車輪のついた大きなクーラーボックスのようなロボットが私の方に向かって勢いよく進んできた。私の左手は盲導犬ジャーマンシェパードの滑らかな皮のハーネスを握り締めた。「Mylo(マイロ)、前へ」。マイロの短い四つ足のスピードは、マイロのものより長い私の足の歩幅に合わせられている。6フィートフォックストロット(約180センチの距離を4分の4拍子で駆けること)。そして私とマイロは対決を回避することにした。
ロボットは背後にいて、レースの様子を録画していた。マイロ1、ロボット0。
マウンテンビュー市議会は今年5月5日にStarship Technologies(スターシップ・テクノロジーズ)のロボットの市道走行を許可(Mountain View Voice記事)した。2014年創業のStarshipは世界いくつかの都市で非接触型配達のロボットを展開している。顧客は食べ物やグローサリー、その他もろもろのパッケージの配達をStarshipのアプリを通じて予約できる。
小さなロボットとのお遊びは興味深いものになった。米国障がい者法(Americans with Disabilities Act of 1990)の制定から30年が経ったが、多くのテック企業はいまだに障害者向けのデザインに対応できていない。自動走行のロボットは障がいを持つ歩行者にどのように反応するのか。
歩道を3mほど行き、私は立ち止まり方向転換した。マイロは緊張していた。私の腕にはい上がるのはその証拠だ。白い外観のロボットはマイロの鼻先で止まった。
ロボットが歩行者を認識してどこかに行ってくれたらと願った。しかしロボットはそこに居続けた。マイロはお座りの姿勢をとった(盲導犬訓練の学校はマイロにロボットの登場について教えていなかった)。私はマイロの耳をこすり、マイロは私の腕に寄りかかってきた。ロボットは動かなかった。
米国の6100万人超が障がいを抱えていて、その多くが車椅子、スクーター、歩行器、他のモビリティデバイスを使用している。電動車椅子を利用するピッツバーグ大学の博士課程の学生Emily Ackerman(エミリー・アッカーマン)氏は交通量の多い4車線道路を横断しているときにStarshipロボットに出くわした。彼女はカーブカット(車道と歩道の間の縁石をなくしたところ)が必要だったが占領されていた。「パニックになりながらもなんとか歩道に入りました。車道から早く逃れたい一心で、カーブカットではなく縁石を越えました。すごい衝撃で、気をつけていなければ途中で引っかかっていたかもしれません」とアッカーマン氏は2019年の記事に書いた。
1960年代と1970年代に、障がいを持つ運動家たちはアクセスしやすい歩道がないと抗議した。この運動がその後のADAへと道を開き、国中の歩道にカーブカットが設けられ、壊れた歩道が修復されることになった。車椅子利用者、ベビーカーを押す親、スケートボードに乗る子供、そしていまロボットすらも、苦労して勝ち取ったカーブカットの恩恵を受けている。障がい者が利用することを想定したデザインはコミュニティ全体のエクスペリエンスを向上させている。
私のロボットとのにらめっこが起きたのは、Starshipが障がいを持つ歩行者への配慮を欠いているとアッカーマン氏が記事で指摘してから6カ月後のことだった。私は辛抱強くStarshipロボットが後退するのを待ったが、わんぱくなロボットはその場から動かなかった。動くことができる盲ろう者として私はロボットを避けて通ることができた。重い足取りでロボットを通り過ぎ、いつもの物理的距離を保ちながらの歩行を続けた。
パンデミックの前は、マイロは私の海外行きや、ブックトーク、社交ダンスに付き添っていた。スウィングやサルサを踊りながら、ダンス相手の手や肩を通じてビートを感じることができた。そうした夜はもうノスタルジアになった。私のインターラクションの多くは研ぎ澄まされた触覚に頼っている。現在繰り広げられている「ノータッチ」の世界で、盲ろう者がこれまで味わった以上の孤独を私は感じている。
私の家は触ることを基本とするソリューションで成り立っている。電子レンジや洗濯機に取り付けた触覚スティッカーによって誰かの助けを借りずに私はそれらを使うことができる。コーヒーマシーン、ブレンダー、コンロなどは物理的コントロールを備える。電話すらも触覚アクセスに対応する。電話のVoiveOverはコンテンツを読み上げ、接続している点字コンピューターに点字を送り、ジェスチャーを通じた非ビジュアルのタッチスクリーンナビゲーションを可能にしている。私はニュースを読み、研究を行い、VoiveOverが利用できるウェブサイトやアプリで投稿を予約する。
外の世界とつながる主要チャンネルとしてインターネットに頼っていると、絶えずバリアを突きつけられる。多くのウェブやアプリのデベロッパーはアクセシビリティガイドラインやADAを無視している。ニュースフィードは描写なしの画像、キャプションや表記なしのビデオ、そして皆の役に立つ新しいアプリのレコメンデーションであふれている。私の経験からするに、「皆」という言葉は障がい者以外の人を指している。
非接触の配達ロボットは目の不自由な人の役に立つかもしれないと思い、私はiPhoneのVoiceOverでアプリをテストした。StarshipアプリはVoiceOverを受け付けず、非接触ソリューションに対する私の望みは断たれた。
パンデミックで障がいを持った人の暮らしが過度に追いやられているいま、目の不自由な人を排除し、自由に動けない歩行者を危険な目にあわせるテックを受け入れる街などあってほしくない。ADAの約束された平等は、実行するかどうかに左右される。推進者たちはすでにADAをNetflixのビデオストリーミングやScribdのデジタルライブラリー、Dominoのオンライン注文、その他のテックサービスに適用した。
行政やテック企業は、ソリューションを考えている障がい者や公開された多くのアクセシビリティガイドラインのレビューを含め、デザインプロセスの初期段階でアクセシビリティを計画する必要がある。マイロと私がもし次にロボットに出くわしたときには、ジャンプして回転し、そして走って逃げた方がいい。
【編集部注】著者のHaben Girma(ハーベン・ギルマ)氏は国際的な障がい司法弁護士。回顧録「Haben: The Deafblind Woman Who Conquered Harvard Law」を出版(未邦訳)。
画像クレジット: Haben Girma
[原文へ]
(翻訳:Mizoguchi)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2020/08/16/2020-08-11-the-robots-occupying-our-sidewalks/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Haben Girma
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