先頃、新型へと生まれ変わった日産自動車のコンパクトカー「ノート」。
前回はそのポジショニングや、エクステリアデザイン、そしてパッケージングについて考察したが、今回はメカニズムやコックピット回り、そして走りの印象についてご紹介する。
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■プラットフォームと駆動用モーターを刷新
新型ノートへのフルモデルチェンジで最大のトピックといえるのが、ハイブリッド専用車になったことだ。ハイブリッド化は確かに、燃費や走りのフィーリング面でメリットが大きいが、その分、車両価格が高くなるのは否めない。
実際、新型ノートのスターティングプライスは、ライバルであるトヨタ「ヤリス」の139万5000円、ホンダ「フィット」の155万7600円(いずれも非ハイブリッドモデル)に対し、202万9500円と大きな開きがある。セールス面においてこの価格差をいかに乗り越えるのか気になるところだが、先代のハイブリッド仕様「ノートe-POWER」が大ヒットしたことで手応えを感じた日産自動車には、きっとなんらかの算段があるのだろう。
新型に搭載されるハイブリッドシステムは、基本的に先代と同じ。日産自動車が“e-POWER(イー・パワー)”と呼んでいるタイプだ。エンジンも搭載するが、それは動力を直接タイヤへと伝えることのない発電専用。エンジンで起こした電気を使ってモーターを回し、そこから駆動力を得る。一般的には“シリーズハイブリッド”と区分される仕組みである。
その長所は、ストップ&ゴーを繰り返す市街地走行において、燃費向上のアドバンテージが大きいこと。一方、高速走行時には効率が悪くなるというウィークポイントがあるが、とはいえ日本の高速道路での車速レベルであれば、純粋なガソリン車と比べてもさほど燃費悪化は生じない。高速道路を走る機会の少ない一般的なユーザーに対しては、満足できる燃費(カタログ記載のWLTCモードでは29.4km/L〜)を提供してくれる。
発電に使われるエンジンは、先代モデルの改良版となる1.2リッターの3気筒。一方、駆動用モーターは新開発のものが搭載され、先代モデルより動力性能がアップしている。モーターの最高出力は116馬力、最大トルクは28.6kgf-mで、従来モデルに対してそれぞれ7馬力と2.7kgf-mの向上を果たしている。
そんなハイブリッドメカと並ぶメカニズム面のハイライトがプラットフォーム。新開発の“CMF-B”と呼ばれるタイプに刷新されている。これはルノーが中心となり、アライアンスを組む日産自動車や三菱自動車工業と共同開発したコンパクトカー用のプラットフォームで、先頃『&GP』でも試乗レポートをお届けしたルノーの「ルーテシア」や「キャプチャー」にも使われている。日本市場向けの日産車としては新型ノートが初めての採用となる(海外展開モデルも含めると、欧州で販売される新型「ジューク」に続く2車種目)。
プラットフォーム刷新のメリットは、かなり大きい。先代ノートが採用していた“Vプラットフォーム”は「マーチ」と共通のものであり、シンプルかつコストを抑えた設計だった。一方、新型が採用したCMF-Bは、走行性能の向上を狙い、コストをしっかりとかけた構造となっている。つまり、走行フィールを左右する土台の部分が、飛躍的に能力アップを果たしているのだ。もちろんシャーシの刷新に伴い、周辺パーツもレベルアップ。結果的に、先代モデル比でサスペンション剛性は10%、ボディ剛性は30%、そして、ステアリング剛性はなんと90%もアップしている。
■新しさと操作性を兼ね備えた機能的なコックピット
前回、レポートしたエクステリアデザインもかなり大胆に刷新されていたが、新型ノートはインテリアもかなり新しい。
運転席に乗り込んだ瞬間、まず目に飛び込んでくる新しさがメーターパネルとナビゲーション画面だ。運転席の前とコックピットの中央に、大きなディスプレイがふたつ並んでいるのである。これは、最新世代のメルセデス・ベンツ車にも近いレイアウトだが、新型ノートにおけるポイントは、メーターとナビゲーション画面をただ横に並べるのではなく、前後に段差を設けたこと。メーターパネルよりもナビゲーション画面が手前に置くことで、ドライバータッチパネルの操作をしやすくしている。
9インチとクラス最大のナビゲーション画面は、最上級グレード「X」だけにメーカーオプションで設定されるもの(先進運転支援機能などとのセットで34万8700円〜と高額なのが難点)。メーターパネルは1枚の全面液晶パネルに見えるが、実は7インチの液晶ディスプレイ(左側)と、車速などを示す5インチのセグメント表示部分(右側)とに分かれている。
またユニークなのが、全体を前後にスライドさせて操作する電制シフトのセレクターで、他車では見たことのないタイプ。とはいえ、初めてでも違和感なく操作できたから、今後、他の日産車に展開されていくことだろう。
ちなみにパーキングブレーキは、全グレードともスイッチ操作で作動/解除が行える電動式となっている。
■エンジン作動頻度の低減で静粛性がアップ
新型ノートの走りのスゴさは“静かさ”に尽きる。バッテリーとモーターを組み合わせたハイブリッド車ゆえ、走行中にもエンジンが止まる状況がたびたびあり、その際、エンジン音が聞こえてこないことが大きな要因だ。もちろん、そのこと自体は先代モデルと変わらないが、新型は一段と静かになっているのである。
その背景には、(1)エンジン作動音自体の低減、(2)車体自体の遮音性の向上、(3)エンジン作動頻度の低減、といった3つの進化ポイントが存在する。中でも注目は(3)のエンジン作動頻度の低減で、新型ノートは発電の制御をより緻密に行っている。
例えば先代モデルは、走行中に突然エンジンがかかり、しかも、ゆっくり走っているにもかかわらず回転数が高めで、うるさいと感じることが時折あった。しかし新型ノートでは、低速走行時のエンジン始動を抑えるとともに、始動した場合でもエンジン回転数も低く抑えることで騒音を軽減。一方、走行に伴うノイズが大きくなりエンジン音が目立たなくなる高速走行時には、エンジン回転数を高くするという制御が働く。こうした緻密な制御により、優れた静粛性を実現している。
実はこの制御は、2020年に登場したSUVの「キックス」にも採用されていたが、新型ノートではさらに一歩踏み込んだものとなっている。路面状態と車速からタイヤが発生するノイズを判断。荒れた舗装などでノイズが大きくなるような状況では、エンジン音が目立たなくなるためエンジンを掛けて積極的に充電し、その分、ノイズの小さい路面を走る際のエンジン始動頻度を減らしている。この新システムの採用により、新型ノートの静粛性はかなり高い。あまりに静かなため、エンジンのない電気自動車に乗っているのかと錯覚しそうになったほどだ。
また、モーターが生み出す加速フィールはガソリンエンジン車とは一線を画すもの。滑らかさと力強さを兼備しているのはヤリスやフィットなどのハイブリッド車と同様だが、ノートはさらに上をいく。アクセルペダルを踏むと素早くトルクが立ち上がり、グッと背中を押すように力強く加速する。その力強さはライバルを凌駕するものであり、e-POWERならではの特徴ともいえる。
その恩恵による走りのキビキビ感は、新型となっても依然クラストップにある。システムの改良で発進から約50km/hに達するまでに発揮される最大トルクが先代モデル比で10%アップし、先代モデル以上に加速が鋭いからドライブしていて楽しい。単に燃費のいいエコカーで終わらないのがe-POWERの美点であり、それが多くの支持を集める要因となっている。
フットワークに関しては、素直な反応が好印象だ。新型ノートは運転中にハンドルを修正する機会が少なくて済むのだが、これはボディやサスペンションがしっかり作られていることの何よりの証拠。その上、コーナーを曲がる時の滑らかな反応も心地いい。それは、峠道を攻めるといった状況よりも、むしろ、交差点を普通に曲がるだけで実感できるものであり、日常領域でも走りの良さを味わえる。
意欲的なモデルチェンジで生まれ変わった新型ノート。その優れた実用性と爽快な走りは、競争が激しいコンパクトカークラスを戦う上で大きな武器となりそうだ。
<SPECIFICATIONS>
☆X
ボディサイズ:L4045×W1695×H1520mm
車重:1210kg
駆動方式:FWD
エンジン:1198cc 直列3気筒 DOHC
エンジン最高出力:82馬力/6000回転
エンジン最大トルク:10.5kgf-m/4800回転
モーター最高出力:116馬力/2900〜1万341回転
モーター最大トルク:28.6kgf-m/0〜2900回転
価格:218万6800円
>>日産「ノート」
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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- Original:https://www.goodspress.jp/reports/354808/
- Source:&GP
- Author:&GP
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