アメリカ本国では2014年に発売されていたMSRのガスストーブ「ウインドバーナーパーソナルストーブシステム」(2万6000円/税別)がついに2020年春より発売されました。「来年発売予定!」と言われ続けて日本上陸まで6年もの月日を要したわけで、“待望”という言葉がふさわしい製品です。
それにしてもなぜこれほどまでに日本上陸が待ち望まれたのでしょうか?
■持ち運びやすいオールインワン
クッカーと燃料やバーナーなど湯沸かしに必要なものをまとめて収納できます。ただし、着火装置は付いていないのでマッチやファイヤースターターなどを別途用意しておきましょう。
収納サイズは11.5×10.7×H18.1cm、465g(ガス缶のぞく)。クッカーの中にバーナー本体とキャニスタースタンド、パックタオル、ガス缶(別売)を収めてフタをします。付属のボウルはクッカーのフィン部分を保護する役目も。
クッカーの中にこれだけのものが収まっています。ガス缶とバーナー本体を逆さまにして収納するのがポイント。写真にはありませんが、底にしなやかなパックタオルを敷くことでクッカー内側の傷つき防止となります。
組み立ててみるとこの通り。ガス缶を装着したバーナーとクッカーがほぼ同じ大きさです。長めの火力調節つまみはありますが、イグナイターは付いていません。
■着火してからクッカーを載せる
「ウインドバーナーパーソナルストーブシステム」にはイグナイターが付いていません。なので、先にライターなどで着火してから水を入れたクッカーを載せます。
通常のバーナーは火口がいくつもあって、そこから炎が出ますが「ウインドバーナーパーソナルストーブシステム」のバーナーはメッシュ状になっていて、その上に一本だけ細いインジケーターワイヤーが伸びています。着火は火力調節つまみを開き、このメッシュ部分にライターなどで火を近づけるという方式です。
インジケーターワイヤーが赤くなったら着火できた合図。太陽の下ではメッシュに火がついたかどうか確認しづらいのですが、インジケターワイヤーのおかげで判断できます。着火確認後、しばらくするとメッシュ全体が赤くなりました。でも、炎らしさはありません。
火がついたらガス缶の上の黒い部分を持って、水を入れてフタをしたクッカーを置き、時計回りにひねってロックします。あとは沸騰まで待つだけ。
横から見ても炎は見えません。暗い場所ならクッカーとバーナーの連結部分の穴が赤くなっていることがわかる程度。
これが「ウインドバーナーパーソナルストーブシステム」のすごいところ。最高出力は1765kcal/h。ガスストーブは2000kcal/hの高出力モデルも珍しくありませんから、少々非力に見えてしまいます。
ところが「ウインドバーナーパーソナルストーブシステム」は炎が見えず、炎が見えないということは風の影響を受けず、さらにプレッシャーレギュレーターを搭載しているので無積雪期であれば安定して湯を沸かせるんです。
クッカーの容量は1Lですが、600mlまで水を入れて湯沸かしできます。
クッカーは底にフィンを備えていて、燃焼時に出た必要のない一酸化炭素を素早く排出しつつ、メッシュからの熱を引き込みます。バーナーの外から燃焼に必要な酸素を取り入れることがない“ラジエントバーナー機構”はMSRが独自に開発したシステムで、風の影響を受けないばかりか閉じた空間で燃焼するので熱を無駄なく利用しているんですね。
そのおかげでしょう、ふたをしていると正確な沸騰時間は判断しづらいのですが、おおよそ2分程度で沸騰しました。
素早い湯沸かしといえば電気ケトルが有名ですが、800mlの湯沸かしには4分ほど。このことからも「ウインドバーナーパーソナルストーブシステム」の超高速具合がわかります。
断熱グリップ付きなので沸騰直後のクッカーでも素手で持てます。不安定な場所で湯沸かしをする場合は、そっとクッカーを押さえておけるのもありがたいですね。
付属クッカーは空炊きすると加熱しすぎて危険なので、必ず水を入れて使用します。
* * *
湯沸かし専用と思うと高価に思えますが、大半のソロキャンパーは焚き火をしています。であればじっくり調理する焼き物・炒め物・煮込み料理は焚き火で。朝一番のコーヒーで体をシャキッと目覚めさせる、肌寒い雨の日にカップスープで体を温めるなんて時に「ウインドバーナーパーソナルストーブシステム」の出番です。
登山シーンなどバーナーでいろいろ料理をしたい人も安心してください。「ウインドバーナーセラミックスキレット」(1万円/税別)や「ウインドバーナーコーヒープレスキット 1.0L用」(2500円/税別)が用意されています。
なお、日本で正規代理店より販売されている「ウインドバーナーパーソナルストーブシステム」は、日本仕様になっています。並行輸入品や発売以前にアメリカから個人輸入した製品はいずれ必要となるOリング交換など国内での修理サービスを受けられないのでご注意を。
>> MSR
<取材・文/大森弘恵 写真/田口陽介>
大森弘恵|フリーランスのライター、編集者。記事のテーマはアウトドア、旅行、ときどき料理。Twitter
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