日本の新車マーケットにおいて、今、一番熱いジャンルといえばコンパクトサイズのクロスオーバーSUV。日産自動車の新型車「キックス」は、そんな激戦区に投入されたモデルで、発売後1カ月で1万台の受注を集めるなど、販売面でも注目を集めている。
前回はテストコースでのチョイ乗りの模様をレポートしたが、今回は公道試乗で改めて気づいたキックスの魅力についてお伝えしたい。
■後席と荷室の広さはカテゴリーのトップクラス
今、マーケットで注目を集めるコンパクトクロスオーバーSUVとは、クルマのクラス分類で“Bセグメント”に属すSUVであり、人気車種はホンダ「ヴェゼル」やトヨタ「C-HR」といったところ。いずれも全長4.3m前後と短めで、ハイブリッドカーが販売の中心となっているのも興味深い。
日産自動車のキックスは、そんな熱い市場へ投入された期待のニューモデルで、その魅力を語る上で外せないポイントとなるのが、優れたパッケージングと静粛性、そしてパワートレーンの出来栄えだ。
まずキックスに触れるたびに感心させられるのが、リアシートとラゲッジスペースの広さだ。キックスのパッケージングはとても秀逸で、全長4290mmという小柄なボディながら、後席に座った瞬間からその広さに驚かされる。ヒザ回りのゆとりこそクラストップのヴェゼルにわずかに届かないが、それに迫る空間を確保。さらに頭上空間のゆとりはクラスNo.1で、後席座った人の頭頂部と天井との間には十分な余裕がある。その上、リアエンドでもルーフが極端に低くならないことから、リアサイドのウインドウが大きく、その分、開放感にも優れる。このようにリアシートの居住性は、クラスをリードするレベルにある。
実用面におけるもうひとつのハイライトがラゲッジスペースである。キャンプやウインタースポーツといったアウトドアレジャーを楽しむユーザーにとって、クルマ選びにおける荷室の広さは気になるところ。その点キックスは、心強い存在だ。リアシート使用時の荷室長(荷室フロアの奥行き)は900mmと十分で、荷室容量自体も432Lとクラストップを誇る。いずれも、車体サイズがひと回り大きいマツダ「CX-30」を上回る数値といえば、その広さをイメージしやすいだろう。
具体的には、9インチのゴルフバッグを3セット、もしくは、LLサイズのスーツケースを2個(より一般的なMサイズなら4個)積み込める。これだけの荷室空間を確保しているモデルは、このクラスではキックスとヴェゼルだけだ。
■エンジンの存在を感じさせないキックスのe-POWER
公道試乗で改めて感心したのは、キックスの静粛性の高さだ。前回、テストコースでの試乗でも感じたことだが、周りを他のクルマが行き交い、刻々と変化する路面の舗装とタイヤとの間で生じるロードノイズなどが耳に届く日常的な環境で走らせてみると、その静かさをより実感できた。
実はキックスは、日本市場への投入に際して商品改良が施されているが、その際、静粛性を徹底追求。エンジンルームとキャビンの間にある隔壁やドアの内部、そして、リアタイヤ周りに遮音材を追加したほか、フロントとサイドのウインドウには、厚みを増した遮音ガラスを導入している。それらの配慮により、キャビンに侵入してくる音自体が小さく抑えられているのだ。まだ厳密に比較できてはいないが、ライバルと比べてもキックスが最も静かだと思う。
キックスの優れた静粛性には、パワートレーンに対する考え方の変化も効いている。キックスに搭載されるパワーユニットは、日産自動車が“e-POWER(イーパワー)”と呼ぶハイブリッドで、エンジンは発電に徹し、駆動力はモーターが生み出す仕掛けだ。同システムはすでに「ノート」や「セレナ」で大人気となっているが、先行する2台では時々、低い速度で走っている際にもエンジンがかかり、耳障りに感じることがある。しかしキックスでは、そうしたケースがほとんどないのだ。
その理由は、e-POWERの制御を従来の「充電量を重視」という考え方から「車速を重視して低速では極力発電しない」という方針に転換したからだという。ある程度、車速が高まった時に集中的に充電することで、エンジンがオン/オフを繰り返す回数(これが断続的に起きると耳障りに感じる)を減らしているのだ。ちなみに開発陣によると、エンジンが始動する頻度は「ライバル車の半分程度」という。
さらにキックスでは、乗員にエンジンを意識させないよう、「ノートe-POWER」よりもエンジン回転数を下げている。具体的にいうと、ノートe-POWERでは60km/hまで、ほぼ一定としていた発電のための基本的なエンジン回転数を、キックスでは約400回転低い2000回転とし、エンジン自体の作動音を低減しているのだ。こうしたさまざまな工夫から、キックスはエンジンの存在を意識させないクルマに仕上がっている。
■随所に進化の跡が見える日産のテクノロジー
e-POWERはすべての駆動力をモーターが生み出すため、キックスの加速フィールは電気自動車のそれに酷似している。一般的なエンジン車とは異なり、滑らかでスムーズな加速感が魅力で、特にアクセルペダルを踏んだ直後の反応は、他社のハイブリッドに比べて素早く力強い。モーターの特性を最大限に生かした加速感は、ライバルのヴェゼルやC-HRより数段上の爽快感をドライバーにもたらしてくれる。BセグメントのSUVで最も気持ちいい爽快なドライブフィールは、キックスを選ぶ大きな理由となるだろう。
そんなキックスには、減速時の回生機能と機械的なブレーキとを協調制御することで、アクセルペダルを戻すだけで減速する機能“e-ペダル”が搭載されているが、こうした運転操作系の制御も、しっかりと進化している。一般的なクルマは、アクセルペダルを戻すと惰性で前へ進むが、e-ペダルはブレーキを踏まなくても減速する(スイッチ操作で一般的なクルマと同じ状態にも切り替えられる)。その制御は、ノートe-POWERでも違和感が少なかったものの、キックスではそれが、さらに自然になっている。具体的には、アクセルペダルを戻した瞬間や、戻した直後の減速が滑らかになり、より上手な人のブレーキ操作に近づいた印象だ。
細かい部分では、メーカーオプションの“インテリジェントルームミラー(電子式ルームミラー)”にも進化が感じられた。これは、ルームミラーに液晶モニターが組み込まれていて、車両後部のカメラが映し出す映像を通じて後方視界を確認するもので、一般的な鏡よりも見える範囲が広いというメリットがある。
日産はこれまで、インテリジェントルームミラーを多くの車種に展開してきたが、最新モデルであるキックスのそれは、映像が従来のものよりさらに精細になり、トンネル内や夜間などの暗い環境下でも見やすくなっている。
その理由のひとつは、液晶自体の画質がアップしたことだ。キックスに組み込まれているのは大幅なバージョンアップが施されたもので、解像度は従来タイプの1.5倍。まるでピントの甘い写真から“ガチピン”の写真になったかのように、車両後方の様子が映し出してくれる。
さらに、従来は苦手だった暗い環境下でも見やすくなったのは、明るさの異なる映像を合成して見やすい映像を生み出す“HDR”技術を高度化したため。従来は2枚の画像を合成していたが、最新のそれは3枚の画像を合成することで、より鮮明な視界を映し出せるようになった。これならさまざまなシーンで違和感なく使えることだろう。
このように、クルマ自体は好印象のキックスだが、魅力的であるがゆえに、さらに上を目指して欲しいと思える部分が目についたのも事実。その一例がインテリアの質感だ。ダッシュボードの表面処理やスイッチ類の仕上げ、シートに使われる合皮などがもう少し上質になれば、オーナーの満足感はさらに高まることだろう。
<SPECIFICATIONS>
☆X ツートーンインテリアエディション
ボディサイズ:L4290×W1760×H1610mm
車重:1350kg
駆動方式:FF
エンジン:1198cc 直列3気筒 DOHC
エンジン最高出力:82馬力/6000回転
エンジン最大トルク:10.5kgf-m/3600~5200回転
モーター最高出力:129馬力/4000~8992回転
モーター最大トルク:26.5kgf-m/500~3008回転
価格:286万9900円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
- Original:https://www.goodspress.jp/reports/315401/
- Source:&GP
- Author:&GP
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