魅力は燃費以外にもあり!ボルボの未来を担う心臓を得た「XC60 B5」の本当の実力

ボルボのミドルクラスSUV「XC60」に、“B5”という新しいパワーユニットが設定された。

XC60にはこれまで“T5”や“T6”と呼ばれるガソリンターボ、“D4”という名のクリーンディーゼル、そして“T8ツインエンジン”と名づけられたプラグインハイブリッドという4種類のパワーユニットが設定されていたが、新しいB5はT5とT6の後釜に座ることとなった。

果たしてB5は、どんな個性を持つパワーユニットなのだろうか? 今回はその詳細と気になるドライブフィールについて紹介する。

■シンプルな構造でコストアップを抑えた48Vハイブリッド

「あれ、こんなに滑らかだったっけ?」。新しいパワーユニットを得たXC60のドライブフィールは、正直いって過去のイメージを打ち破るものだった。なぜなら、日本に上陸した直後のXC60は、躍動感やスポーティさを感じさせる乗り味が特徴だったのに対し、最新モデルのそれは、肌触りのいい毛布に包まれているかのような、しっとりとした心地いいものに変わっていたからだ。

実際それは、気のせいではなかった。新しいパワーユニットの採用を含め、最新のXC60は(目に見えないものを含めて)大幅にブラッシュアップされていて、走りが洗練されたという。まるで母なる大地のように優しく包み込んでくれるドライブフィールはもちろんのこと、パワーステアリングなどの操作フィールや乗り心地もしっとりとした印象となった。ドイツ車のような硬さはなく、適度な“ゆるさ”を伴うフィーリングなので、ロングドライブに出掛けても驚くほど疲れない。もちろん、昔のボルボ車とは異なり、いかにも「ゆるいなぁ」という印象はないが、人に優しく疲れ知らずな点は「これぞボルボだね」という気持ちにさせてくれる。

そんなXC60に新搭載されたB5の正体は“48Vハイブリッド”だ。日本ではあまり馴染みがないものの、昨今、ヨーロッパ車を中心に採用が進むハイブリッド機構の一種であり、48Vの電圧でモーターを回転させて駆動力をアシストし、燃費性能アップを実現する仕組みだ。

特徴は、トヨタなどが展開する、エンジンとモーターの美味しいところを使い分ける“ストロングハイブリッド”機構などに比べ、仕掛けがシンプルでモーター出力が小さいこと。ボルボのB5では、エンジンのクランクとベルトで結ばれたモーター兼発電機“ISGM(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター・モジュール)”を搭載し、低回転域からの加速をアシストしたり、スムーズなエンジン始動をサポートしたり、運動エネルギーを回生してバッテリーモジュールを充電したりしている。なおバッテリーは、0.5kWhのリチウムイオンタイプをラゲッジスペースのフロア下に備える。

ちなみにISGMのモーター出力は13.6馬力で、これは日本のハイブリッドカーの代表選手であるトヨタ「プリウス」の6分の1に過ぎない。さらに、モーターのみで走行するモードがないなど、電気が生み出すエネルギーはあくまでエンジンのアシスト役に徹している。

ただし、48Vハイブリッドは簡易的な機構ゆえ、ストロングハイブリッド機構のように大幅な燃費アップを期待しにくいという課題もある。インポーターであるボルボ・カー・ジャパンによると、気になるB5の燃費アップ率は「前身のT5と比べて10%+αほど」とのこと。ただしこの数値は、エンジン自体の改良なども含めての数値であり、ISGM単体では「数%」ほどだという。

とはいえ、48Vハイブリッドは構造がシンプルな分、ハイブリッド化で避けられないコストアップの抑制には有効だ。事実、ボルボの場合、ISGMを搭載するXC60 B5は、同T5に比べて10万円程度の価格アップに収まっているから割高感はない。費用対効果という観点から見れば、ISGMによるハイブリッド化はトータルバランスに優れるものといえるだろう。

■ピュアガソリン車よりもスポーティに感じるB5

48Vハイブリッド化に合わせ、ボルボはエンジンのピストン、シリンダー、シリンダーヘッド、そしてシリンダーブロックを新設計するなど、新規開発といっても過言ではないほどのエンジンの大改良を行った。

そのハイライトが“気筒休止機構”の採用だ。B5は高速クルージング中などの低負荷走行時に、燃料消費量をセーブすべく4気筒のうちふたつのシリンダーの燃焼をストップさせる。とはいえ、4気筒と2気筒の切り替わりは、どれだけ神経を集中させて察知しようとしても、最後まで感じることはできなかった。これは、同機構が綿密に制御されていることの証であり、B5が人知れず(!?)燃料消費量を節約してくれていることが、ちょっとうれしくなった。

一方、B5の走りに関してもうひとつお伝えしておきたいのは、アクセル操作に対するレスポンスが前身のT5よりも良くなっていることだ。特に発進の際は、T5よりスッと軽快に前へ出ていく印象が強い。

その理由はふたつある。ひとつは、レスポンスに優れるモーターが低回転域においてエンジンをアシストすることで、出だしの反応が良くなったこと。もうひとつは、エンジンの大改良でエキゾーストマニホールドが短くなり、エンジンとターボとの距離が近づいた結果、ターボの反応遅れが小さくなったことである。このふたつの相乗効果で、B5はアクセル操作に対するリニア感がT5よりも格段にアップしていて、特に停止と発進を繰り返す市街地走行時では、両車の違いを明確に実感できる。

またこうした特性により、B5の方がT5よりも走らせていてスポーティに感じられるのは興味深い。48Vハイブリッド化の本来の目的は低燃費化のはずだが、結果的に、乗り味の向上にもつながっているのは見逃せないポイントだ。B5は電動化されても走る歓びが失われておらず、純粋なガソリン車より軽快かつ気持ちよく走ってくれるのには驚いた。

ちなみにB5のブレーキシステムには、一般的な油圧式ではなく、プラグインハイブリッド仕様のT8ツインエンジンと同じ“バイワイヤ”と呼ばれる電気コントロール式が採用されている。そのフィーリングは全く違和感がないもので、いわれなければ気づかないほど洗練されたものだった。

未来を見据えた技術を搭載する一方、乗り味の滑らかさに磨きをかけることで、ボルボらしさがより濃密になったXC60。新しいパワーユニットを搭載したXC60 B5は、今、ボルボ車の中で最も旬な選択といえるだろう。

<SPECIFICATIONS>
☆B5 AWD インスクリプション
ボディサイズ:L4690×W1900×H1660mm
車重:1920kg(エアサスペンション装着車)
駆動方式:4WD
エンジン:1968cc 直列4気筒 DOHC ターボ+モーター
エンジン最高出力:250馬力/5400〜5700回転
エンジン最大トルク:35.7kgf-m/1800~4800回転
モーター最高出力:13.6馬力/3000回転
モーター最大トルク:4.08kgf-m/2250回転
価格:734万円

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。


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