前回の景気後退以来、米国の二輪車市場は不調続きである。2008年以降の新規販売数は約50%減少。特に40歳未満の購入が大幅に減少し、以来回復の兆しを見せていない。
Harley-Davidsonの幹部らは、LiveWireおよび同社が計画しているその他のEV製品ラインについて、オンデマンドのモビリティ時代を生きる若い世代に向けた同社の活性剤として期待していると話している。
同社はホンダやカワサキなどの伝統的なモーターサイクルメーカーに先手を打ったが、電動二輪車業界に競合は山のようにいる。
ガソリン車ユーザーを電動製品へと転向させ、若い世代を引き付けようと試みる電動モーターサイクルのスタートアップが複数存在するEV産業へHarley-Davidsonは参入したというわけだ。
この業界を率いる企業の1社は、世界中に200のディーラーを抱えるカリフォルニアのスタートアップ、Zero Motorcyclesだ。同社は昨年LiveWireのライバルとも言えるSR/Fを発表。1万9000ドル(約200万円)で販売される同製品は161マイルの航続距離、充電時間1時間、最高速度124mphという性能を備える。イタリアのEnergicaは、米国で高性能電動モーターサイクルの販売を拡大中だ。
またカナダ発のスタートアップDamon Motorsは今年、最高速度200mphのHypersportを2万4000ドル(約260万円)でリリースした。独自の安全性とエルゴノミクス技術を用いて調整可能なライディングポジションと死角検出を実現している。
Harley-Davidson、電動モーターサイクルスタートアップ、大手メーカーのすべてが、モーターサイクル購入意欲における不透明性に直面している。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がもたらした経済環境を考慮すると、2020年以降もこの懸念は続くだろう。
今月Harley-Davidsonは、同社を未来に導くためJochen Zeitz(ヨッヘン・ツァイツ)氏を新たなCEOとして任命した。先月行われた第1四半期の収益報告でツァイツ氏は、同社EV製品の販売や将来についての洞察をさほど語ることはなく、「我々は電動製品への取り組みを前進させることに専心しています」とのみ述べた。
現時点までの成績表
販売数という最終的な製品テストでLiveWireがどのような結果を残したのかは依然として不明であるが、Harley-Davidsonの電動デビューにおける評価を発表する。
マイナス評価から始めよう。同社は2万9000ドル(約310万円)という価格設定で失敗している。当初HDと著者が話し始めて以来、LiveWireの価格背景と製品の位置付けは少なからず変化している。2019年7月、同社の幹部らは、約1万ドル安く販売されているZero MotorcyclesのSR/Fなどの競合製品と比較して、同社「プレミアム製品」の約3万ドルという価格設定がいかに正当かを語っていた。
ところがその後しばらくしてHarley-Davidsonの広報担当者は、LiveWireは大衆マーケット向けの価格に設定されておらず、むしろ人々の興味を引くための特別製品として企画されたものだと説明している。同EVバイクの価格設定における背景が実際に何だったのであれ、著者が話したほぼすべての人がこの価格は高すぎるという点で合意している。
称賛すべき点としては、Harley-Davidsonの電動デビューによって達成されたさまざまな重要な要素が挙げられる。少なくとも属性と世間の反応において2つの世界を橋渡しするようなものを製造するという難しいタスクに取り組んだ同社。電動モーターサイクル界のれっきとした新規参入者として、LiveWireは卓越した機能とパフォーマンスを証明する必要があった。その上、EVやTeslaファンではなく、クロームとスチールのアメリカ製クルーザーを愛する忠実なファンにも受け入れられる必要があったのだ。
価格設定の件と販売台数不明という点はさておき、Harley-Davidsonは前述の両方を達成したと言えるだろう。著者は丸1日かけて105馬力のLiveWireをテスト試乗し、航続距離(95〜146マイル)や充電時間(60分)など、同バイクのすべての機能について検証し、HDのエンジニアを悩ませた。結果としては、パフォーマンス、デザイン、主要なスペックすべてにおいて素晴らしい出来だと言えるだろう。バイク関連の報道者のほとんどもこれには同意している。
同社はまた、デザインおよびその独特で絶妙なサウンドにおいて、Harley-Davidsonならではの電動モーターサイクルを製造するという点で成功を収めている。50年代からの筋金入りのハーレーライダーである著者の祖父にLiveWireの写真を見せたところ、ぜひ乗ってみたいと好意的な反応が返ってきた。したがって、HDの電動デビューは然るべき群衆から喜ばしい反応を得ることができ、さらなる成長が期待される結果となった。
今後の動き
同社が電動化プロジェクトにおいて直ちにすべきことは、今後のプランを公表するということだ。また次の製品が何であれ、それはミレニアル世代を含むより幅広い顧客を魅了する必要がある。
都会でも活躍するスクーターや、幅広い市場に受け入れられる手頃な電動モーターサイクルなど、同社の次のEV製品のリリースを著者は心待ちにしている。
著者が考える同社の次の電動モーターサイクルのスペックシートのあるべき形は、549ポンドのLiveWireよりも軽く、初心者ライダーにとっても乗りやすく、クラウドとアプリに接続可能、価格は約1万ドル(約107万円)で航続距離は少なくとも100マイル、充電時間は30〜40分と言ったところだ。いくつかオフロード機能も備えた、Harley-Davidsonのフラットトラックレーサーを思わせるトラッカースタイルのEVも良いかもしれない。ちなみに同社は昨年このコンセプトのモックアップをリリースしている。
COVID-19に影響を受けた経済環境において、モーターサイクルなどの製品に対する購入意欲は当面の間より保守的になるため、的確なスペック、スタイル、価格設定は一層重要になってくる。
LiveWireによってHarley Davidsonは電動製品への扉を開くことができた。21世紀のモビリティの世界でHDが今後どのように活躍していくかは、同社の次の2輪EVバイクとそれに対する市場の評価次第だと言えるだろう。
関連記事:ハーレーダビッドソンが電動バイクのLiveWireの製造を再開
Category:モビリティ
Tag:ハーレーダビッドソン 電気自動車 / EV
[原文へ]
(翻訳:Dragonfly)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2020/05/27/2020-05-13-the-missing-links-to-grading-harley-davidsons-ev-pivot/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Jake Bright
Amazonベストセラー
Now loading...