モータージャーナリスト川端由美が体験!
走りもスタイルもブレずに革新的
BMW4シリーズ&2シリーズ

賛否両論。まさに、このクルマのことだ。BMWが2020年6月に発表した新型「4シリーズ」の発表にあたって、上下にはみ出すほどの大きさの巨大な“キドニー・グリル”が採用されたことで、世界中のBMWファンの意見が真っ二つにわかれたからだ。Cピラーのカーブを逆に織り込んだような“ホフマイスター・キンク”と並んでBMWのスタイリングにおいて、長年、キドニー・グリルはアイコンとされてきた。旧来のファンの中には、BMWの顔であるキドニー・グリルが大きく代わったことを嘆く節もあるが、BMWの先進的なイメージを好むファンから斬新なインパクトのあるスタイリングを支持する声もある。

BMWの中核を担うセダン「3シリーズ」のクーペ版である「4シリーズ」。そのなかでも、「M440i xDrive」は、スポーティネスを強調したモデルだ。387ps/500Nmまで強化された心臓部と専用の足回りを備えており、0-100kmをわずか4.5秒で加速する。


巨大化したキドニーグリル実は“BMWらしい”4シリーズ

ここで座学を少々。BMWの顔ともいえる左右に分かれたグリル形状は、“キドニー・グリル”と呼ばれている。左右対称の形状が腎臓のように見えるからとの説が濃厚だが、正式な経緯は不明だ。明確に言えることは、1933年に発表された「M303」に、縦長に分割されたグリルが初採用されて以降、90年近くに渡って、キドニー・グリルはBMWの顔であるということだ。その当時、自動車のグリルといえば、ラジエーターの縁をそのまま囲んだ四面四角なグリルが一般的であったが、「303」のフロントビューを見た人からは驚きの声が上がったのは言うまでもない。

そう、87年前の段階ですでに、BMWが世に送り出した「303」のフロントに掲げられたキドニー・グリルは、世の人々に強烈なインパクトを与えたワケだ。翻ってみれば、今回の4シリーズに採用されたキドニー・グリルの大きさが、過去のBMWの常識から逸脱しているとしても、このクルマが与えた斬新なインパクトこそ、“BMWらしさ”なのである。

筆者のように最新テクノロジーを追う身からすると、BMWといえば、革新的という印象を持っている。例えば、日本でも2030年までにエンジン車の発売を禁止するとのニュースが飛び出して、にわかに自動車の電動化が囁かれているが、BMWの電動モデルのサブブランドである「iシリーズ」のコンセプトが発表されたのは、驚くことに2011年のことだった。実際に発売されるのは、2年後の2013年まで待つことにはなるのだが、それでも遡ること7年前だ。2011年に開催された東京モーターショーでは、まだコンセプトカーしかなく、一台も売れるクルマがないのに、六本木・アークヒルズの大型広告や駅からモーターショー会場に向かうエリアをハックしたので、記憶に残っている人も多いだろう。そんな企業風土があるだけに、今回の「4シリーズ」のキドニー・グリルがクルマの上下からはみ出るほど巨大化したことは、むしろ、本来のBMWの持つ大胆かつ斬新なブランド・イメージにしっくりくる、と筆者は考えている。

実際、ガオッと噛みつかれそうな大型フロントグリルの見た目のインパクトは、兎にも角にも絶大だ。とはいえ、BMWの歴史を繙くと、縦長キドニー・グリルは邪道ではない。例えば、戦後の危機を乗り越えたBMWにとって、大排気量のストレートシックス・エンジンを搭載して高級車セグメトに躍進するきかっけとなったモデルである「3.0 CSi」でも、縦長のキドニー・グリルを採用している。

「440i xDrive」では、トランクリッドにMモデルのためのリップタイプのリアスポイラーが標準となる。

全長×全幅×全高=4775×1850×1395mmと、BMWらしいロングノーズに、低く伸びやかなスタイリングを持つ。

搭載されるエンジンは、3リッター直6ながら、従来のV8ユニットに相当するほどの大出力を発揮する。xDriveは、BMWの4輪駆動モデルに冠される名だ。

クーペらしさ全開なのに日常使いもできるマルチプレイヤー

フロントビューにばかり目を奪われそうになるが、サイドからリアに流れるラインに目を移せば、実はこのクルマがクーペらしい流麗なスタイリングを持つことに気づくだろう。グリーンエリアが上下に狭められたサイドビューに加えて、リアに向かってスラントするルーフラインと、“クーペのお約束”がすべて守られている。ただひとつ、従来、Cピラーの付け根にあったBMWのアイコンであるホフマイスターキンクは消滅している。このことからも、BMWがこの4シリーズでデザインに変革を起こそうとする姿勢が見て取れる。今回のテストに連れ出した「440i xDrive」は、トランクリッドにMモデルのためのリップタイプのリアスポイラーが標準となる点も見逃せない。

スタイリングはクーペのそれだが、ディメンジョンに目を向けると、全長×全幅×全高=4775×1850×1395mmのスリーサイズは、セダンである「3シリーズ」と比べると、40mm長く、25mm広い。さらにリアのトレッドも拡大しており、こちらもBMWの伝統である後輪駆動モデルであることを印象づけている。ホイールベースも2850mmと、「3シリーズ」と同等だが、先代モデルと比べると、40mm拡大している。それもあって後席の住人のための空間は、外観から想像する以上に広々としている。

重厚なドアを開けて、ドライバーズシートに滑り込む。近年の流れとして、高度ドライバー支援機能やセミ自動運転の導入に伴って、車内はリラックスする空間になりつつある。つまり、運転席と助手席の違いがあまりなく、ツルンとした印象のフロントフェイシアを持つクルマが増えている。しかしながら、4シリーズの運転席からの眺めは、あくまでドライバーズカーであることを主張するかのようなタイトなコックピットである。

実際、囲まれ感の高いコックピットに座ると、がぜん、その気になってくる。Dレンジに叩き込んで、アクセラレータに載せた右足をぐっと踏み込むと、低速域からトルクが湧き上がり、タイヤを蹴って走り出していく。この日、箱根に連れ出したモデルは、最高出力387kgm/最大トルク500Nmを誇るターボ付き3リッター直6エンジンを搭載する最上級モデルである。巨大な出力にばかり目が行きがちだが、実は、近年話題の環境問題への対応をいち早くしたエンジンでもある。従来なら、4リッターV8エンジンに匹敵する大出力を発揮しながらも、ターボによる過給、可変バルブリフト&タイミング技術、高精度の直噴エンジンといった最新かつBMW自慢の最新のエンジン技術を惜しみなく投入している。ターンパイクの急な上り坂に差し掛かるとき、ステアリングホイール上のパドルを引いて、迅速にシフトダウンすれば、すぐにトルクをピックアップして、次なる加速に備えてくれる。コーナリング手前でグッとブレーキを効かせて、荷重をフロントタイヤにかけるようなシーンでも、Mアダプティブ・サスペンションなる足回りがぐっと粘ってくれるから、姿勢の変化が予測しやすく、コントローラブルだ。高速の目地段差超えるようなシーンでも、衝撃をほどよく吸収しながら路面からの入力をいなしてくれる。

日常的な使い勝手の良さも、このクルマのセリングポイントだ。1800rpmから最大トルクを発揮するということもあって、中低速域でも力強い加速をしてくれる。もちろん、いざ、走りを堪能するときにはスムーズに高回転域まで伸びるエンジンに仕上げられている。停止から100km/hまでをわずか4.5秒で加速という俊足ぶりを発揮する。「xDrive」なる4輪駆動との組み合わされることにより、強大なトルクを前後の車輪に余すことなく伝えてくれ、加えて、「ハンズ・オフ機能付き渋滞運転支援機能」と呼ばれる、いわゆるセミ自動運転の機能が搭載されていることも、特筆に値する。今回の試乗では試すシーンは限られたが、高速での渋滞するようなシーンでは特にドライバーの負担を軽減してくれること請け合いだ。1025万円のプライスタグを掲げるゆえに、決してお手頃とは言い難い。しかし、BMWのクーペらしさが詰め込まれた上に、セミ自動運転の機能が搭載されて、日常でもスポーティな走りでも満足できるマルチプレイヤーであることを鑑みると、いつか手に入れたい一台ではある。

BMWの象徴とも呼べる伝統的なホフマイスターキンクが消失したことで、個性的なフロントビューとあわせて、デザインの変革をしようとしていると推察される。

ドライバーズシートに座ると、ぐっとタイトな印象を得る。4輪駆動の場合、運転席の足元が狭いなどの右ハンドル禍の弊害がある場合もあるのだが、BMWではその課題をクリアしている。L2のセミ自動運転や、同社最新のコネクテッドシステムを搭載する。

シーケンシャルで変速できる8速ATを搭載する。ワイドなレンジを持ち、低速域から高速での走行まで、幅広い速度域で力強く走ることができる。

サイドサポートの張り出したスポーティなシートの掛け心地はやや硬めな印象だが、ランバーサポートやレッグサポートがしっかりしており、長距離の走行でも疲れにくそうだ。

コンパクトFFであってもBMWの遺伝子健在な「2シリーズ」

もう一台、BMWの中でも末っ子のクーペである「2シリーズ」もテストに連れ出してみた。同じ「2シリーズ」を名乗ってはいるものの、室内空間を重視した「アクティブツアラー」とその4ドア版たる「グランツアラー」、2ドア・クーペの「クーペ」、オープンエアの「カブリオレ」、そして4ドア・クーペの「グラン・クーペ」と、幅広いラインナップを誇る。今回、テストに供するのは「グランクーペ」の中でもエントリーを担う「218iグランクーペ Mスポーツ」である。借り出したモデルは、スポーティな装備を備えるMスポーツゆえに448万円となるが、エントリーは369万円(税込み)からラインナップされる。さらに残価設定ローンを選べば、毎月1万円台で乗ることも視野に入る。BMWは中古車が高値安定というブランド力を生かして、数年後の下取り価格と新車の差額分を低金利のローンを組むということができるからだ。月々1万円台の支払いで乗れるとなると、ぐっと身近に感じる人も多いだろう。

クーペ風のぐっと低い姿勢を取るスタイリングを採用しているが、実は、3代目となる「1シリーズ」と同じ前輪駆動のプラットフォームをベースに、使い勝手のいい4ドアクーペ風のボディを載せている。全長×全幅×全高=4540×1800×1430mmのボディサイズにホイールベースが2670mmとなる。ハッチバックモデルと比べて、ホイールベースは同じだが、全長が207mmも伸ばされている。前輪駆動であることもあって、室内は存外、広々している。

同じ「2シリーズ」を名乗ってはいるものの、室内空間を重視した「アクティブツアラー」とその4ドア版たる「グランツアラー」、2ドア・クーペの「クーペ」、オープンエアの「カブリオレ」、そして4ドア・クーペの「グラン・クーペ」と、幅広いラインナップを誇る。

フロントビューは、近年のBMWに共通する大型グリルに切れ長のランプを組み合わせたデザインが採用されており、シルバーの縦桟がアクセントとなっている点が「2シリーズ」に共有する顔立ちとなる。サイドに刻まれたキャラクターラインと凹面の組み合わせが押し出し感を高めており、L型のリアランプを採用したリアビューを組み合せがさらに個性を強調する。「アクティブツアラー/グランツアラー」の姉妹分と比べると、4ドアを持ってはいても、クーペ風のスラントしたルーフラインのおかげで、かなり精悍なフォルムになっているのは言うまでもない。

フロントに搭載されるユニットが1.5リッター直列3気筒エンジンと聞くと、非力ではないかと心配になるが、140psの最高出力と220Nmの最大トルクを発揮する心臓部からのパワーのデリバリーは必要にして十分。むしろ、1420kgと軽量なボディのおかげで、コーナーに差し掛かると、すいっと鼻先を曲げていく気持ちのいい走りっぷりだ。”BMWらしさ”という点では、前輪駆動であることを揶揄する旧来のファンがいないわけでもないが、今回テストした限りでは、十分にファンなドライビングフィールだった。

驚くことに、エントリーモデルながら、安全装備は最新のものが搭載されている。白線内を走行することをサポートしたり、死角に入った車両の存在を警告したりする高度ドライバー支援の機能を備える。ユニークな機能としては、直前の走行ルートの50m分を記憶していて、いざというときに安全に自動でバックできるのが便利だ。

2台のクーペ・スタイルのBMWを走らせてみて感じたのは、圧倒的なテクノロジーの進化だ。過去には後輪駆動のほうがステアリング・フィールがよかったのも、自然吸気エンジンのほうが盛り上がりを見せたのも事実だ。しかしながら、テクノロジーの進化によって、 前輪駆動であってもトルクステアを感じることもなく、過給エンジンでもターボラグを感じることもない。では、なにを持って、“BMWらしさ”とするのだろうか? アクセル操作に呼応する応答性の高いパワートレイン、自らの手足の延長にあるようなコントローラブルな走行性能、ロールを許しながらも路面からの入力をいなしていく滑らかな走りといった“味わい”こそが”BMWらしさ”であり、その味を継承し続けることこそがブランドの継承なのだ。

 

BMWのクーペのエントリーを担う「2シリーズ・グランクーペ」のなかでも、もっとも手が届きやすい「218i」にスポーティな装備を備えた「Mスポーツ」をテスト車として選んだ。

4540×1800×1430mmと、クーペとしては、短く、高いボディサイズながら、クーペらしいフォルムに見えるようによくまとめ上げられている。

腰をぐっと落とし込むようなシートポジションながら、意外に運転席からの見晴らしがいい。高度ドライバー支援機能やコネクテッド関連の操作性もよい。

タイトな印象の運転席に対して、ボディサイズから想像するより、存外、リアの居住性は高い。後席の足元や、頭上の空間にも余裕があるため、身長170cmほどの筆者が座っても窮屈に感じない。


 


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