2020年のNo.1かも!公道試乗で見えたスバル「レヴォーグ」の驚きの実力

過去3回、プロトタイプにてテストコースやサーキットを走っての印象をお届けしたスバルの新型「レヴォーグ」。先頃ようやく、その真の実力を公道で試す機会を得た。

シャーシ、エンジン、先進安全機能など、随所に新しい技術を盛り込んだスバル渾身の新作は、果たしてどんな出来栄えなのだろうか?

■年間5万人にも満たない日本のユーザーのために

「これは、年間5万人にも満たないお客さまのために開発したクルマです。日本市場に対するスバルの意気込みの強さを感じ取っていただきたいですね」

新型レヴォーグの公道試乗会において、同社の広報担当者はそう語った。年間5万台とは、月に4000台売れた場合の12カ月分に相当する数字だ。新型レヴォーグはひとまず日本市場専用モデルだから、生産されるのは最大でも年5万台程度にしかならない。いくらスバルが小規模メーカーといっても、同社の総生産台数は年間約100万台。グローバルマーケットに展開される「インプレッサ」や「フォレスター」はそれぞれ年30万台規模のセールスを誇る。それに比べると、新型レヴォーグの5万台という数字ははるかに少ない。スバルにしてみれば、効率の悪いモデルなのだ。

そもそも、現在のスバルの主戦場は北米マーケットだ。そのため必然的に、北米重視のラインナップにならざるを得ない。しかしその結果、人気車種だった「レガシィ」はフルモデルチェンジのたびに大型化し、日本市場にはマッチしないモデルとなってしまった。それでも日本のメーカーとしては、日本のユーザーに向けた車種が絶対に必要だ。もちろん経営的に見たら、利益への貢献は大したものではないだろう。それでもスバルは、日本の年間5万人のユーザーのためにレヴォーグを作ったのだ。

■オン・ザ・レール感覚で走って行く

今回、そんな新型レヴォーグを公道で初めてドライブしたが、その走りの完成度は驚きレベルにあった。2020年にデビューした日本車の中で、最もドライビングが楽しいクルマ、といっても過言ではないだろう。

これまでテストコースやサーキットでプロトタイプに試乗したが、その時に感じたのは「きれいな走り方をするクルマだ」ということ。ドライバーの思い通りに、しかも、かなりのハイスピードで運転を楽しめるクルマに仕上がっていた。

とはいえクルマの真価は、やはり公道を走ってみないと分からない。スキーヤーに例えるなら、整備されたゲレンデを滑るだけでなく、圧雪されていない何が起きるか分からないバーンを滑ってこそ、本当のテクニックが見えてくるのと同じだ。

公道では、サーキットのように限界領域までスピードを上げることがない代わりに、路面の悪い場所や、他車がいて思い通りに走れない状況なども少なくない。公道での試乗はそんな環境だからこそ、見えてくることも多いのである。

そんな公道へ新型レヴォーグを連れ出してみて、まず感じたのは、ステアフィールの良さだ。新型レヴォーグはスバル車で初めて“2ピニオン式”と呼ばれる高コストのステアリング機構を採用している。その効果は絶大。ハンドルを切る時のフリクション(摩擦抵抗=引っ掛かり感)が見事なまでに抑えられていて、運転していて心地いいのである。

新型レヴォーグは、乗り心地とハンドリング性能が高次元でバランスされているのも見事だ。特に、電子制御サスペンションを組み込んだグレード「STIスポーツ」系は秀逸。走行モードを「コンフォート」にすると、路面の凹凸を巧みに吸収して良好な乗り心地を提供してくれる一方、「スポーツ+(プラス)」を選ぶと、ハンドリングの鋭さが増してスポーツカーのような運転感覚を味わえる。もちろん後者は足回りが硬くなるものの、しっかりと衝撃を緩和し、不快感のないカドの丸い乗り心地を実現している。

またワインディングロードにおいては、速度域の低いタイトコーナーから、それなりに速度が乗るハイスピードコーナーまで、旋回時のニュートラルなクルマの動きに感心させられる。ハンドルを切るとスッと曲がり始める一方、深く回り込んでも走行ラインが外側へ張り出すことがなく、まさに“オン・ザ・レール感覚”で走って行く。

新型レヴォーグはスバル自慢の4WDシステム“シンメトリカルAWD”を採用していることもあって、よほど無理をしない限りスリップの兆候など感じられない。

■話題の“ハンズオフ”はかなり正確性が高い

一方、高速道路でのクルージングでは、注目の運転支援機能“アイサイトX”が威力を発揮する。これは、高速道路上でドライバーがアクセルやブレーキを操作することなく車速を自動調整してくれるACC(アクティブ・クルーズ・コントロール)に、車線の中央を維持してくれるステアリング支援をプラスしたもの。速度調整もステアリング支援も、制御がますます正確、かつドライバーの感覚に寄り添ったものとなり、一段と“使える”ように進化している。

中でも新型レヴォーグで素晴らしいのは、ドライバーがハンドルを持っているか否かの判断を、ハンドル表面のタッチセンサーで行うようになったこと。従来のトルク検知式と比べて認識度が格段にアップしていて、指3本ほどの面積が触れていればクルマは“ハンドルを握っている”と判断してくれる。従来モデルは、しっかりとハンドルを握っているにもかかわらず「ハンドルを持ってください」と警告されることが時折あったが、新型レヴォーグではそんな誤判断が1度もなかったことを報告しておきたい。

加えて、衛星からの電波を受けて自車位置を認識するとともに、高精度地図データとのマッチングを図ることで、カーブや高速道路料金所などの手前で自動的に速度を落としてくれるのも、アイサイトXの注目機能のひとつだ。「ちょっとスピードを落としすぎかな」という印象がなきにしもあらずだが、そう感じた場合は、ドライバーがアクセルペダルを踏んでスピードを調整してやればいいだけの話。これまでのように、速度を落とさずにカーブや料金所へ突入しそうになって、あわててACCをオフにしたり、ブレーキを踏んだりする状況に陥るよりは、安全性も安心感もずっと高い。

もうひとつ、アイサイトXで注目すべきは、高速道路での渋滞時にハンドルから手を放しても走ってくれる“ハンズオフ”機能だ。結論からいえば、その正確性はかなりのものだった。

日々、渋滞が発生する都市高速ではカーブがきつすぎて対応できず、ドライバーに「ハンドルを持ってください」と注意を促す場面もあったが、きついカーブの少ない高速道路などでは、そうした状況に陥ることも少ないだろう。控えめにいってアイサイトXのハンズオフ機能は、一度体感してしまうと非装着車に戻れなくなる、と断言できる。とはいえ現状、同機能を使える上限速度が50km/hに設定されているのが、なんとももどかしい。渋滞時専用のままでいいから、BMWのように60km/hまで作動するようになると、より使えるシーンが増えて便利だと思う。

■ひと昔前のスバル車と比べれば燃費も良好

今回、新型レヴォーグで2日間、計500kmほどのルートを走ってみたが、クルマの基本性能に対してはいずれも高評価を与えられる。唯一、ウィークポイントを挙げるとするならば、燃費性能が平凡なことくらいだろう。とはいえ、高速クルージング区間が多くなれば13km/L台をマークするケースもあるので、ひと昔前のスバル車と比べればかなり良好といえるのではないだろうか。

スバルはレヴォーグを、かつての「レガシィ ツーリングワゴン」の後継モデルと位置づけている。その心は“日本で扱いやすいジャストサイズのワゴン”ということ。新型レヴォーグの全幅を1800mm以下に収めてきたのもその一環だ。年間5万人にも満たない日本のユーザーのために“日本ファースト”のクルマづくりを行ってきた新型レヴォーグ。310万2000円〜というプライスタグは、昨今の売れ筋を見ると決して安いとはいえないが、最新かつ上質な日本車が欲しいなら、最有力候補に挙げられることは間違いないだろう。

<SPECIFICATIONS>
☆STIスポーツ EX(ホワイト)
ボディサイズ:L4755×W1795×H1500mm
車重:1580kg
駆動方式:4WD
エンジン:1795cc 水平対向4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:CVT(リニアトロニック)
最高出力:177馬力/5200〜5600回転
最大トルク:30.6kgf-m/1600〜3600回転
価格:409万2000円

<SPECIFICATIONS>
☆GT-H EX(シルバー)
ボディサイズ:L4755×W1795×H1500mm
車重:1570kg
駆動方式:4WD
エンジン:1795cc 水平対向4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:CVT(リニアトロニック)
最高出力:177馬力/5200〜5600回転
最大トルク:30.6kgf-m/1600〜3600回転
価格:370万7000円

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。


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