金属3DプリントのDesktop Metalはまさに「金のプリンター」、Kleinerのリターンは投資額の10倍

「金属をプリントする」技術を携えたDesktop Metal(デスクトップ・メタル)は、ひさしぶりにボストンから現れたおもしろいスタートアップだ。3Dプリント市場で大成長する可能性がある。通常3Dプリントでは柔軟性のあるポリマーが材料に使われるため、プリンターが「印刷」できる材料によって、製品のタイプが限られてしまう。なので、数週間前にこの会社がSPAC(特別目的買収会社)の目に留まったのは、ごく自然なことだった。すべてが順調にいけば、2020年末には株式が公開される。

米国時間9月14日朝、Trine(トライン)というSPACとこのスタートアップは、最新の財務と株主に関する報告書を米証券取引委員会(SEC)に提出したが、その内容から大成功を手にするベンチャー投資会社はどこなのかが見えてくる。

まず、2015年のシリーズA以降のDesktop Metalの第一優先株の価格を見てみよう。シリーズA当時は0.53ドルだったが、2019年のシリーズEで販売した株価は10ドルをやや上回るなど、この5年間で急上昇している。

Desktop Metalの株価。

提出された資料(SECサイト)によれば、Desktop Metalの大口の投資会社は、17.66%を所有するNEA、11.59%のLux、11.10%のKleiner、8.89%のGV(元Google Venturs)、6.96%のNorthern Trust、5.89%のKDT(Koch Industriesの子会社)となっている。

Desktop Metalの評価額は、SPACの総合評価額25億ドル(約2630億円)のうちの18億3000万ドル(約1895億円)。この2つの数値の差は、SPACが保有する株式3億500万ドル(約316億円)と、買収の一環として実施される同社への民間投資と手数料やその他の補助的融資を合わせた2億7500万ドル(約290億円)から生じている。

リターンの期待度という面から見るとどうだろう?その提出書類によれば、Desktop Metalは6回のラウンド(シリーズAからシリーズEおよびE-1)で、トータル4億3800万ドル(約460億円)の資本金を調達している。この数値を使った簡単な計算で、個々のファンドが投資会社にどれほどのリターンを提供できたかを大まかに推測できる。

Desktop Metalへの投資額。

投資額の何倍戻ったかという観点で見れば、最大の勝利者はKleiner Perkins(クライナー・パーキンス)だ。Desktop Metalへの投資総額のおよそ10倍のリターンを獲得した。KlienerはシリーズAの5分の1を提供している。およそ300万ドル(約3億1600万円)だ。シリーズBでは、投資額はおよそ1300万ドル(約13億7000万円)に増強された。その後のラウンドでは、次第に比率が下がってゆく。2040万ドル(約21億5000万円)という投資額の比率が、昔に遡るほど大きくなっているところを見ると、それがリターンの倍率を押し上げていることがわかる。

NEAは、おそらくその資本規模の大きさからすべてのラウンドを通して一定した投資を行っており、最終的な投資額はおよそ5700万ドル(約60億円)にのぼる。シードプログラムから参加し、シリーズAの投資割合は43%としている。NEAは継続してDesktop Metalのすべての成長ラウンドに巨額を投じてきた。最終的なNEAのリターンの倍率は、およそ5.67倍と算出される。

最後に、初期ステージの投資会社の間ではLux(ラックス)が5.31倍を守った。同社も同様に、すべてのラウンドに資金を提供している。ただし、NEAほど積極的ではない。最終的にDesktop Metalに投じた資金は4000万ドル(約42億円)となった。

成長投資企業を目指すGVはシリーズCから参加し、その後のラウンドを通じておよそ6500万ドル(約68億5000万円)を投資。リターンの倍率は2.5倍となっている。Northern Trust(ノーザン・トラスト)はシリーズDからの参加で、リターンの倍率は1.6倍。KDT of Koch Industries(コッチ・インダストリーズ)のKDTの場合は、そのメザニンファイナンスの注入によるリターンが1.44倍という結果になった。

これらの投資会社は、みなSECの基準による5%以上の所有権を持つ者たちだ。4億3800万ドル(約460億円)というDesktop Metalの調達額の中には、資本政策表には公開されていない1億ドル(約105億円)があるため、他にも巨額のリターンを獲得しながシェアの公開義務のないベンチャー投資家がいるようだ。またここでは、これらのベンチャー投資会社が所有する少数の普通株による出資金は計算に入れていない。リターンの倍率に影響するほどの大きな額ではないからだ。

ほんの5年間で評価額を急増させたDesktop Metalは、これらの投資会社に投資に対する確かな内部利益率を与えることになる。

Desktop MetalがSPACを通じて株式公開を行えば、これらすべての投資会社には株式を売却するか、そのまま持ち続けるかの選択肢が与えられる。もしDesktop Metalの株式を持ち続け、同社の業績が順調に伸びれば、株価は劇的に上昇してリターンはさらに押し上げられる可能性がある。もちろん、その逆もあり得る。株式公開をした企業にはエグジットするか、するならいつかを決める自由がある。そしてその判断が、リミテッドパートナーたちの最終的なリターンの額を決めることになる。

だが今のところこれは、ベンチャー投資会社たちが、今回の取引でどれだけ成功できるかを確かめる指標として有効に使える。おそらく彼らは、その3Dプリンターで黄金をプリントできるようになるだろう。

関連記事:金属3Dプリント技術を擁するDesktop MetalがSPACを利用したIPOで2600億円超企業に

カテゴリー:VC / エンジェル

タグ:Desktop Metal 3Dプリント SPAC

画像クレジット:Pier Marco Tacca / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)


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