自作グッズサービスのブームを支える堀江織物&OpenFactory

大量生産から少量生産へ。大量在庫から少量在庫いや都度発注へ。オンラインECを軸としたオンデマンドビジネスが加速してきている。そこにあるのは生産工程の効率化と自動化。Tシャツオンデマンドを例にあげると、デザイナーは自分が作ったグラフィックをクラウドにアップロードするだけでOK。これで商品の準備が整う。土台にある印刷工程をまったく意識しなくていい。だからこそ気になる。これらのビジネスを支えている現場の姿が。

他の誰も着ていそうにないTシャツもすぐに探せる時代

豊富な水量を誇る木曽川の近くにある堀江織物。古来よりこの地では繊維産業が盛況だ。

夏がきました。汗っかきにとって鬼門の夏がきました。さあ、今年もたくさんのTシャツを消費するのだなあと思うと、ネットで検索する楽しさもひとしお。そこにこそ喜びを見出したい。2020年サマーの現代って、かっこいい/かわいいデザインのアイテムをオンラインで注文して、数日後には手に届くアパレルオンデマンドサービスが充実しまくってますからね!

UTme!(ユニクロ)、SUZURI(GMOペパポ)、pixivFACTORY(pixiv)などのサービスは使うのが本当にカンタンです。好きなデザイン・ロゴを選んだら、Tシャツの色・サイズを選ぶだけで注文完了。

同時に、これらのサービスはデザイナーにとってもカンタンなんです。自分の作った画像をアップロードするだけで、Tシャツ、パーカーやトートバッグ、マグカップ、iPhoneケースにいたるまで、同じデザインであしらった商品を一気に揃えることができるのですから。

でも自分でアイロンプリントなり、プリントゴッコならぬシルクスクリーンでTシャツを自作したことがある方は、こんなにカンタンに作れていいのかって思うはず。面倒くさいんですよ。実際のプリントの工程って。だから、Photoshopやイラレで作ったデータをアップロードしただけで商品になるというところがとっても魔法っぽい。

ので、聞いてきました。数々のオンデマンドプリントサービスを支えている堀江織物、そして日本全国の様々な製造業ネットワークを作っているOpenFactoryのアクションを。

少量生産・ハイスピード納品が得意だった堀江織物

堀江織物株式会社 取締役 マーケティング部部長の堀江賢司さん。印刷の可能性を拡張し、”楽しい印刷”を広げていくエバンジェリストといえる。

平安時代から絹織物などの繊維産業が根付き、江戸時代に木綿産業の中心地ともなった愛知県一宮市に、堀江織物の本社及び工場があります。

同社取締役兼マーケティング部部長である堀江賢司さんいわく、堀江織物はのぼり旗、横断幕、テーブルクロスといった大きく、長い布への印刷や、イベント・アニメグッズといったアイテムの印刷・製造を得意とした会社で、シルクスクリーン印刷とデジタルプリンターを使ったオンデマンド印刷を主軸としています。

発色豊かな、のぼりの数々。コーポレートカラーなどの特色にも対応している。

堀江 飲食店やパチンコ屋の新規オープン、新装開店のときにつかうのぼりや旗などを受注してきました。こういったオーダーは早い納期が求められます。そのため25年位前からデジタルプリンターを導入してきたんですよ。CMYKの4版を作らなければならないシルクスクリーンと比較して、デジタルプリンターならより短い時間で完成品が作れますから。

個人ユーザーからの受注に着目したOpenFactory

1週間納品などイベントごとに求められるのぼりの生産は、まさにオンデマンドな製造環境があってこそ受注できるもの。その知見と新たな観点から新たに株式会社OpenFactory(オープンファクトリー)を設立。2013年には東京に実店舗のHappyPrintersを立ち上げました。

Tシャツに直接印刷するブラザー製ガーメントプリンターを導入。1枚1枚、デザインが異なるオンデマンドプリントの依頼に対応している。

堀江 3Dプリンターが話題となった時期で、メイカームーブメントも盛り上がってきました。既存の営業スタイルだと小ロット生産には対応できないことから、東京・原宿にHappyPrintersを作ったんですね。しかしお店で営業していると、お客さんと対面で接客するため、どうしても効率が低くなってしまう、基本的に儲からないビジネスモデルでした。そこで他社のオンラインオンデマンドサービスをサポートするようになったんです。

DICカラーに対応する調合機。オンデマンド印刷は必要とするインク量を見極められるため、環境保全・エコの面でも優れているという。

ここで手掛けたのは、オリジナルのデザインをプリントしたモバイルバッテリー販売サービスのサポート。サービス運営会社とモバイルバッテリー生産会社のコラボを裏方として支えることで、累計で2万個ほどのモバイルバッテリーの印刷に従事したんですって。

2015年には、オンラインでオリジナルデザインの布生地を購入できるオリジナルファブリック・マーケット・HappyFabric(ハッピーファブリック)をオープン。購入するユーザーだけではなく、自分で布生地をデザインしたいクリエイターも集まり、2020年6月には登録デザイン数が1万件を突破するまでに成長しました。

堀江 OpenFactoryの活動で学んだのは、今までデータの受け渡しが面倒だったんだなあということでしたね。WEBを受付とすると、お客さんも、クリエイターも、工場のスタッフもラクなんです。工場では管理画面をそのまま見ることができるので、従来のように指示書を作って回すなどの事務作業がカットできましたし。また受付画面のUIも重要ですね。誰しもが印刷やデータの種類に詳しいわけではありませんから、これから印刷して作るということを意識させず、たまたま購入したものが印刷品だったといいうのが一番いいと考えています。

全国各地の工場でネットワークを組み、オンデマンド需要に対応

様々なオンデマンドサービスが普及したことで、モノを作りたいと思う人たちも参入しやすくなった現在。堀江さんは堀江織物とOpenFactoryだけではなく、より多くの企業にオンデマンド印刷の世界を魅力あるものだと感じてもらうための一手を打っています。

展示会などのイベントで使われる横断幕・パネル・バナー・タペストリーも、堀江織物が得意とする分野。

堀江 オンラインサービスが増えてくる中で、オンデマンドでシステム連携できる工場が見つからないという問題点があります。そこを、僕らが解決できたらいいな、と考えているんです。すでにサービスを持っているところに、ウチだけではなく他の工場で作れるオンデマンド品を売り込んだり、新しいオンデマンド対応グッズを開発したり。またIT企業の方が地場産業的な工場の方とやり取りするときに生まれやすい齟齬を埋めていくことも大事ですね。

古くからの商売を続けている工場の場合、たとえオンデマンド印刷に対応したプリンターを導入していたとしても、1ロット1000個からしか受け付けないというケースがあるといいます。これは受注方式が電話やFAX、メールが多く、受注作業の手間がかかるためです。

堀江 僕らのシステムは受注も製造も、出荷まで全部WEBでできるよというのを売りにしています。営業マンの受注の手間がなくなり、印刷の自動化で製造コストも下げられる。作るものは一つ一つであっても大量生産に近い価格で提供できます。

オンラインサイトの受注データをAPIが受け取り、プリントするためのデータをプリンタに自動インポートするシステム、というわけですね。

堀江 また仲間となった工場の、すべてのオンデマンド対応商品を1つにまとめたカタログ的ECサイトの開発も考えています。新しい商品が作れるとなっても、すぐに他のサービスが買ってくれるわけでもなくて、すごくもったいないのでそれをカタログ化したいと思っています。僕らのサイトから工場に、少しずつでも仕事が入っていくようなプラットフォームにしたいですし。

同じプリンターを使っていても、インクの選択によって出色が異なる。工場による個性の差も出していける。

いまここで告白します。オンデマンドサービスといえばビデオや、名刺や同人誌的なものばかりかな。と考えていました。でも印刷1つとっても、紙媒体だけではなくもっと様々な商品をオンデマンドで作れるし、オンデマンドという意識がなくとも注文できる時代になってたんですよね。

必要最低限の在庫しか持たなくていいから、ファンの多い飲食店のTシャツなどもオンデマンドサービスで作りやすいでしょう。堀江さんから聞いたお話では、酒蔵とのコラボで複数の居酒屋オリジナル焼酎を作っている(居酒屋ごとの瓶ラベルシールをオンデマンドプリント)ケースもあるとのことですよ。

カラフルな靴下を作れるプリンターもあるときいて、想像以上にいろんなアイテムが増えてきてるんだろうなあ、と実感するばかり。堀江さんと仲間たちが作るオンデマンドサイトが登場したら、自分でもオリジナルデザインのモノを作ってみたい。そう感じました。

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