動画やポッドキャストなどのストリーミングサービスの人気が猛烈な勢いで高まり続けている。米国時間3月12日、そういったサービスへのBGMの提供元となるマーケットプレイスを運営するEpidemic Sound(エピデミック・サウンド)というスタートアップが、需要の高まりに合わせて規模を拡大すべく大規模な資金調達を発表した。ストックホルムを拠点とするこのスタートアップは、同社の評価額を14億ドル(約1500億円)とするエクイティラウンドでBlackstone Group(ブラックストーン・グループ)とEQT Growth(EQTグロース)から4億5000万ドル(約490億円)を調達した。
同社は現在、約3万2000の楽曲と約6万の効果音を備えている。今回の資金により、プラットフォーム上のテクノロジーを強化し、コンテンツとサウンドの調和をより容易にするツールのクリエイターへの提供、カタログの拡充や顧客基盤の拡大、そしてよりローカライズされたサービスとそのグローバルな展開を目指している。
4億5000万ドル(約490億円)というと、そのコンテンツとは裏腹に静かに事業を進めてきた企業にしては、大金のように思えるかもしれない。しかし、この資金調達は、高い意欲と有意な評価基準によって裏打ちされている。
共同創業者兼CEOのOscar Höglund(オスカー・ホグランド)氏は、インタビューに対し「ビジョンの大きさの問題だ。当社は、インターネットのサウンドトラックになろうとしている。それに尽きる」と語る。
このスタートアップが、いかに成長しているかについては、前回、同社が資金調達を行った(評価額3億7000万ドル(約403億円)に対して2000万ドル(約22億円)と今回よりも控えめだった)2019年と比べるといいだろう。当時同社の楽曲は、YouTube(ユーチューブ)だけでも毎月平均2億5000万時間もの再生があった。
その後、再生時間は400%以上の伸びを記録し、現在では毎月10億時間を大きく上回っている。ホグランド氏によると、エピデミック・サウンドのアーティストの音楽を使用したYouTube動画は、ストリーミングについては、1日に15億回再生されているという。これは、TikTok(ティックトック)、Facebook(フェイスブック)、Instagram(インスタグラム)、Snapchat(スナップチャット)などのプラットフォームで使用される同社の音楽のアクセス量を考慮する前の話だ。
「マクロトレンドは爆発的な延びを示している」とホグランド氏はいう。作曲家やコンテンツクリエイターを含め、現在同社のプラットフォームのユーザーは500万人を超える。
しかも、YouTubeのチャンネル数が約3700万であることや、Twitch(ツイッチ)、TikTok、Instagram、Snapchatなど、他にもユーザーを取り込めるサービスが数多くあることを考えると、成長の余地はまだ十分にありそうだ。
「私たちは需要が尽きることのない広大な市場を探しているが、エピデミックは[その業界]のリーダーに成長しつつある」と、Blackstone Growth(ブラックストーン・グロース)のグローバル責任者として投資を主導したJon Korngold(ジョン・コーンゴールド)氏はインタビューに答えている。
双方向の音楽マーケットプレイス
エピデミック・サウンドは、自らをマーケットプレイスと位置づけている。ミュージシャンは録音した楽曲をアップロードし、それを利用したい人は、ジャンル、ムード、楽器、テンポ、トラックの長さ、人気度などで検索をかけ、自分のイメージにあった音楽を見つけることができる。その上で、聞く頻度ではなく、利用する用途に応じた価格で購入する。
また、個人利用を前提とした月額15ドル(約1600円)の使い放題のサブスクリプションや、ほとんどの人が利用する月額49ドル(約5300円)で無制限の商用利用も可能なサブスクリプションが用意されている。この方式により、同社は黒字に転じたが、現時点では成長に軸足を移しており、再び赤字になっている。
エピデミック・サウンドは、市場のある特定のギャップに目をつけたホグランド氏とJan Zachrisson(ヤン・ザクリソン)氏によって、2009年に設立された。両氏の目的は、デジタルメディアへの音楽の追加を、より簡単にし、法的リスクをより少なくすることだった。言われて見ればおもしろいことに、11年前のデジタル音楽市場はまだダウンロードが中心で、そのほとんど(95%)が違法だった。当時のIFPI(国際レコード・ビデオ製作者連盟)のこのレポートは、ストリーミングという概念にさえ触れていなかったようだ。
また、同社にとって好機となったのは、音楽を公開したり、簡単なライセンス条件で購入したりするための、明確で使いやすいマーケットプレイスが存在しなかったことだ。
「設立当時からエピデミックの中核を成すものは、クリエイターにとって制限のない環境を提供することだ」とEQT Partners(EQTパートナーズ)のパートナーであり、投資アドバイザーでもあるVictor Englesson(ビクター・エングレソン)氏は話し「これは、ユーザー生成コンテンツの大きな問題点の1つであり、今も昔も変わらない。エピデミック・サウンドは、そのライブラリの権利を100%コントロールしている」と続ける。
今となっては、常識となっている簡単なライセンシングを提供することよりも、巨大な需要に直接対応することの方がチャンスは大きい。
動画が消費者の間で大きな人気を博している状況の中、Cisco(シスコ)は、2020年にはインターネットトラフィックの約80%を動画が占めるようになると予測していた。これはパンデミック前の数字であるため、現在ではそれ以上になっていても不思議ではない。動画はクリエイターの表現の手段としても急増している。当然のことながら、クリエイターが動画コンテンツを制作し配信するためのツールを提供する企業が数多く登場しており、その中には音楽の提供も含まれている。
そのため、サウンドトラックプラットフォームの市場はかなり混雑している。同分野では、Artlist(アートリスト、静止画や動画のカタログも提供しており、2020年資金調達も行っている)、Upbeat(アップビート)、Comma(コンマ)、Shutterstock(シャッターストック)などがある。
プラットフォーム自体も、クリエーターに音楽ツールを提供しており、それはカジュアルなものからそうでないものまで、またYouTubeに留まらないものとなっている。
TikTokでは、楽曲そのものがバイラル化し、一夜にして耳から離れなくなる。また、Snap(スナップ、Snapchatの開発元)が2020年、音楽の制作・配信市場で同社が持つ優位性の活用に向けた動きを見せたことは興味深い。2020年11月、スナップはVoisy(ボイシー)というアプリを人知れず買収した。このアプリは、選択したビートの上に自分の曲やボーカルを重ねて編集し、それらの作品を共有することができる。
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しかし、こういった状況の中、エピデミック・サウンドは単なる交換のためのプラットフォームには留まらない。
同社は、独自のプラットフォームを運営するだけでなく、Adobe(アドビ)、Canva(キャンバ)、Getty(ゲッティー)、Lightricks(ライトリックス)など、人々がコンテンツを作成する他のプラットフォームと提携し、そういった企業はエピデミックの音楽ストリーミングを提供するワンストップショップの一部として機能している。
また、同社が構築してきたものを支える「頭脳」もある。どの音楽が最も使われているか、そしてその音楽が視聴者にどのように受け入れられているかを追跡し、世界市場の音楽の嗜好を徐々に把握してきた。いわば音楽の統計グラフだ。そういった情報をもとに音楽を分類し、より的確な検索結果につなげたり、作曲家が需要に応じた楽曲を作れるように支援したりしている。
ホグランド氏は「データを収集し音楽が残した履歴を解析すれば需要がわかる」と言い「例えば、メタル子守唄を求める声が大きいことがわかれば、そういった曲をもっと依頼することができ、それが採用されるだろう」と続ける。
Spotify(スポティファイ)の成長や、Apple(アップル)、Google(グーグル)、Facebookなどによる音楽ストリーミングへの大規模な投資は、物理的な音楽ビジネスが衰退しても、音楽を聴くこと自体の衰退を意味するものではないことを物語っている。この傾向は、コンサートが中止され、オンラインストリーミングがそれに取って代わった2020年、ますます強まった。
エピデミックは、これらの大手が、レーベルや世界的に有名なBillie(ビリー)やBeyonce(ビヨンセ)と契約するのとは対象的に、そういった契約を結んでいないロングテール効果が期待できるクリエイターたちに焦点を当てている点が興味深い。
Spotifyのような企業は、アーティストの収益化プラットフォームとしてのブランドの確立に重点を置いているが、エピデミックのスタート時には、それは諸要素の一部でしかなかった。
音楽クリエイターは、エピデミックが購入した楽曲ごとに前受金を受け取るが、支払い額は楽曲によって異なる。加えて、その楽曲が後に再生される可能性のあるストリーミングプラットフォームからの収益も分配される。
同社によると、クリエイターは平均して年間数万ドル(約数百万円)、一部のトップクリエイターは年間数十万ドル(約数千万円)の収入を得ることができるという。「大規模な配信と認知度による」とはホグランド氏の言葉だ。
また、動画クリエイターに楽曲を提供する匿名のパートナーとしてだけでなく、自分自身の能力で成長する者もいる。Ooyy(オゥイ)、Cospe(コスペ)、Loving Caliber(ラヴィン・キャリバー)の3人は、自身のブランドでスターダムに駆け上がった。そういう意味では、エピデミック・サウンドがミュージシャンのために行っていることは、SpotifyやYouTubeのようなプラットフォームと、思っているほど大きな違いはないのかもしれない(それは同時に、いくつかの名高い強力な競合企業、あるいは買収者やパートナーの傾向も示している)。
市場の大きさと拡大のおかげで、エピデミック・サウンドは、その非常に混雑した市場で成長することができた。
「結局のところ、これはデータビジネスなんだ」と、ブラックストーン・グロースのコーンゴールド氏は語った。
ユーザー数を更新し、ミュージシャンの1人のスペルを訂正した。
カテゴリー:ネットサービス
タグ:Epidemic Sound、資金調達、音楽
画像クレジット:alengo / Getty Images under a RF license.
[原文へ]
(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2021/03/28/2021-03-11-epidemic-sound-raises-450m-at-a-1-4b-valuation-to-soundtrack-the-internet/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Ingrid Lunden,Dragonfly
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