見るからに、趣味にレジャーに“使える”雰囲気が満点のプジョー「リフター」は、はたらくクルマであるバンをベースに開発された乗用MPV(マルチパーパスビークル)。
2020年秋のカタログモデル上陸を前に、先行輸入され、あっという間に完売した限定モデル「デビューエディション」に試乗し、気になる実力をチェックした。
■遊び心あふれるSUV仕立てのルックス
結構カッコいいかも!ーーこれが、リフターを前にしての第一印象だった。
リフターは商用バンをベースとする乗用タイプのMPVで、最大のライバルと目されるのは日本でも人気のルノー「カングー」。そんな予備知識を持って接したリフターには、とにもかくにも“ワクドキ”感があふれていた。ボディ下部やタイヤの周囲には、“クラッディング”と呼ばれる無塗装の樹脂パーツがあしらわれていて、SUVのような雰囲気を醸し出している。
リフターは、先に『&GP』でもレポートしたシトロエン「ベルランゴ」の兄弟車だが、ベルランゴと比べるとタイヤがひと回り大きく、その分、車高も上がっている。日本車で例えれば、スバルの「インプレッサ スポーツ」に対する「XV」のようなものだ。
もちろん、リフターの駆動方式は前輪駆動なので、どんな道でもガンガン走れるわけではないが、悪路走行をサポートしてくれる電子デバイス“アドバンスドグリップコントロール”が搭載されているので、ちょっとした悪路なら苦もなく走れる。それらの個性が昨今のトレンドともいうべきSUV風のルックスにも反映されていて、いかにも趣味グルマらしい雰囲気を醸し出している。見るからにワクワク・ドキドキさせられるスタイルを眺めているだけで「これは楽しそう!」という気持ちになる。
■運転席周りに10個の収納スペースを用意
もちろん、リフターの魅力はそれだけに止まらない。商用バンをルーツとすることもあり、趣味やレジャーのアシとしての実用性がケタ違いなのだ。
その真骨頂がラゲッジスペースで、リアシートの背もたれを起こした状態でも、荷室フロアは約1mの奥行きが確保されている。トノボードまでの荷室容量は597Lと、この手のクルマとしては大したことはないが、実車を見ればきっと驚くはず。何しろ、数値から受ける印象をはるかに超える広さなのだ。
ラゲッジスペースの形状はスクエアで、特大サイズのスーツケースといった大きな荷物も積みやすい。また、驚くほど低いフロアと高い天井のおかげで荷室高が高いから、キャンプに携行する折り畳み式チェアや丸めたテントなども立てた状態で積載できるなど、高さ方向の余裕を有効に使える。
加えて、トノボードの高さを2段階にアレンジできるから、積み込むアイテムや荷物の量に応じてラゲッジスペースを効率的に使えるし、必要とあれば助手席の背もたれまで倒すことで、最長で2.7mのほぼフラットな荷室空間を得られる。4.4mという全長の中に広い居住空間を確保しつつ、これほど実用的なラゲッジスペースまで用意するクルマは、世界中見渡してもなかなかない。
さらにリフターでユニークなのは、カラクリ箱のような多彩な収納スペースだ。
例えば、ラゲッジスペースの天井部には、容量約60Lの大きな吊り下げ型の“リアシーリングボックス”が備わる。リアゲートからだと、旅客機のキャビン頭上にある荷物入れのように、トレー部が下がって大きく開口。一方、リアシートからだと、和室にある天袋のように、横開き式の扉を開けてアクセスできる。
また、前後シートの回りには収納スペースを多数用意。ドライバーから簡単に手が届く範囲だけでも、インパネの周辺に10個のポケットや小物入れがある。筆者は、メーターの手前にトレーがあるクルマなど初めて見たし、サンバイザー上の空間にも、しっかりトレーが用意されている。
中でも、ガラスルーフの下を前後に貫く、新幹線の“網棚”を思わせるトレーは斬新。収納スペースだけでここまでワクワクさせられるクルマには、そうそう出合えない。
一方、着座位置の高いフロントシートに座ると、見晴らしがいいだけでなく、水平方向のゆとりも感じられる。さぞかし車幅が広いのかと思いきや、全幅は1850mmと昨今の水準としては格段に広いわけではない。マツダの人気SUV「CX-5」より10mmワイドなだけだから、十分許容範囲内といえるだろう。
そして、両サイドのスライドドア(電動スライド式じゃないのが惜しい!)からアクセスするリアシートは、必要にして十分な広さ。ひざ回りのスペースは驚くほど広いわけではないが、ミドルクラスSUVの水準と比べると断然広い。
その上、天井が高く、前後や両サイドの窓は大きく、さらには大きなガラスルーフまで備わるから、開放感は抜群だ。
■走りの実力は想像のはるか上をいく
そんなリフターで最も意外だったのは、その走りだ。
エンジンは1.5リッターのターボディーゼルで、最高出力は130馬力と大したことはない。しかし最大トルクは30.6kgf-mと強力で、スペック以上によく走る。もちろん「速い」という感覚は希薄だが、アクセルペダルを踏み込むとしっかりとスムーズに加速してくれる。気になる実燃費は、今回の取材時で14km/Lほど。しかも燃料が軽油なのでサイフにも優しい。
そんなリフターの走りにおける真骨頂は、ハンドリングフィールだ。サスペンション自体はストロークが豊かで、いかにも優しい乗り心地。しかし、ひとつ目の交差点を曲がったところで驚いた。とても素直に曲がってくれるのだ。シャープとか機敏といった分かりやすさはなく、おっとりとした印象だが、重心の高いクルマとは思えないほど正確かつ気持ちよく曲がってくれる。小径のステアリングホイールを核としたプジョー独自の“i-Cockpit”も相まって、MPVとは思えないような走る歓びを味わえる。
一方、高速道路では、また別の表情を見せる。スピードが高まるほどにフラットライド感が増す上に、直進安定性も抜群だからとにかく快適で疲れにくい。商用バンという出自もあって侮っていたが、走りの実力は想像のはるか上をいっていた。
もちろん、イマドキのクルマだけに、衝突被害軽減ブレーキやブラインドスポットモニター、アダプティブクルーズコントロールといった先進の運転支援装置も標準装備されている。今、新車を買う際に付いていて欲しい装備類は、ほぼ網羅しているといっていいだろう。
リフターの実車に触れるまで、このクルマのライバルはカングーだけだとイメージしていた。広いラゲッジスペースやスライドドアを採用したパッケージング、そして、多彩なアイデアによる優れた実用性を考えれば、両車はガチンコのライバル関係にある。しかし、実際にリフターを購入するとなると、アクティブミニバンの代表選手である三菱自動車の「デリカD:5」も視界に入ってくることだろう。もちろん、2列シート車と3列シート車という違いはあるけれど、どちらも人生を楽しくしてくれそうな“ワクドキ”感あふれるツールであることは間違いない。
ちなみに、今回試乗したデビューエディションは、発表後すぐに完売したという。それもそのはず、336万円〜というプライスタグは、各種安全装備やガラスルーフ、「Apple CarPlay」や「Android Auto」のナビアプリを映し出せる8インチのディスプレイオーディオなどがひと通り標準装備されていることを考えれば、かなりリーズナブルだ。間もなく上陸するカタログモデルも、価格設定次第できっと人気を得ることだろう。気になる人は早めの検討をお勧めしたい。
<SPECIFICATIONS>
☆デビューエディション(限定車)
ボディサイズ:L4405×W1850×H1890mm
車重:1620kg
駆動方式:FF
エンジン:1498cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:130馬力/3750回転
最大トルク:30.6kgf-m/1750回転
価格:336万円(完売)
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
- Original:https://www.goodspress.jp/reports/310606/
- Source:&GP
- Author:&GP
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