中国ではユーザーの平均年齢が29歳に若返った
セダンなんて「オワコン?」 と思うことなかれ。実は、世界的に見ればホンダの中でも、「CR-V」「シビック」と並ぶグローバル戦略モデルであり、世界的には大ヒット作なのだ。アメリカでもユーザーの大幅な若返りを果たしており、その年のアメリカ・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞している。中国に至っては、購入層の平均年齢は29歳という驚きの事実がある。なにしろ、中国では長年、フォルクスワーゲン「パサート」がセダンの王者として君臨していただけに、2019年に21万台もの販売台数を記録し、堂々の販売台数1位に輝いたということは大きな話題になった。
一方、日本では残念ながら、ミッドサイズセダンの市場そのものが縮小傾向にある。ホンダ自身も、そのことはよく理解しているようで、新型「アコード」には、「EX」というモノグレードの設定だ。価格も465万円と聞くと、300万台中盤のエントリーモデルを備えるトヨタ「カムリ」と比べて、割高な気もする。
しかしながら、「アコード」に乗り込んで、アクセルペダルを踏み込んだ瞬間、それでもあえて、「アコード」を日本に導入するのには意味がある、と気づいた。自動車の記事を専門に書く身としては、陳腐な表現だとは思うけれど、とにかく「いいクルマ」なのだ。乗ってすぐに感心するのが、元気のいい走りっぷりだ。パワートレインはハイブリッドのみであり、ホンダ独自のハイブリッド機構「iMMD」を改良した「e:HEV」を搭載している。具体的には、2つの電気モーター(走行用モーター:最高出力135kW/最大トルク315Nm)と2リッターエンジン(最高出力145ps/最大トルク315Nm)を組み合わせることにより、V6エンジンと同等の厚みのあるトルクを生み出している。ハイブリッドと聞くと、エコなイメージだが、とにかく走らせて楽しいパワートレインだ。
「スポーツ」「ノーマル」「コンフォート」の3種の走行モードのうち、特に「スポーツ」モードに入れたときの気持ちのいい加速の伸びはホンダの真骨頂だ。加速時にスポーティなエンジン音が響くのも好印象だ。従来、ハイブリッドといえば、加速するときのエンジン音がこもって、エモーショナルとは言い難かったが、「アコード」ではサウンドチューニングもされている。もちろん、町中の日常的なシーンでは、ほとんど電気モーターで音もなく走ることができる。全長×全高×全幅=4900×1860×1450mmのスリーサイズなら、都心でも大抵の駐車場にアクセスできそうだ。
欲張りセダンの走り心地を徹底的に感じてみた
ひとしきり町中を走ったあと、郊外に向かってステアリング・ホイールを切る。グッと力強い加速で、首都高の短い合流レーンでも十分な加速を得られる。首都高の目地段差を越えるようなシーンでは、刷新されたプラットフォームが真価を発揮する。グローバルで売れるクルマだからこそ、セダンとして理想とされる”あるべき姿”を想定し、ゼロから開発することが許されたのだ。安定した走りを実現すべく重心を低くし、車の動きを安定させるために慣性モーメントを低く抑え、なによりも50kgものダイエットに成功することで、軽い身のこなしと低燃費性能の両方を手に入れた。
実際に乗ってみると、その効用は明らかだ。スムーズに流れに乗った後、大きく舵を切るようなシーンでは、グッと路面に食いついて安定した走りを披露する。「スポーツ」モードでは、エンジンの制御がパワフルになることに加えて、足回りもスポーティに切り替わる。マクファーソンストラット式を採用するフロント・サスペンションは、ロワーアームを従来のA型からL型に変更することにより、横からや前後からの力に対して、より安定させて、操舵時の応答性を高めている。また、リア・サスペンションにはE型マルチリンク式を採用することにより、路面からの入力をいなしやすくするとともに、トランクルームも拡大している。
今回、初採用となる「アダプティブ・ダンパー・システム」と組み合わせることによって、3種の走行モードが選べる。実は、日本上陸が一番遅かったメリットとして、この3種の走行モードを搭載するのは、日本市場が一番乗りなのだ。車両の状態やドライバーの操作を500分の1秒単位で検知して、ダンパーの減衰力をリアルタイムで変化させることができるのだ。
幸か不幸か、2011年のタイの大洪水で生産ラインが水没したことを受けて、最新の生産システムへと切り替えたこともあって、今回の新型「アコード」はボディ骨格についても、最新の技術が満載されている。ボディ分野の世界的権威である「ユーロ・カーボディ・アワード」に選ばれたことからも、世界基準のボディ剛性を実現していることがわかる。…と、難しいことを並べ立てたが、要は「乗り心地の良さとスポーティな走りを両立した欲張りなセダン」ということだ。
アメリカにある拠点を生かして、ホンダらしい”️バタ臭いデザイン”を採用したこともこのクルマの個性を際立たせている。「日本のデザインセンターが中心となりつつ、アメリカのデザインセンターの協力も得てスタイリングを作り上げました。例えば、西海岸の鋭い日差しの下で見ると、デザインの強弱がはっきりするなど、アメリカに拠点があるがゆえの示唆を生かしています」と、チーフエンジニアを務める宮原哲也氏はいう。
本田技術研究所 主任研究員
アコード開発責任者
宮原哲也氏
1993年、本田技術研究所に入社。7代目「アコード」シリーズ以降のシャシー設計の担当を継続して担当。10代目「アコード」では、LPL(開発責任者)に就任。
ホイールベースを拡大した結果、のびやかなプロポーションを持っている。スタイリングを手がけたのは、和光にあるデザイン・スタジオが中心となったが、メインマーケットであるアメリカのスタジオにも持ち込んで検討を重ねている。当初、伝統的な3ボックス・セダンにこだわるお客様も多いかもしれないとの懸念もあったが、いざ、蓋を開けてみると、世界中のどの市場でも、フロントノーズが長く、サイドにくっきりとしたキャラクターラインを持つ4ドア・クーペ風のスタイリングに魅力を感じる人が多いという結論に至ったのだ。ホイールベースを55mmも延長したことにより、タイヤが四隅に配置されており、グッと踏ん張り感もある。
運転席に滑り込むと、ヒップポイントが低く、シートが大ぶりなこともあって、包まれるような安心感を得る。クーペ風のスタイリングとは裏腹に、キャビンスペースは広々している。後席は背もたれの角度を寝かすことによって、高さを50mmも延長して、ゆったりと体を預けて座れる設計だ。
ここまで子細にみると、冒頭で触れた465万円の価格も、決して高くはないことに気づいた。なぜなら、ほぼフルオプションという状態だからだ。最後に結論めいたことをいえば、40年という長きに渡って日本のユーザーに愛されてきたモデルゆえに、セダン市場が縮小傾向であっても、「アコード」を日本に上陸させる決意をしたのだろう。
ホンダの生産工場と地域の人々の間に壁は作らない
今回、新型コロナウィルスへの対応もあって、青山にあるホンダ本社から車両を借り出したのだが、1Fが気持ちのいいカフェにリニューアルされていた。1985年のオープン当初から「製品及び企業姿勢の発信の場」、「誰でも気軽に立ち寄れる憩いの場」というコンセプトに沿って、以前から一般の来場者に開放してきたのだが、今回のリニューアルでは、さらに気軽に立ち寄れる雰囲気を強化している。
バイクやクルマの展示に気軽に触れることができることに加えて、内装は明るいウッド調の内装になって、「MILES Honda Cafe」と名付けられたカフェが併設されている。たまごサンドやバインミーなど、バリエーション豊なサンドイッチのメニューと手ごろな価格ながらこだわりのコーヒーが提供されている。最大の目玉は、本社の地下にあるカナダ産ヒバの大樽で貯水したまろやかな風味の「宗一郎の水」を使ってコーヒーを淹れていることだ。創業者の本田宗一郎さんがこだわって、本社の地下にカナダ産のひばの木を使った樽を設置しているという。
そんな個性派の創業者に興味を持ったなら、ぜひ、足を伸ばして欲しいのが栃木県・茂木町にある「ツインリンクもてぎ」だ。サーキットのイメージが強いけれど、実は子どもと遊べる施設が充実していて、丸一日いても飽きない。バイクとクルマの両方で、世界のレースシーンを席巻したホンダの歴史がわかる博物館「ホンダコレクションホール」は必見だ。
なによりも充実しているのが、子どもだけではなく、大人も満喫できるアクティビティが用意されている。電気モーターで走る乗り物を自分で組み立てる子どもたちのための体験プログラムや、大人も乗れる本格的なカートといった自動車メーカーらしいアクティビティが用意されているのはもちろん、ドングリの木をモデルにしたアスレチックやハローウッズの森を探索するプログラムなども用意されている。あいにくコロナウィルスの関係で、今年は中止となってしまったが、例年、30泊31日のキャンプは予約が取りにくいことで有名だ。
ホンダがこうした森にちなんだ施設を運営するのには、ワケがある。「ホンダの生産工場と地域の人々の間には、その結びつきを遮断するようなコンクリートの壁は作らない」という本田宗一郎さんの言葉があるからだ。工場に壁がないなんて、一見すると、無茶苦茶だとは思うのだけれど、実際にその意思を受け継いで、ホンダの工場や事業所では、外部との境界を遮断してしまうようなコンクリートの壁は作らない。その代わりに、ゆるやかな境界を作り、人々が集うことができる場として、「森」を作ってきた。クルマという製品を使いこなすだけではなく、そんな創業の精神に触れることもまた、クルマの楽しみ方なんである。
- Original:https://www.digimonostation.jp/0000127777/
- Source:デジモノステーション
- Author:川端由美
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