メルセデス・ベンツのミドルクラスセダン「Eクラス」が先頃マイナーチェンジし、新型が日本にも上陸した。
デビューから3年を経てのマイナーチェンジとあって、エクステリアデザインのリフレッシュや先進運転支援機能の充実など、改良点は多岐に及ぶ。今回は、先進性を強めた最新装備の魅力と気になる走りの実力をご紹介する。
■インテリアデザインに一石を投じた現行Eクラス
現在、メルセデス・ベンツがEクラスに与えている役割は、ズバリ“未来への扉”だ。最新技術などはフラッグシップモデルで価格も高い「Sクラス」を皮切りに搭載されることが多いが、Eクラスはそれを分かりやすい形で普及させる役割を担っているようだ。
例えば、大型の液晶パネルをメーターとセンターディスプレイに2枚並べたインパネデザインは、今やコンパクトカーの「Aクラス」にまで採用されるメルセデスの定番装備だが、これを初採用したのはSクラスだった。そしてその手法を、バイザーのないタブレット端末のようなデザインとし、ひときわ先進的に見えるよう演出したのはEクラスから(2017年に日本へ上陸した現行モデルより採用)。このメーターパネルは、現行Eクラスの強い先進感を印象づけるデバイスとなったのはもちろん、世界中の自動車のインテリアデザインに影響を与えたといっても過言ではない。
そうした先進感が、ライバルであるBMW「5シリーズ」やアウディ「A6」に大きく差をつけた事実は誰もが認めるところだ。先進技術を分かりやすい形で広くアピールし、斬新さでライバルを引き離すというのが、現行Eクラスに与えられた使命なのである。
■日本で販売される乗用車では初めてのARナビ
新しいEクラスもフロント回りは、メルセデスが手掛ける最新のスポーティモデルに共通する、上下方向に薄く、わずかに切れ上がったデザインとなり、下部が広がる大型のラジエーターグリルと相まって、以前よりシャープな顔つきになった。また、スポーティな“AMGラインエクステリア”が一部モデルを除いてスタンダードとなったこともあり、少し押し出しが強まった印象。それにより、先頃日本でも発表になった新型Sクラスに近い雰囲気となっている。
新型Eクラスのセダンはリア回りのデザインも刷新され、中央に向かって尖っていく三角形のコンビネーションランプを組み合わせた。かつて「ミディアムクラス」と呼ばれていた頃から、Eクラスは重厚感を醸す威風堂々とした風格を備えていたが、今ではモデルチェンジのたびに軽快な雰囲気を強めている。これが世の流れなのだろう。
そんな新型Eクラスに乗り込んでまず感じたのは、先進的な演出がさらに増えたこと。運転すれば誰でも分かる部分に、オッと思わせる仕掛けが組み込んである。例えば、液晶パネルが2枚並ぶ大型ディスプレイや、新世代のステアリングホイール、実写映像を活用した“ARナビ”がそれに当たる。
新発想を盛り込んだステアリングホイールは、とにかく多機能だ。クルーズコントロールや発話などの操作スイッチに加え、メーター&センターの2枚のディスプレイに表示される項目を自在に操れるコントローラーも備わり、さまざまな操作を行える。にもかかわらず、見た目がスッキリしていることに驚かされる。秘密はタッチスイッチの採用で、物理的なスイッチは存在せず、スイッチの仕切り線など一切存在しないため、とてもシンプルな見た目なのだ。
一方、多機能すぎるゆえに、多少扱いづらい面があるのも事実だが、その問題は“MBUX(メルセデス・ベンツ ベンツ ユーザーエクスペリエンス)”と呼ばれる音声操作を組み合わせることで解決する。これは独自のインフォテイメントシステムで、例えば聞きたいラジオを選局する場合、ステアリングスイッチだと複数回の操作が必要となるが、MBUXなら「ハイ! メルセデス」に続き「ラジオを●●(放送局名)にして!」と指示するだけでOK。スイッチを一度も押すことなく対応してくれる。もちろん日本語で操作可能だ。
ちなみに、ステアリングホイールのグリップ部分には静電容量式センサーが組み込まれている。これはステアリングアシスト時にドライバーがハンドルを握っているか否かを検知するためのもので、トルク検知式ではなくタッチセンサー式とすることで、より正確な判断を可能にしている。結果、本当はドライバーがハンドルを握っているにも関わらず「握っていない」と誤検知することがなく、車線の中央部を走るようハンドルを制御するレーンキープアシストシステムも、スムーズに作動してくれる。
日本で販売される乗用車としては初の標準採用となったARナビも、Eクラスの先進性を感じさせる装備のひとつ。ARとは“Augmented Reality”の略であり、拡張現実などと訳される。ARナビはカメラで撮影した実際の前方の映像に進路案内を重ねて表示し、道案内してくれる。
最大のメリットは、交差点などにおいて曲がる場所を間違えにくいこと。実際の前方の様子を背景とし、「ここを曲がって」という案内が重ねて表示されるから、曲がるべき場所が一目瞭然。ナビは初めて走る道などでこそ威力を発揮するツールだから、分かりやすく案内してくれるのは大きな強みといえるだろう。
■パワートレーンの多彩さもEクラスの特徴
新しいEクラスは、バリエーションが豊富なのも特徴だ。ボディラインナップはセダンやステーションワゴンに加え、クーペやオープンボディのカブリオレ、そして、ステーションワゴンのロードクリアランスを拡大し、SUV風に仕立てたオールテレーンなども用意され、ライフスタイルに合わせて選べる。
例えばステーションワゴンは、リアシートの背もたれを倒すと大人がゆったり寝られるだけの奥行きを持つ広大なラゲッジスペースを備えており、レジャーシーンでも大活躍。倒した後席の背もたれと荷室との間に段差が生じず、フラットな荷室フロアが得られるなどツボを押さえた設計は、さすがメルセデスだといわざるを得ない。
加えてEクラスで特筆すべきは、パワートレーンが多いこと。最も心臓部が多彩なセダンを例にとると、
・「E200」=1.5リッター直4ガソリンターボ(184馬力)+モーター(13.6馬力)のマイルドハイブリッド仕様
・「E220d」=2リッター直4ディーゼルターボ(194馬力)
・「E300」=2リッター直4ガソリンターボ(258馬力)
・「E350e」=2リッター直4ガソリンターボ(211馬力)+モーター(122.4馬力)のプラグインハイブリッド
・「E350de」=2リッター直4ディーゼルターボ(194馬力)+モーター(122.4馬力)のプラグインハイブリッド
・「E450」=3リッター直6ガソリンターボ(367馬力)+モーター(21.8馬力)のマイルドハイブリッド
と、計6タイプが用意される。
さらに、メルセデス・ベンツのモータースポーツ活動や高性能車の開発を担当するスペシャル部門・AMGが手掛けるメルセデスAMG仕様には、
・「E53 4マチック+」=3リッター直6ガソリンターボ(435馬力)+モーター(21.8馬力)のマイルドハイブリッド
・「E63 S 4マチック+」=4リッターV8ガソリンターボ(612馬力)
が用意されているから、セダンだけでトータル8種類にも及ぶ。これは異例中の異例である。ガソリンやディーゼルに加え、それぞれのプラグインハイブリッドまで用意されるモデルなんて、日本ではEクラスだけだ。
■ラクに高速移動できる点こそがEクラスの真価
今回はそのうち、E200のセダンとステーションワゴンに試乗した。
セダン、ステーションワゴンを問わず、E200はとにかく燃費性能がお見事だ。高速道路をハイペースで走っても12km/Lを超え、おとなしく走れば15km/Lを超えることだってある。大柄なボディと車両重量を考えれば、望外にいい数値といえるだろう。
もちろんそれには、“BSG(ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター)”と呼ばれるマイルドハイブリッド機構によるアシストはもちろん、9速ATもかなり効いている。100km/h付近でようやくシフトアップする9速ギヤは完全な高速巡行用で、速度が落ちて90km/h台前半になったり、わずかでも加速状態や上り坂になったりすると即座にシフトダウンする緻密な変速制御が印象的。とはいえ、シフトチェンジの際にそれと分かるシフトショックなどはなく、メーターの表示を見ていないと気づかないくらいの滑らかさだから、快適性は一切犠牲になっていない。
ただし、E200のエンジンは燃費重視のためか、とてもドライかつサッパリした乗り味。フラットなトルク特性ゆえ扱いやすく、高回転域は6000回転まできれいに回るものの、アクセルペダルを踏む歓びとは無縁だった。
ちなみに今回、筆者はクーペのE300にも試乗する機会があったので、その印象をお伝えしておこう。試乗車は「E300クーペ スポーツ」(919万円)で、最高出力は258馬力/5800〜6100回転、最大トルクが37.7kgf-m/1800〜4000回転、車重は1800kgとなる。
E200と比べると、E300は単に出力の差だけでなく、エンジンのキャラクターも大きく異なる。エンジン回転が高まるとともにパワーが盛り上がる色気のある味つけで、アクセルペダルを踏み込むのが気持ち良く感じられた。この辺りの印象は、セダン/ステーションワゴンでも同様だろう。過去の経験も踏まえるなら、ドライブ好きならE300、もしくは直6エンジン搭載モデルを選ぶのがオススメだ。
そうしたエンジンによる乗り味の違いを味わいながら、今回、新型Eクラスでトータル200kmほど高速道路を走ってみた。そこで感じたのは、ドライバーを包み込む安心感だ。車体のしっかり感やハンドルの落ち着き、そして足回りがきちんと路面を捉えて安定している様子など、高速巡行時にドライバーへと伝わるインフォメーションは、まさに地に足がついたかのよう。この落ち着きがドライブ時の安心感や疲れにくさに直結している。その上、アクティブクルーズコントロールやレーンキープアシスト機能といった先進の運転支援機能も制御が巧みで、とてもラクに移動できる。こうした部分こそ、Eクラスの真価なのだと改めて実感させられた。
<SPECIFICATIONS>
☆E200 スポーツ
ボディサイズ:L4940×W1850×H1455mm
車重:1720kg
駆動方式:RWD
エンジン:1496cc 直列4気筒 DOHC ターボ+モーター
エンジン最高出力:184馬力/5800〜6100回転
エンジン最大トルク:28.6kgf-m/3000〜4000回転
モーター最高出力:13.6馬力
モーター最大トルク:3.9kgf-m
価格:769万円
<SPECIFICATIONS>
☆E200 ステーションワゴン スポーツ
ボディサイズ:L4955×W1850×H1465mm
車重:1830kg
駆動方式:RWD
エンジン:1496cc 直列4気筒 DOHC ターボ+モーター
エンジン最高出力:184馬力/5800〜6100回転
エンジン最大トルク:28.6kgf-m/3000〜4000回転
モーター最高出力:13.6馬力
モーター最大トルク:3.9kgf-m
価格:810万円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
- Original:https://www.goodspress.jp/reports/350815/
- Source:&GP
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