あのTechnicsから完全ワイヤレスイヤフォン「EAH-AZ70W」登場
左右ユニット間との通信をもワイヤレス化した「完全ワイヤレス(True Wireless)イヤフォン」は、イヤフォン界隈の”台風の目”。いわゆる最先端で売れ筋の商品であり、イヤフォンメーカー各社が鎬を削るカテゴリだ。
しかし、競争が激しいだけに技術が進化するペースも速い。当初は完全ワイヤレスというだけで話題になったが、左右ユニット間の音途切れを減らした製品が人気となり、やがて音質志向の製品が次々登場し、デザイン性や価格で訴求を図るブランドも現れ始めた。
そして2019年には、「(アクティブ)ノイズキャンセル」という要素が加わった。小型マイクで集音した周囲のノイズをもとにプロセッサーで演算を行い逆位相の音波を生成、それを重ねて出力することによりノイズを打ち消すという機能だが、これを完全ワイヤレスで行うのは技術的なハードルが高い。
1つにはプロセッサーの性能。精緻な逆位相波の生成には演算性能が高いプロセッサーのほうが有利だからだ。2つには、ノイズを取り除くためのソフトウェア(フィルタ)。どの帯域をどれほど調整するかによってノイズの減り方や音質が変わるため、開発の経験値が要求される。マイクをどこに、どの角度で取り付けるか、耳とユニットがどれだけフィットするかなどのアナログな作り込みも重要だ。
今回取り上げる「EAH-AZ70W」は、2014年に復活を遂げた歴史あるオーディオブランド「Technics」初となる完全ワイヤレスイヤフォン。左右ユニットの音途切れを防ぎ、アクティブノイズキャンセル機能を備え、そしてTechnicsの名にし負う音質と、最新のトレンドが”全部入り”の製品だ。そのあれやこれやについて、開発者のコメントを交えながら紹介する。
Technics開発チームに訊いてみた
一般的に完全ワイヤレスイヤフォンといえば、左右ユニットのどちらかがスマートフォンなどの送信機器(Bluetoothトランスミッター)と通信してLR両チャンネルのオーディオ信号を受信し、もう一方のユニットに片チャンネルの信号を送信するというリレー方式の接続が行われるが、EAH-AZ70Wは「左右独立受信方式」。左右ユニットそれぞれが送信機器から直接LRの信号を受信するのだ。
この左右独立受信方式は、Qualcommが「TWS Plus」という名称で商品化しており、スマートフォンなどBluetoothトランスミッター側にQualcommのSoC(Snapdragonシリーズ)が必要。iPhoneなど他のSoCを積むスマートフォンでは利用できないため、市場が限られてしまう悩ましさがある。
EAH-AZ70Wでは、他社製のチップを利用して左右独立受信方式を実現しており、前述した”Qualcommしばり”は存在しない。Bluetooth/A2DP対応製品であればよく、iPhoneとAndroidのどちらでも左右ユニットそれぞれが直接LRの信号を受信できるのだ。
この点についてTechnics開発チームに尋ねると、「完全ワイヤレスは大きさが重要。ドライバーやマイクも影響するが、電池をコンパクトにする効果が大きい。そのためには左右独立受信方式が必要だった」(深川氏)という。電力消費ペースが左右一方に偏りがちなリレー方式に比べ、均等に電力を消費する左右独立受信方式のほうがバッテリーサイズを小さくできるのだそうだ。
レイテンシーの軽減にも左右独立伝送がひと役かっているのだそう。Bluetoothオーディオでは音途切れを回避するため、オーディオ信号を一定量バッファーするが、そのサイズを増やすと途切れにくくなる反面レイテンシーが長くなる。しかし左右独立受信方式は片チャンネルの信号を右から左へ(あるいは左から右へ)送る必要がないぶん、リレー方式に比べバッファー量が少なくていい。「音途切れや混信を避けるため多少は設けている」(稲田氏)とのことだが、リレー方式と比べればバッファーが少なく、結果としてレイテンシー短縮に寄与しているのは確かだという。
EAH-AZ70Wのもうひとつの売りは、ノイズキャンセルの独自性にある。一般的にアクティブノイズキャンセルで効果を高める場合、ノイズを拾うマイクをハウジングの外側に設置する方式(フィードフォワード)と、内側に設置する方式(フィードバック)を併用するが、最終的にはプロセッサーで処理する都合上両方をデジタル回路にすることが多い。しかし、EAH-AZ70Wではフィードバックにアナログ回路を利用している。これが「デュアルハイブリッド・ノイズキャンセリング」と呼ばれるPanasonic/Technicsの独自技術だ。
この技術の効果は確かで、ONにするやいなや電車やクルマの走行音がすっと消える。まったくの無音ではないものの、電車の「ガタンゴトン」は「カタンコトン」になり、窓越しに聞こえるクルマの走行音は「ブオー」から「シュー」に変わる。しかも一部のノイズキャンセルイヤフォンで感じる独特の閉塞感・圧迫感 — エレベーターで耳がツンとするときに似ている — が気にならない。ノイズ低減効果がいいだけでなく、自然なのだ。
効きの要因についてTechnics開発チームに尋ねると、ひとつにアナログ回路の採用を挙げた。しかも、「フィードフォワード方式は信号がドライバーに到達するまでの時間を考慮した高精度な演算が必要なため、プロセッサーの性能は高ければ高いほどいいが、消費電力とのトレードオフの関係になる。一方のフィードバック方式は鼓膜に近いため、そこまでではない。しかも我々はアナログ回路を選択したため、遅延がないうえ省エネだ」(深川氏)というから、計算づくだ。
Technicsの名を冠するだけに、「音質最優先で設計した」(小長谷氏)と音にもこだわる。ノイズキャンセルなど他機能と同時進行で開発されるが、まずはこれらの機能を除いた音響設計で音質目標を明確にした上で開発を行ったそうだ。音の要因となるドライバーは、5、6つほど候補がある中、ドライバー特性や音質を確認のうえ改良を加えるなどして最終決定したそうだが、「音がいいものは電気の消費が少くてすむ、つまり能率がいい。だから特性が良く駆動力が高いドライバーを追い続けた」(小長谷氏)とのことで、強いこだわりが感じられる。直径10mmのグラフェンコートPEEK振動板は、その帰結というわけだ。
品よく大人の仕上がり
2週間ほど試用したうえでの印象だが、左右独立伝送が予想以上にいい。1mほどの常識的な範囲で利用したかぎりでは音途切れがなく、バッテリーが減るペースも左右でほぼ同じだ(専用アプリ「Technics Audio Connect」で確認できる)。Qualcommのチップを使わないという選択をしたため、同じくQualcommが開発したコーデック「aptX」を使えないものの、それはaptX非対応のiPhoneユーザーには関係ない話。ほぼすべてのスマートフォンユーザーが「音途切れなし&省電力」のメリットを享受できるほうが合理的だ。
ノイズキャンセルの効きも上々。今現在も遠くからセミの鳴き声(人間がもっとも敏感に反応する4KHz前後)は聞こえるものの、エアコン室外機の不快な低周波音はしっかりシャットアウト。感じない人もいるそうだが、個人的には閉塞感・圧迫感が少ない自然なところが気に入っている。
課題があるとすれば、通話時の音声品質だろうか。テレワークでの利用を考慮すれば、マイクが拾った音(自分の声)の騒音抑制/ノイズサプレッション機能があればいいし、HD Voice対応も欲しいところ。ただここ数ヵ月で急速にニーズが高まった機能なだけに、この点に関しては次期モデルに期待したい。
それにしても、直径10mm/グラフェンコートPEEK振動板を採用したダイナミックドライバーの鳴りっぷりたるや。しっかりと低音を感じさせてくれるし、音の輪郭に精緻さもある。デザインはシンプルだが品よくまとめられ、飽きがこない。初号機なれど、”違いのわかる大人の完全ワイヤレス”として独自のポジションを確立したように思うが、いかに。
- Original:https://jp.techcrunch.com/2020/08/03/wireless-audio-reviews-0001/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Shinobu Unakami
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