【もうすぐ出ますよ!注目の日本車】トヨタ「ヤリスクロス」が小型SUVの勢力図を変える

今、日本で最も熱いカージャンルのひとつが、コンパクトクロスオーバーSUV。全長は4.2〜4.4m程度で、街乗りを始めとする舗装路での走りに主眼を置き、乗用車テイストに仕立てられたモデルたちだ。

ホンダ「ヴェゼル」やトヨタ「C-HR」といった、SUVの販売ランキングでトップを争う人気車種も同ジャンルに属しているし、先日、日産自動車から発売された「キックス」も、デビュー直後から人気を集めている。

ここに紹介する「ヤリスクロス」は、そんな人気ジャンルにトヨタが放つブランニューモデル。発売に先立ってプロトタイプ(試作車両)に試乗することができたので、その印象をお伝えしよう。

■「ライズ」と「C-HR」の間を埋めるブランニューSUV

ネーミングから推測できるように、ヤリスクロスは先に登場した「ヤリス」をベースとするモデルであり、開発責任者もヤリスと同じエンジニアが担当している。しかし、目に触れるアッパーボディは、全くの新設計。エクステリアには“ヤリスらしさ”を感じさせる共通点は見当たらない。ボディサイズは全長4180mm、全幅1765mm、全高1590mmで、ホイールベースこそヤリスと同じながら、全長で240mm、全幅で70mm、全高で75〜90mm拡大されている。

ボディサイズから見えてくるのは、トヨタのSUVラインナップにおけるヤリスクロスのポジショニングだ。現在、トヨタが販売するSUVの中で、最もコンパクトなのは「ライズ」であり、その全長は3995mm、全幅は1695mmである。その上位に位置するのはC-HRで、こちらは全長4385mm、全幅1795mmとなっている。つまりヤリスクロスは、ちょうど両車の中間に位置するモデルであり、数値的には初代「RAV4」に近いサイズとなる。

そんなヤリスクロスで興味深いのは、C-HRとのパッケージングの違いだ。C-HRはスポーティ感やクーペ的な雰囲気を重視したモデルであり、軽快なスタイリングを第一とした結果、リアシートやラゲッジスペースには割り切りが見られる。それに対し、ヤリスクロスは使い勝手を重視し、C-HRよりも実用的な居住空間や荷室を備えている。つまり、トヨタにはこれまでなかった実用性重視のBセグメントSUVなのだ。ライバルであるホンダのヴェゼルや日産のキックスに対し、トヨタが直球勝負を仕掛けてきたと見て間違いないだろう。

ヤリスクロスには、ベースモデルであるヤリスと同様、ガソリンエンジンとハイブリッドというふたつのパワーユニットが用意される。前者は1.5リッターの直列3気筒自然吸気エンジンで120馬力を発生。

後者も同じエンジンを核とするものの、ハイブリッド用のチューニングを受けた別物(最高出力は91馬力)となり、そこにモーターを組み合わせることで、システム最高出力(エンジンとモーターの総合的な出力の最高値)は116馬力を記録する。

気になる燃費データは、現時点で公表されていないものの、ヤリスの実力から考えると、ハイブリッド車なら30km/Lに迫る実燃費を期待できそうだ。これはコンパクトSUVとしてはすごい数値である。

■「ヤリス」に比べて居住性や使い勝手が大幅アップ

ヤリスよりも大きなボディを与えられたヤリスクロスは、その分、室内空間が広がっている。実はヤリスクロス最大の存在理由は、そこにもあるといっても過言ではなく、狙っているのは単なる“ヤリスのSUVバージョン”ではなく、“実用的なヤリス”といえる。

実はヤリスは、前身に当たる3代目「ヴィッツ」と比べ、後席の居住性で少々見劣りする。それは、燃費や走行性能といったクルマとしての基本性能を高めるために割り切られた部分であり、さらには“小さいことに価値がある”という欧州におけるコンパクトハッチバックの考え方をも受けた結果でもあるのだが、いざオーナーになってみると、実用性に対して不満を感じる人は少なくないだろう。

その点、ヤリスクロスは、ヤリスに対してリアシートの居住性が格段に引き上げられている。リアシートは、足下スペースの絶対値こそヤリスと変わらないものの、シートの座面が高くなったことで乗員の着座姿勢が変化し、足の収まりが良くなった。また、キャビン上部の絞り込みが小さくなったことで、頭上空間も広く感じる。

加えてラゲッジスペースは、ヤリスの最大270Lから、ヤリスクロスでは390Lへと大幅に拡大されている。そのため、リアシートの背もたれを倒すことなく、9インチのゴルフバッグを2個積めたり、一般的に超過料金なしに旅客機に預けられる最大サイズである110Lのスーツケースを2個積載できたりと、そのボディサイズからは想像できないほどの優れた積載性を実現している。

また、このクラスでは見かけることのない、4:2:4の分割可倒式リアシートを採用。中央部分だけを倒せば、長尺物も積んだ状態でも大人4名がゆとりをもって座れる。

さらに荷室フロアには、6:4分割の“アジャスタブルデッキボード”が採用されていて、載せる荷物の高さに応じて荷室高を2段階にアレンジできる。ちなみに開発陣によると、ライバルにはないこうしたアイデアも、ヤリスクロスにとってマストな要素だとして開発されたという。

このほかヤリスクロスは、ヤリスよりも装備の上級化が図られている。例えば、運転席の電動調整機構や電動リアゲートといった便利装備は、プレミアムブランドのコンパクトカーにも匹敵するものであり、国産コンパクトSUVの装備もここまで充実したかと正直うれしくなった。

■サーキット走行も難なくこなす実力派

ヤリスクロスには、走りを左右するメカニズムにおいても、ヤリスにはないデバイスが採用されている。例えば4WD車には、路面状況に応じてシステムの制御などを切り替え、安定した走りをサポートする“マルチテレインセレクト”(ガソリン車)や、“TRAILモード”(ハイブリッド車)などを搭載。SUVらしい走破性の向上に取り組んでいる。これらは一般のユーザーも、雪道などでメリットを実感できる機構だろう。

また先進安全装備においても、高速道路走行時などに強い横風を受けた際、車線からはみ出すのを防ぐ横風対応制御付きの”S-VSC“を搭載。さらに、パーキングブレーキを電動化することで、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)使用時の渋滞時停止保持機能を備える点も、ヤリスからアップグレードされた部分だ。

そんなヤリスクロスのプロトタイプを、今回、サーキットでドライブした。こうしたSUVをサーキットで走らせるなんて、少し前では考えられなかったことだ。重心の高いSUVは、サーキットを走るには明らかに不利なパッケージングであり、かつてのモデルは走行時の挙動がフラフラするなど、アラが目立ってばかりいた。

しかしヤリスクロスは、そんなSUVにとって過酷なサーキット走行も、当たり前のようにこなす実力派だった。走行性能の評価が高いヤリスと基本設計を共用するだけあって、SUVとは思えないほど挙動が安定。不安定な動きなど微塵も感じることなく走り切れた。

確かにヤリスと比べると、重く重心が高い分、クルマの挙動は大らかで、キビキビした感覚は控えめだ。しかし、コーナリングではドライバーが思った通りに曲がってくれるし、ハンドルを切り込んでいってもロールは穏やかで、車体がグラッと傾くような不安な動きは生じない。また、ハンドルを切る量によって曲がり方が大きく変化するといった悪癖もなかった。改めて、イマドキのSUVの運動性能の高さを認識させられることとなった。

一方、加速フィールに関しては、ハイブリッド車の方がより魅力的に感じられた。最新世代のトヨタ製ハイブリッドは、従来のそれと比べてアクセル操作に対する反応などドライバビリティが大幅に向上している上に、モーターアシストによる中間加速の力強さやエンジン音の静かさなどに、ガソリン車に対する明確なアドバンテージが感じられる。例えるなら、エンジンの排気量がひと回り大きくなったかのような感覚なのだ。

加速性能に関しては、確かにサーキットのような場所でエンジンをガンガン回すようなシーンでは、ガソリン車の方が高速領域での伸びを実感できる。しかし、日常的なシーンでは、モーターアシストによるトルクアップの恩恵を受けられるハイブリッド車の方が優位に立つ。

ヤリスクロスはいうなれば、流行りのSUVスタイルを採り入れ、より広く、より実用的にし、装備も充実させたヤリスのもうひとつの姿といえる。そんなヤリスクロスのキャラクターを例えるなら、ユニクロのウエアといったところか。デザインに強い主張はないけれど、個性的過ぎず適度にオシャレで、居住性などの使い勝手が良く、走りというクルマにとっての基本もしっかり作り込まれている。

ちなみに発売は9月初旬とのことだが、昨今のトヨタ車らしく、価格設定の面でもライバルに対する強い競争力を備えているらしい。断言しよう。新しいヤリスクロスには、もはや売れる予感しかしない!

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。


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