エコなのに走りは鮮烈!ボルボ「XC60」ポールスター仕様が拓く高性能車の新境地

世界各国が脱炭素社会実現に向けて動き始める中、ハイパフォーマンスカーの未来が危ぶまれている。そんな時代にあって、ボルボの超高性能車シリーズ「ポールスターエンジニアード」は一部のクルマ好きから注目を集めている。

なぜ同シリーズは人気なのか? 超高性能車に垂れ込める暗雲を吹き払う新世代ハイパフォーマンスカーの実力を検証する。

■ポールスターはボルボ直系のパフォーマンスブランド

自動車メーカーの多くは、自社の系列や傘下に超高性能車を開発するスペシャル部門、もしくは専門の別会社を抱え、ハイパフォーマンスカーを開発している。ヨーロッパメーカーの代表は、メルセデス・ベンツのAMGやBMWのM、アウディのアウディスポーツ、ルノーのルノー・スポールといったところであり、日本車メーカーでは日産自動車のニスモやスバルのSTIなどがそれに当たる。

彼らの狙いは明確で、フツーの量産車では満足できない目の肥えた好事家の期待に応えるモデルを提供すること。時には、ベースモデルの数倍ものプライスタグを掲げた特別なクルマを提供することで、ブランドイメージを高めるケースも見受けられる。

ボルボの関連企業であるポールスターもそのひとつ。同社はかつて、ボルボのレーシングチームとしてモータースポーツに参戦したほか、エンジン制御プログラムを書き換えて市販車の最高出力や最大トルクを高める「ポールスター・パフォーマンス・ソフトウェア」という純正パーツの開発・提供を担うなど、ボルボ直系のハイパフォーマンスブランドとして活動してきた。

そして昨今では、ボルボ傘下の電動自動車専門ブランドとしての顔も持ち、アメリカのテスラを追撃すべく奮闘中だ。初の量産モデルとなった2ドアクーペ「ポールスター1(ワン)」は2リッターのターボエンジンにモーターを組み合わせ、最高出力600馬力を誇る超高性能モデル。電動車専門ブランドとはいえ、単にエコカーを手掛けるだけでないのが同社の面白いところである。

そんなポールスターがパワートレーンやシャーシに手を入れ、クルマとしてのトータル性能を磨いたのが、ボルボのポールスターエンジニアードだ。同シリーズは2019年、まずはミドルセダンの「S60」へ設定され、日本向けに用意された30台は瞬く間に完売。2020年11月には、S60(限定15台)の“おかわり”に加え、ステーションワゴンの「V60」(限定20台)やSUVの「XC60」(限定30台)にも設定されたが、これらも瞬時に売り切れてしまうなど、幻のモデルとなっている。

S60とV60は各919万円、XC60は1024万円と、ボルボとしては高価なモデルだったにもかかわらず、ポールスターエンジニアードがこれほどの人気を集めた理由はどこにあるのだろう? 「XC60 T8 ポールスターエンジニアード」に乗りながら考えた。

■あくまでも“さりげなく”がポールスターエンジニアードの流儀

ハイパフォーマンスカーといえば、いかにもそれらしい見た目がつきものだ。AMGやM、アウディスポーツが手掛けるRSモデルなどは見るからにスポーティで、空力性能を追求すると同時に、見た目における存在感も高めている。別の見方をすれば、派手なルックスに仕立てることでベースモデルとの違いを明確にしているのだ。

それを踏まえると、XC60 T8 ポールスターエンジニアードの見た目は拍子抜けするほどあっさりしていて、フツーのXC60との見分けがつきにくい。見た目における“激しさ”のようなものは一切ないのだ。

とはいえ、ヤルことはしっかりやっている。専用デザインのバンパーやフロントグリルをあしらうほか、21インチという大径のタイヤ&鍛造ホイールを履き、それを収めるためのフェンダーアーチモールも装着。

またホイール内には、直径400mm(フロント)という大径のローターに、日本の曙ブレーキ社が手掛けた巨大なキャリパーを組み合わせるなど、ただ者ではないオーラが漂っている。

そのため見る人が見ればフツーじゃないと感じるのだが、多くの人はノーマルのXC60との見分けがつかないだろう。あくまでも“さりげなく”というのがポールスターエンジニアードの流儀だし、それがある意味、ボルボらしさを感じさせる。

一方のインテリアには、専用表皮が与えられたスポーツシートが備わるが、そのほかに目立つのはゴールドカラーを採用したシートベルト程度。

外観と同様、とびきり派手というわけではなく、あくまで控えめな仕立てとなっている。

■エコとスポーティのキャラとが一瞬で切り替わる

そんなXC60 T8 ポールスターエンジニアードで興味深いのはパワートレーンだ。ハイパフォーマンスカーといえば、数字だけが独り歩きしそうなほどハイパワーのガソリンエンジンを搭載、というのが、かつての常套手段だった。しかし、ポールスターエンジニアードは違う。ベース車比で15馬力アップとなる333馬力のガソリンターボエンジンに、フロント46馬力、リア87馬力のモーターをそれぞれ組み合わせ、420馬力というシステム最高出力をマークする。

そう、ボルボが手掛けるハイパフォーマンスカーの心臓部はハイブリッド仕様なのだ。しかも、外部からの充電が可能なプラグインハイブリッドである。そのためバッテリーの充電量が十分な場合、エンジンを止めてモーターだけで走行可能(最長距離は約40km)。つまりポールスターエンジニアードは、高出力モデルでありながらエコカーというふたつの顔を持った、未来志向の高性能車なのである。

エコカーの顔も持つXC60 T8 ポールスターエンジニアードだが、ギヤセレクターレバーの手前にあるロータリー式セレクターで走行モードを「ポールスターエンジニアード」に切り替えれば、アクセルとトランスミッションのレスポンスが向上し、後輪を駆動させるモーターの出力特性もスポーツ走行寄りに。ESC(エレクトロニック・スタビリティ・コントロール/横滑り防止装置)もスポーティな走りを受けつける制御となり、躍動感あふれる走りを披露してくれる。その時の乗り味はまるでスポーツカーのようである。

環境に優しい一面と、バリバリのスポーティなキャラクターとが一瞬で切り替わる。それがこのクルマのひとつの醍醐味だが、こうした多重人格の走りを味わえるのは、ハイパフォーマンスカーブランドとして異例中の異例。新しい時代が求める超高性能車とは、まさにこういったクルマなのだろう。

■従来の価値観に縛られない超高性能車の新しい姿

キャラクターといえば、XC60 T8 ポールスターエンジニアードは乗り心地においても“らしさ”を感じさせる。超高性能車であるにもかかわらず、同乗者にそのことを一切感じさせることがないのだ。サスペンションはソフトというわけではなく、それなりに締め上げてはあるのだが、上々の乗り心地を提供してくれる。これは、北欧に本拠を置くブランド・オーリンズ製の高性能ショックアブソーバーが“いい仕事”をしているからにほかならない。路面の衝撃をしっかりと和らげることで実現した、まるで上級セダンのような乗り心地は、21インチという大径タイヤを履くモデルとは思えないレベルにある。

そんなXC60 T8 ポールスターエンジニアードで街中を抜け、高速道路を走りながら、このモデルは“違いが分かる人に似合うクルマ”だと思った。

見た目には“いかにも”という部分がなく、しかも、イマドキの基準でいえば超ハイパワーというわけではない。しかし、走行モードを切り替えた時のドライバビリティには、運転する歓びがしっかり詰め込まれている。一方、プラグインハイブリッドというエコカーとしての顔も持ち、普段乗りの際のモーター駆動による静粛性に満ちたドライブ感覚は新鮮だ。おまけに乗り心地だって上々。なんと欲張りなクルマなのだろう。これぞ従来の価値観に縛られない、超高性能車の新しいカタチだと実感した。

ちなみに、XC60 T8 ポールスターエンジニアードのベースとなった「XC60 リチャージ プラグインハイブリッド T8 AWD インスクリプション」(949万円)との価格差は75万円。もしパーツ単体で購入するなら、オーリンズ製ショックアブソーバーと21インチの鍛造ホイールだけでそのくらいの金額になる(もしくは超えてしまう)だろう。XC60の中で最高額となるプライスタグも、中身を考えればものすごくコストパフォーマンスが高いことに気づく。

このクルマを購入できたラッキーな人は、やはり、よく分かっている人だ。願わくば2021年も再販されることを期待したい。

<SPECIFICATIONS>
☆T8 ポールスターエンジニアード
ボディサイズ:L4690×W1940×H1660mm
車重:2160kg
駆動方式:4WD
エンジン:1968cc 直列4気筒 DOHCターボ+スーパーチャージャー+モーター
トランスミッション:8速AT
エンジン最高出力:333馬力/6000回転
エンジン最大トルク:43.8kgf-m/4500回転
フロントモーター最高出力:46馬力/2500回転
フロントモーター最大トルク:16.3kgf-m/0〜2500回転
リアモーター最高出力:87馬力/7000回転
リアモーター最大トルク:24.5kgf-m/0〜3000回転
価格:1024万円(完売)

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。


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