10mmの車高アップが走破力に効いてる!トヨタの変化を象徴する特別な「RAV4」

2019年春、3年ぶりに日本市場に復活するや、瞬く間に人気SUVとなったトヨタ「RAV4」。発売から1年半が経過した先日、タフなイメージを強めた特別仕様車が追加された。

車高をアップさせる専用サスペンションやオフロード向けタイヤを履いたこのスペシャルなRAV4は、果たしてどんな魅力を備えているのだろうか?

■これまでのトヨタでは考えられなかった仕立て

このところ、トヨタの動きが実に面白い。中でも顕著なのが商品戦略だ。BMWとの協業でスポーツカーの「スープラ」を作ったり、コンパクトカーの「ヤリス」をベースとしつつも、デザインから車体構造まで全く異なる超本格的4WDスポーツカーの「GRヤリス」を発売したりと、攻めに攻めている。一方、売り方の改革も推進している。車両代に加え、税金やメンテナンス費、そして、任意保険までセットにした月々定額の利用プラン“KINTO(キント)”をスタートさせたほか、KINTO専用の特別仕様車(専用設計のサスペンションが組まれている!)まで設定するなど、これまでの常識では考えられなかったような戦略を次々と打ち出している。

「自動車業界は100年に一度の大変革期を迎えている」と、常々危機意識を口にするのはトヨタ自動車の豊田章男社長。トヨタほどの大企業でも変化しないと生き残れないと声高に主張している。そんな変革の時代に取り残されないよう、積極的に新しいチャレンジを続けているのが今のトヨタ、といっていいだろう。

そんなトヨタの変化を象徴する1台が、新たに追加されたRAV4の特別仕様車だ。実はこのモデル、これまでのトヨタでは考えられなかったような仕立てが施されているのだ。

ベースとなったRAV4は、2019年のフルモデルチェンジと同時に人気車となったミッドサイズのSUV。パワートレーンは2.5リッターエンジンにモーターを組み合わせたハイブリッドと、2リッターの自然吸気エンジンという2タイプで、日本ではハイブリッド仕様が高い人気を集めている。

RAV4は世界180カ国以上で販売される世界戦略車だが、日本と同様、世界でも人気モデルとなっていて、2020年の年間生産台数はコロナ禍の影響を受けたにもかかわらず、100万台に届きそうな勢い。ピンとこないかもしれないが、この数字はスバルの全車種を足した年間生産台数とほぼ同じ。それをRAV4という1車種だけで達成するのだから、いかに人気が沸騰しているかが分かるだろう。

ちなみにトヨタは、「カローラ」でも年間150万台弱という驚異的な実績を残しているが、こちらはセダン、ワゴン、ハッチバックなどすべてのラインナップを含めての数字。RAV4のようにひとつのボディで100万台に届きそうというのは、トヨタとしても初めての経験だという。多くの人々がイメージする以上に、トヨタにとってRAV4は大きな存在なのである。

■前例のない車高アップの専用サスペンション

そんなRAV4に追加された特別仕様車「アドベンチャー“オフロードパッケージ”」の狙いは、さらに無骨かつアグレッシブにし、悪路走破性を高めること。エクステリアでは、前後バンパー下にグレーメタリックの塗装が施されたスキッドプレートを追加するほか、ルーフには大型のルーフレールを装着。そして足下は、見た目もワイルドな18インチのオールテレインタイヤ(悪路も走れるタイヤ)を、マットブラック塗装のホイールに組み合わせて履かせている。

インテリアも、専用デザインのシート表皮に加え、シートやインパネに施されるステッチやドアトリム、そしてドリンクホルダーやトレイといったフロントシート回りに、赤いアクセントカラーを添えている。

またインパネの左端には、専用のロゴをレーザーで彫って入れる(この手法はトヨタの量産車としては初の試み)など、随所にベースモデルとの違いが散見される。

そんなアドベンチャー“オフロードパッケージ”でユニークなのは、サスペンションに手を入れ、車高をアップさせていること。“オフロードパッケージ”の全高は、ベースとなった「アドベンチャー」グレードに対して45mmアップの1735mm。このうち、ルーフレール分が35mmなので、残り10mmはタイヤ&サスペンション回りで稼いだ計算となる。しかも、タイヤ径はベース車比で5mm小さくなっているから、サスペンションのリフトアップ量は15mm相当。結果、最低地上高は10mmアップの210mmとなっている。このように、サスペンションにまで手を入れて車高をアップさせた特別仕様車は極めてまれ。トヨタの開発陣も「前例が思い浮かばない」というくらい珍しいものだ。

今回、特設のオフロードコースで試乗してみたが、10mmの車高アップは想像以上に有効。210mmという最低地上高は「ランドクルーザープラド」のそれに迫るものだけに、難コースでも苦戦することは皆無。あっけないほど簡単に走破してしまった。

ちなみに、タイヤは単なる市販品を装着しているのではなく、“オフロードパッケージ”のために開発された専用品。大型のルーフレールとアルミホイールは、北米仕様に純正採用されていたものだが、北米向けの製造工場があるカナダからパーツを取り寄せ、それを国内工場の生産ラインで装着するという手間を掛けている。こうした手法もトヨタ車としては初めてのこと。知れば知るほど異例づくしの特別仕様車なのだ。

■パーツ類はトヨタディーラーでの市販を検討中

アドベンチャー“オフロードパッケージ”は、これだけの充実アイテムを装着するにも関わらず、ベース車からの価格アップはわずか15万円と割安だ。もし、全パーツを後から装着したら、サスペンションとタイヤ、ルーフレールだけで30万円は軽く超えてしまうだろう。

開発者によると「アフターパーツとして販売するのではなく、工場の新車製造ラインで組み付けることでコストを下げ、特別仕立てのRAV4をお求めになりやすい価格で用意できた」という。また、特別仕様車に装着されるパーツは、「すでにRAV4に乗られているオーナーの方々が、好きなパーツを選んで後から装着できるようにしたい」と、トヨタのディーラーで市販することも検討中とのこと。つまりRAV4オーナーは、手元にある愛車をバージョンアップさせられるわけだ。

「現行のRAV4はこれまで日本国内で約8万台が売れたが、そのうち2万台は無骨なイメージのアドベンチャー仕様。オーナーの方からは『もっとゴツイ仕様が欲しい』との意見を数多くいただいたが、今回の“オフロードパッケージ”はそうした声に応えたもの」と語るのは、RAV4の開発責任者を務める佐伯禎一さん。今回の“オフロードパッケージ”のリリースに当たっては、「何台売れるのか?」ということをひとまず棚上げし、まずは「ブランディングの一環として、RAV4全体のイメージを盛り上げる存在にしたいと考えた」という。

リフトアップされたサスペンション、オフロードタイヤの選択、そして、北米市場向けのパーツをわざわざ取り寄せて国内の生産ラインで装着…。何もかもが異例のRAV4アドベンチャー“オフロードパッケージ”は、大きく変わろうとしているトヨタの象徴ともいえるだろう。ひと昔前のトヨタなら、考えられないクルマ作りだ。

トヨタが変化しているからこそ誕生した特別なRAV4。このクルマもまた、豊田章男社長が常々口にしている「もっともいいクルマ。人が幸せになるクルマ作り」の一環から生まれた1台だ。今後、トヨタからどんな“型破り”のクルマが出てくるのか。楽しみで仕方がない。

<SPECIFICATIONS>
☆アドベンチャー“オフロードパッケージ”
ボディサイズ:L4610×W1865×H1735mm
車重:1620kg
駆動方式:4WD
エンジン:1986cc 直列4気筒 DOHC
トランスミッション:CVT(ギヤ機構付自動無段変速機)
最高出力:171馬力/6600回転
最大トルク:21.1kgf-m/4800回転
価格:346万円

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。


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