2014年にインドを訪れた際、Amazon(アマゾン)のCEOであるJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏は派手な発表を行った。同社が業務を開始してまだ1年しか経っていないインドに20億ドル(約2080億円)投資するというものだ。
Amazonの発表は、インドがいかに外国企業に対してオープンになったかを印象付けた。1947年の独立から1991年の自由化までの間、外国大手企業にほぼ門戸を閉ざしてきたインドは自らをゆっくりと世界最大のオープンマーケットへと変身させていた。
2014年にテレビで放映されたインタビューで、ベゾス氏はインドが事業を行うのに簡単な場所ではないとの認識はあったと述べた。しかし同国におけるAmazonの成長は、そうした考えが正確でないことの証しだったと語った。
「障害があるでしょうか。常にあります。どこへ行こうとも、どの国にも規制や規則があります」とベゾス氏は述べた。
それから6年、追加で45億ドル(約4690億円)投資したAmazonは現在、これまでになくインドで障壁にぶつかっているようだ。インドは6億人超のインターネットユーザーを抱える世界第2位のインターネット市場だ。
インドの長年変わっていない法律は、まだインドで黒字化を達成していないAmazon、そして在庫を持たない、あるいは消費者に直接販売する他のeコマース企業を縛ってきた。こうした状況を回避するために企業は在庫を持つ会社として操業しているインド企業との合弁会社という迷路を通じて事業を展開してきた。
インド政府は2018年後半にそうした抜け穴を塞ぐ動きに出た。当時、インド国内ではAmazonに対するそれまでで最大の反対運動があちこちで見られた。AmazonやWalmart(ウォルマート)傘下のFlipkart(フリップカート)は急いで数十万ものアイテムを店舗のリストから除外し、関連会社への投資をより非直接的なものにした。
そしてインドは現在、アプローチをさらに厳しいものにしようとしている。ロイターは先週、関連会社が親会社を通じてセラーの非間接出資を持つことすら禁じる対策に変更を加えることをインド政府が検討していると報じた。
8000万の事業者を代表しているとうたうインドの商業団体である全インド商業連合は、インドの商務大臣Piyush Goyal(ピユシュ・ゴヤル)氏が現在のルールの違反疑いについての懸念をすぐに解決すべく取り組んでいると同連合に保証したとロイターに語った。
来るべき政策変更は、世界最大のeコマース会社がインドで抱える多くの頭痛の種の1つにすぎない。
Amazonは同社と仲違いしているパートナーであるFuture Group(フューチャーグループ)とReliance Retail(リライアンスリテイル)の提携を阻止しようと果敢に戦っている。Future GroupとReliance Retailはインド第1位と第2位の小売業者だ。
2020年、Future Groupは小売、卸売、ロジスティック、倉庫業をReliance Retailに34億ドル(約3550億円)で売却すると発表した。2019年にFuture Group傘下の非上場企業の1社の株式を購入したAmazonは、Future Groupが契約を破り、インサイダー取引を行ったと主張している。
過去10年にテック大企業や投資家がインドにeコマースマーケットを創り出すために200億ドル(約2兆800億円)超を投じてきたにもかかわらず、オンライン小売がインドの小売全体に占める割合はまだ1桁だ。
近年、Amazon、Walmartそして数多くのスタートアップがこの事実を受け入れ、インド全国に点在する何万もの街角の小売店との協業を模索している。
インド最大の企業の1つ、Mukesh Ambani(ムケシュ・アンバニ氏)のReliance Industriesの子会社であるReliance Retailと通信大企業Jio Platformsはeコマースに参入し、2020年にFacebook(フェイスブック)やGoogle(グーグル)といった世界の大企業から出資を受けた。Future Groupへの大きな投資を追求することはAmazonがインドでの成長を加速させることができる方法の1つだ。
インド企業同士の取引を覆そうとする試みにおいて、これまでのところAmazonの旗色は芳しくない。2020年、Amazonは取引を阻止しようと、インドの独占禁止監視機関であるインド競争委員会(CCI)とインド証券取引委員会(SEBI)に判断を求めた。どちらの組織もFuture GroupとReliance Retailの取引を認めると裁定した。
Amazonはこの結果を予見していたに違いない。というのも、法的手続きをシンガポールの仲裁裁判所で開始したからだ。同社がインド国外で法的手段を取ることを選んだのは驚くことではない。
シンガポール国際仲裁裁判所(SIAC)に持ち込まれるケースのほとんどは近年インドからのものだ。同裁判所で扱われているケースで有名なものとしては、インドに200億ドル超を投資し、そして何十億ドルもの納税を同国に求められたVodafone(ボーダフォン)がある。インドで敗訴した後、同社は2020年にシンガポールの仲裁裁判所で勝訴した。
Amazonは1月25日、デリー高等裁判所に請願を出した。請願の中で同社はSIACの裁定の執行(SIACは2020年、取引は一時停止されるべきと命じた)と、インド企業がCCIとSEBIの判断に基づいて取引を進めるのを防ぐことを求めている。
Amazonは、Future Groupが「故意に悪意を持って」SIACの国際仲裁の裁定に従わなかった、と主張している。請願の中でAmazonはFuture Groupの創業者で会長のKishore Biyani(キショール・ビヤニ)氏の拘束も求めている。
「自国のために声を上げる」
2020年、インドが新型コロナウイルス(COVID-19)の封じ込めに格闘していたとき、インドのNarendra Modi(ナレンドラ・モディ)首相は国民13億人にインドが「自立」して「声を発する」ことができるようにしようと呼びかけた。
内向きへの進路変更は、2014年に首相に就任してからの数年で約束したものとは対照的だ。かつてモディ首相はこれまでよりも外国企業を受け入れるようにすると約束した。近年、インドは米国企業を弱らせる規制を提案したり施行したりしたが、Amazonほどに苦しんでいる企業は他にない。
2020年にインド政府は同国で提供されるデジタルサービスの外国企業の請求書に2%の税金を課した。米通商代表部(USTR)は2021年1月初め、インドが「世界中で導入されている他のデジタルサービス税の対象ではない」デジタルサービスの数々の部門に税を課している、と述べた。
インドでの米国企業に対する税金の総額は年3000万ドル(約31億円)を超えるかもしれないことがUSTRの調査で明らかになった。結局、インドのデジタル税は国際税の原則と一貫性がなく、不合理で、米国の商業を苦しめたり制限したりするものだった。
モディ首相のインドにとっての新しい生き方は、Reliance Industriesの会長でモディ首相の仲間、そしてインドで最も裕福なアンバニ氏の耳に心地よいものとなるだろう。
200億ドル超のJio Platformsの株式、60億ドル(約6250億円)超のReliance Retailの株式を多くの海外投資家に売る前、アンバニ氏は2019年にかの有名なスピーチを行い、愛国的な言葉でインド人のデータを守る必要性を主張した。
「我々はデータの植民地化に対して、共同で新たな運動を立ち上げなければなりません。このデータ駆動型の革命でインドが成功するには、インド人のデータの所有をインドに移行させる必要があります。インド人の富をあらゆるインド人の手に戻すのです」とアンバニ氏は述べた。
なぜそんなにも多くの海外企業がReliance傘下の企業に投資したのかは、いまだに大きな疑問だ。米国企業のシニアエグゼクティブは匿名を条件に、4億1000万人超の契約者を抱えるインド最大の通信ネットワークであるJio PlatformsとReliance Retailへの投資はインドにとって既視体験であり、数十年前、インドで事業を展開する方法の1つが、政治的に大きな影響力を持つ地元企業との提携だった、とTechCrunchに語った。
Google(グーグル)の元ポリシー担当役員で現在は非営利のデジタル支援団体Access Nowで働くRaman Chima(ラマン・チマ)氏は一連のツイートの中で、Googleが2011〜2012年に「インド政治のリスクについて調べる」のにRelianceのような企業と提携し、投資することを検討していたと主張した。
この考えはGoogleの価値についての懸念を呼び起こした、と同氏は述べた。「その議論に加わっていた複数のエグゼクティブがRelianceの評判、特に政策に関わる公務員や政治家への影響力に対する問題のあるアプローチ、金、政府とビジネスの関係における倫理について懸念を示しました」。
Amazonは2020年にReliance Retailの数十億ドル(数千億円)もの株式の取得に興味があったと噂されたが、両社は互いに関わることを止めたようだ。
Amazonがこうした問題を整理している中で、先週、別の問題が持ち上がった。Amazon Prime Video向けミニシリーズのインドの制作会社とその上級役員が刑事訴追の恐れにさらされている。モディ首相が率いる党が、その番組がインドで大多数を占めるヒンドゥー教徒に不快感を与えるものだと判断した。
ヒンドゥー教の愛国主義者グループ、インド人民党の政治家、インドの下層カーストを代表するBJPグループのメンバーはミニシリーズ「Tandav」の9パートとAmazonを相手取って警察署に被害届を出した。同社は圧力に屈し、いくつかのシーンに手を加えた。
「『Tandav』に対する苦情の真の理由は、番組が不快なほどにインド社会やモディ氏の政権による問題を映し出しているからだろう。オープニングエピソードで番組は抗議する学生や不満を持った農民を取り上げ、ここ数カ月の出来事を映し出していた」とニューヨークタイムズ紙は書いている。
Amazonの別の番組「Mirzapur(ミルザープル 〜抗争の街〜)」もまた信心や地域的な感情を傷つけ、町の名誉を毀損したとして先週、刑事告訴された。インド最高裁判所は「Mirzapur」の制作会社に通知を出し、回答を求めた。
前述のインタビューの中でベゾス氏は、Amazonの仕事は遵守が求められる各国独自のすべての規則に従い、「そうした規則に事業慣行を適合させる」ことだと語った。
インドで同社は、一体どれくらい事業慣行を進んで適合させようとしているのか尋ねられることが増えている。人々が気にかけるAmazonでなくなるのに、一体どれくらい事業慣行を進んで曲げるのだろうか。
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カテゴリー:ネットサービス
タグ:Amazon、インド、コラム
画像クレジット:Indranil Aditya / NurPhoto / Getty Images (Image has been modified)
[原文へ]
(文:Manish Singh、翻訳:Nariko Mizoguchi)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2021/01/29/2021-01-25-india-plays-hardball-with-amazon/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Manish Singh,Nariko Mizoguchi
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