キレキレの走りがさらに鋭く!300馬力にパワーアップしたルノー「メガーヌR.S.」

ルノーの高性能モデル「メガーヌR.S.(ルノー・スポール)」がマイナーチェンジ。最大の注目はエンジンパワーが300馬力へアップしたことだが、実は密かに足回りの熟成も進んでいるようだ。

市販車開発の聖地とされるドイツ・ニュルブルクリンクで、前輪駆動車“量産車最速”タイムをマークしたスペシャルマシンのDNAを受け継ぐこのスポーツハッチバックは、果たしてどんな走りを披露するのか? ワインディングロードでその真価を確かめた。

■サーキットを前提に走りを磨き上げた特別モデル

コーナリングを終えて直線を迎えるのがとても残念ーー峠道を走るたびにそんな気持ちになれるモデルがルノーのメガーヌR.S.だ。“R.S.”とは、F1を始めとするルノーのモータースポーツ活動や、高性能な市販モデルの開発を担う職人集団“ルノー・スポール”の頭文字である。

彼らが生み出す高性能モデル「R.S.」シリーズは、市販車をベースに、サーキット走行を前提に走りを磨き上げたスペシャルモデル。メルセデス・ベンツが手掛けるメルセデスAMGの各モデルや、BMWの「Mハイパフォーマンスモデル」のような存在といっていいだろう。かつてR.S.シリーズは、ルノーの工場とは異なるルノー・スポーツ専用のファクトリーにおいて、レーシングカーが組み立てられる脇で製造されていたが、現在は通常のルノーの工場で生産が行われている(かつての製造ラインは、今ではアルピーヌ「A110」が生産されている)。

ちなみにルノーのスポーツモデルは、この先、ルノー・スポールからアルピーヌへとブランドがスイッチされる予定。2021年シーズンから、F1のチーム名がルノーからアルピーヌへと変更されたのも、その一貫である。

今回の主役に話を戻そう。メガーヌR.S.のベースは“Cセグメント”ハッチバックの「メガーヌ」で、そこにハイパワーエンジンを搭載し、サーキット走行までラクにこなせるようサスペンションを強化するなど、ハイレベルな走行性能を身に着けたスポーツカーがメガーヌR.S.だ。

ガチンコのライバル車はホンダの「シビック タイプR」。実はこの2台、ドイツにある市販車開発の聖地で、1周約20kmの過酷なサーキット・ニュルブルクリンクにおいて、前輪駆動車における量産車世界最速の座を争い続けている。

今のところメガーヌR.S.の方がリードしているが、ルノー・スポールがタイムアタックに使用したのはボディパネルの一部をカーボン化し、リアシートを外すなど徹底的に軽量化を施した超スペシャルモデルだった。反則ワザのような気がしなくもないが、ルノー・スポールはタイムアタックに使ったのと同じ仕様のモデルを、標準車の約2倍の価格とはいえ限定販売したのは立派といえる(日本でも購入できた)。

■アクセルペダルを踏み込みたい衝動に駆られる

そんなメガーヌR.S.で峠道を走ると、“ニュル最速”云々なんて一切関係なく、ただただ楽しいドライビングの虜になってしまう。この世に“コーナリングマシン”を自称するモデルは数多あるが、メガーヌR.S.ほどコーナリングが気持ちいいと感じられるモデルはそう多くない。

曲がり始める際のスムーズなターンインも見事だが、真骨頂はクルマ自身がグイグイ曲がりたがっているかのような旋回中の“オン・ザ・レール感”。狙った走行ラインを外すことなくトレースできるニュートラルステア特性も素晴らしい。峠道やサーキットでのイキイキとした走りは、まるで水を得た魚のようだ。このようにコーナーを曲がるのが楽しいからこそ、冒頭で書いたように、曲がり終えた後に直線を迎えるのが惜しい気持ちになるのである。

マイナーチェンジを受けた最新のメガーヌR.S.は、標準車でもエンジンパワーが300馬力(従来モデルは279馬力)にアップした。メガーヌR.S.には標準車に加え、足回りをより締め上げた高性能バージョン「メガーヌ R.S.トロフィー」が存在する。これまではそのトロフィーのみ300馬力だったが、最新モデルではどちらも同じエンジンとなったのだ。従来仕様の279馬力も十分力強く、パワー不足など全く感じなかったが、300馬力となった新型は、確かに高回転域でのパンチ力が増したように思える。その分、以前にも増して、アクセルペダルを深く踏み込みたい衝動に駆られる。

同時に新型は、迫力ある排気音を楽しめるスポーツエキゾーストを搭載し、ドライビングプレジャーをより味わえるようになったのも特徴だ。ただひとつ残念なのは、シフトアップ/ダウン時に「バババッ」という破裂音の演出がないこと。コレは、燃費規制などの影響によるものだろうが、そういう演出があれば気分がより高揚したのに、と残念に思う。

一方、今回のマイナーチェンジでは、サスペンションに関する変更は一切アナウンスされていない。しかし、密かに熟成が図られているようで、標準車の乗り味は“コーナリングマシン”という響きから想像されるような乗り心地の悪さは一切なし。路面の凹凸をタイヤと足回りでしなやかなに吸収し、ファミリーカーとしても使えるだけの上質な乗り心地が確保されている。また、自慢の4輪操舵システム“4コントロール”も運転していて違和感はなく、あくまで“縁の下の力持ち”に徹し、ただただコーナリング時の爽快感を高めてくれるのが魅力的だ。

■先進安全装備類の進化も新型R.S.のトピック

新型メガーヌR.S.において、エンジンのパワーアップと並ぶもうひとつの注目が、先進安全装備類のアップグレードだ。

歩行者検知機能を加えるなど、衝突被害軽減ブレーキの性能がアップするとともに、高速道路において前走車に合わせて速度調整を行う“ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)”には、渋滞時の停止保持機能が加わった。渋滞時には、前のクルマが止まると自動停止し、そのまま停止状態をキープしてくれるから混雑した高速道路での疲労を軽減してくれる。

一方、電動パーキングブレーキには、信号待ちなどでブレーキペダルから足を離しても停止状態を保持するオートホールド機能をプラス。リアシートには、スマホなどの充電用にUSBポートが追加されるなど、便利装備も充実している。

またスタイリングでは、ヘッドライトやリアのコンビネーションランプのデザインを変更。リアには、光が内側から外側へと流れるシーケンシャルウインカーが組み込まれている。このほかアンテナが“シャークフィン”タイプに変更されたことが、従来モデルと新型とを見分けるポイントとなるだろう。

環境性能への要求が日増しに高まる中、この先、ハイパワーなガソリンエンジン“だけ”を搭載するスポーツモデルの新車を、いつまで楽しめるのか不透明だ。だからこそ、心の底からスポーツドライブを楽しめるメガーヌR.S.のようなモデルは、とても貴重な存在といえる。

今回試乗した標準車のトランスミッションは、2ペダルのデュアルクラッチ式だった。これならAT車感覚で乗れるし、「ファミリーカーとしても使うからMTは買えない」という人だって気軽に選ぶことができる。

もちろん中には、「MT車が欲しい」という人もいるだろうが心配はいらない。より高性能なトロフィーには、しっかりMTが用意されているからだ。トロフィーのレポートも追ってお届けする予定なので、楽しみにお待ちいただきたい。

<SPECIFICATIONS>
☆R.S.
ボディサイズ:L4410×W1875×H1435mm
車両重量:1480kg
駆動方式:FWD
エンジン:1798cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:6速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:300馬力/6000回転
最大トルク:42.8kgf-m/3200回転
価格:464万円

>>ルノー「メガーヌR.S.」

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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