●What’s ビザールウォッチ?
<今月の時計>
Vol.19
ARNOLD & SON
グローブトロッター・ナイト
「時間」は目には見えない。しかし確かにそこに存在しており、人々の生活に深く入り込み、社会の基盤となっている。それは神にも似ている。というか、時間は「神」なのだ。
ラテン語で「時」や「時間」を意味するChronusは、ギリシャ神話に登場する「“時の神”クロノス」からきた。その英語表記がChronosで、ストップウォッチ機構のChronograph(クロノグラフ)や高精度を意味するChronometer(クロノメーター)、などの時計用語になっている。さらにはAnachronism(アナクロニズム=時代錯誤)のように、時間に関する言葉にもChronoが入っている場合もある。
しかも神のランキング(?)はかなり上位だ。“時の神”クロノスは、全ての始まりである“カオス”から生まれた“地の神”ガイアと、その子供である“天の神”ウラノスの間に生まれたタイタン12神の末弟(ギリシャ神話では近親婚は普通のことだ)。兄弟には“太陽の神”や“海の神”、“掟の神”、“記憶の神”など、世界や社会の骨格をなす大物の神々が揃っている。そしてクロノスと“大地の女神”レアの間に生まれたのが、“全知全能の神”であるゼウス。つまり全知全能の神よりも上流に、“時間”が存在する。時間は人知を超えたところに存在しているのだ。
だから為政者たちは、時間を使って人々をコントロールしたのだろう。機械式時計が教会の時計塔から始まったのは、祈りの時間を人々に伝えるためである。現代であれば、会社経営者は出社時間を決めることで市民から惰眠をむさぼる自由を奪っている。欧米ではお酒を購入できる時間が決まっているが、これだって市民の喜びを時間で縛り付けているといえよう。“時を支配する”ということは、“社会を支配する”ということなのだ。
ビザールウォッチにも、時を支配する神の気分になれる作品がある。
1780年代に活躍したイギリスの時計師ジョン・アーノルドと息子が立ち上げた時計工房の伝統からインスピレーションを得た「アーノルド&サン」は、独創的なメカニズムを得意としている実力派。同社の人気モデル「グローブトロッター」は、ドーム型風防の下にドーム状の地球儀(半地球ドーム)が収まる時計。それはまるで宇宙から地球を見下ろす“神の目線”であるかのようだ。2020年の新作「グローブトロッター・ナイト」は、さらに“神度”が高い。地球を暗く落として夜を表現し、その上に街の光を書き込んだ。煌々と光っているところは人々が活発に活動している場所であり、逆にカナダやユーラシア大陸の中央部は暗くて人の痕跡がない。人々の暮らしを遠くから見守りながら、時を刻んでいくのだ。
ちなみにこの地球儀は24時間で一周し、24時間表示と組み合わせることで、世界中の現在時間がなんとなく把握できるワールドタイム機能を兼ね備える。地球の表面は職人がラッカーを塗り重ねており、日本列島やハワイ諸島なども綺麗に仕上げる一方で時分針は、ドームの下からちょっと見えるだけ。あくまでも主役は地球儀なのだ
ギリシャ神話では、クロノス率いるタイタン族との戦いに勝利したゼウスがクロノスたちを地の底に閉じ込めた。人間もいつかは“時間の支配”から、解放される時が来るのかもしれない。この「グローブトロッター・ナイト」は今という忙しい時間から逃れ、流れる時を楽しむものである。
ARNOLD & SON
グローブトロッター・ナイト
自動巻き、SSケース、ケース径45㎜。世界限定50本。2,010,000円
問アーノルド&サン相談室 ☎0570-03-1764
https://arnoldandson.com/
篠田哲生が断言するビザール度!
視認性★★★3
メカニズム★★★3
コンセプト★★★★★5
プライス★★★3
- Original:https://www.digimonostation.jp/0000128259/
- Source:デジモノステーション
- Author:篠田哲生
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