マッスルでマッシブでマッチョな音楽プレーヤー「KANN ALPHA」

デジカメでいったら4000万画素6000万画素、いや1億画素の超高画素モデル。爆発するドラム、スパッと弾けるベース、空気を切り裂くラッパに、どこまでも澄み渡ったボーカル。ハイクオリティなサウンドを奏でることに特化したポータブルの最新音楽プレーヤーが「KANN ALPHA」です。スマホの3倍近い厚みを持つ機体ですが、プロ用のイヤホン・ヘッドホンでも軽々と鳴らせるパワーを持っているんですよコイツ。

Astell&Kern
KANN ALPHA
実勢価格:13万9980円

いつまでもコイツと付き合いたいと思わせる大型機

切り出した鉱物のような、エッジのライン¥が特徴的な音楽プレーヤー「KANN ALPHA」。

カメラも音楽プレーヤーもスマホで十分、という方もいるでしょう。しかし単体の機能性能クオリティを追求しまくった好事家垂涎の一品が持つオーラは、男子ゴコロを本気でくすぐってくるものです。いくらメールやメッセンジャーの時代になったからといって、実直に性能を追求したモノは機能美にあふれ、いつでも愛でられるように自分のものとしたい欲求がバーニングしちゃうからたまりません。

カメラの分野でいったら、ライカやキヤノン、ニコン、富士フイルムといった歴史あるメーカーの1品。もしくはソニー、パナソニック、シグマといった新興だけどハイエンドなモノを作っているメーカーのフルサイズ。

ディスプレイサイズは4.1インチ。サイズは約68×117×25mm。質量は約316g。バッテリー容量は5600mAh。

スマホカメラのようなシャープネスをMAXに寄せ、露出やエッジを調整しまくって美しい絵を書き出してくれるコンピュテーショナルフォトグラフィは、今後追求していくべき領域ではあります。しかし、マニュアルライクで、カリカリにもしっとりとした表現にもコントロールしやすい、表現の幅や伸びしろの深みが楽しい良質なカメラもまた、能動的欲求を強く満たしてくれるものです。

オーディオの分野でいったら、リビングに置くようなフルサイズステレオならばいろんなメーカーの品があります。プレーヤーにアンプ、スピーカーを自由に組み合わせるコンポーネントの楽しさもまた一興。しかしクルマのような大掛かりなアイテムでもダウンサイジングなパワーユニットが推奨されるこの時代だからこそ、ワンボディの可能性を追求したモノで音楽を聴いてみたいと感じたのです。

美学を感じるアンボックススタイル。高級腕時計のケースのような、メーカーのフィロソフィーが宿っている。

この、「KANN ALPHA」のような。手のひらサイズのモデルで。代理店から借用したので、2週間ほど付き合ってみましたが、沼にハマる覚悟があるならこれ、いつまでもバッテリー交換ができるなら一生コイツで聴き続けたいと思わせる魅力がありました。

プロスペックのヘッドホンも軽々と鳴らせるパワーを持つ

スマートフォンのように見えるが、あくまで音楽再生に特化した機能を持つ。

Astell&KernのA&ultima SP2000、ソニーのNW-WM1Z、カインN8など、10万円を超えるハイエンドクラスのポータブルオーディオプレーヤーは意外にも数が多いのですが、Astell&KernのKANN ALPHAは経路が異なります。ほかのモデルはただ一筋に音質を、か細い音も、複数の音が重なって生まれていく倍音もすべて鳴らしきろうとばかりに、音の純度を高めていくもの。磨ききっていくものです。でも磨きすぎ、と感じてしまうものもなくはない。線が細いか、と感じることがなくはない。

対してKANN ALPHAは、音の純度を高めつつも、他機にはない駆動力をもたせたマッチョモデルです。とはいえ、ドンシャリってわけではありません。繊細道を突き進んできたAstell&Kern製ハイエンドプレーヤーのなかでは低音、重低音にも強く、パッツンドッカンと鳴らせるモデルですが、中域を下げて高域と低域にブーストをかけたものではないんです。

ところでイヤホン・ヘッドホンのなかには鳴らしやすいものと鳴らしにくいものがあります。前者はiPodなどの(総称としての)MP3プレーヤーや、スマートフォンに合わせて作られたといえるものですが、後者はオーディオ機器由来のノイズをカットするために、ハイゲインなアンプと合わせないと正しい性能を発揮できません。

Astell&Kernのシリーズに共通するUI。情報量の多さと操作性の高さを両立している。

KANN ALPHAが狙ったのはここなのでしょう。レコーディングの現場で信頼されているプロフェッショナルなイヤホン・ヘッドホンを鳴らすためのパワーを、手持ちサイズのポータブル音楽プレーヤーに持たせるべき設計された、いわばどんなイヤホン・ヘッドホンでもゴキゲンなサウンドをもたらすものであり、据え置きステレオ機器でいえば、プレーヤーに強力なアンプを組み込んだ、ワンボディレシーバーのような存在です。

さすがに据え置きスピーカーをしっかりと鳴らすだけのパワーはありませんが、ハイゲインモードにすれば、数百Ωのインピーダンスを持つイヤホン・ヘッドホンですら広ダイナミックレンジなボリューム域までもっていけます。

相性の善し悪しを楽しむ沼のはじまり。楽しみにいくか、逃れるか

イヤホン・ヘッドホン接続端子は3.5mmステレオミニ(アンバランス)、2.5mm4極(バランス)、4.4mm5極(バランス)。Bluetoothにも対応する。

ハイパワーなアンプ(高ボルトでも安定駆動な電源回路とタフなOPAMP)があるからといって、即音質アップ、とはいきません。8Ωくらいのイヤホンと合わせるなら、ほかの良さげなポータブル音楽プレーヤーと大差ないと感じる人もいるでしょう。

KANN ALPHAがもたらす音楽世界の深さを味わいたいなら、前述したように高インピーダンスなイヤホン・ヘッドホンと合わせること。それも、アンバランス接続のものを使うこと。

個人的には、本当にレコーディング用途で使われる大型のオーバーヘッド機、片側4機や5機といった多ドライバー搭載イヤホンとの相性に優れるとみました。音の鳴り方に余裕があり、静かな空間からいきなりオーケストラヒット、ディストーションギターの凄まじいソロなど、強烈なアタックが入っても音場にブレがなく、盤石のサウンドステージを描きます。

また古いヘッドホンのケーブル・コネクタを改造したバランス接続モデルを聴くとほろりと泣けてきますね…。うちではソニーDR-Z7(1978年式・110Ω)のカスタム品と合わせてみましたが、音のトメとハネの表現が素晴らしい。コイツの実力をいままで引き出せずに知ることができなかった自分を恥じます。

内部ストレージは64GB。外部ストレージは1TBまでのmicroSDカードが使用できる。

反面、一番ダメなのは、低インピーダンスかつアンバランス接続なイヤホンかな…そこまで数の多い製品ではありませんが、一発ドンとドラムやシンバルが入ったときにノイズが入り、空間が萎縮するイメージがありました。

この相性問題が、オーディオの世界の難しいところ。高いイヤホン・ヘッドホン・スピーカーと、高いプレーヤー・アンプをあわせたからといって、良質な音が手に入るってわけではないのです。

いやあ、沼…だなあ。

でもこの沼感が、良質な一眼カメラに通じる能動的欲求を強く満たしてくれるポイント。自分の好みに少しずつ合わせていく楽しさがあるんですね。

実はソフトウェア面でも沼があります。KANN ALPHAにはAndroidベースのOSが使われていますが、Google Playストアには非対応。かわりに、野良アプリストアのAPKPureが使えます。ここにはSpotify、Amazon Music、Apple Musicなどのアプリもあり、ストリーミングデバイスとしてシステムアップすることが可能になります。

ジャンルの概念すらない新曲も見つかるSoundCloudも入れて、Wi-Fiルーターやテザリング経由で聴くことができちゃうというカオスさもまた一興!

直線基調の美しいボディラインは普遍的で、いつまでも色褪せないだろう。だからこそメーカーには長期のバッテリー交換サービスの提供をお願いしたい。
Astell&Kern


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