なんて欲張りなスポーツカー!アウディ「S3」は速くて乗り心地が良くてしかも上質

アウディのコンパクトモデル「A3」をベースに、強力なターボエンジンと独自の4WDシステム“クワトロ”を搭載したスポーティ仕様「S3」が最新モデルへと生まれ変わった。

より速さを磨いた格上の「RS3」も登場がウワサされる中、S3の存在価値はどんなところにあるのだろうか?

■A3以上RS3未満という絶妙なポジショニング

クルマはパワフルかつスポーティでなければならないーー。ドイツのプレミアムブランドにはそんな家訓のようなものがあるのだろうか。メルセデス・ベンツはAMG、BMWはMハイパフォーマンスモデル、そしてアウディはRSシリーズといった具合に、ラインナップに必ず超高性能なスポーツモデルを用意している。

それらは、例えセダンやSUVであってもサーキット走行までカバーできるモデルであり、普段は使いきれそうにないハイパワーエンジンと、ピュアスポーツカーに匹敵する操縦性が与えられている。

とはいえクルマ好きであっても「さすがに日常的に手に余るほどの高性能は必要ない」という人は少なくない。それに超高性能モデルは価格的にも簡単には手が届かないから、性能も価格も「ちょうどいい」モデルの方がニーズは高いのだ。

そうした状況を上記3ブランドはしっかり押さえている。特にアウディは以前から、適度にスポーティな「Sシリーズ」を各モデルに設定してきた。今回取り上げるS3もひと言でいえば、ベースモデルであるA3以上、RS3未満といった絶妙な位置づけ。つまりスポーティさがちょうどいいモデルである。

■ディテールが醸し出すA3とは異なるオーラ

最新のS3は、2021年4月に上陸したばかり。フルモデルチェンジしたA3の上陸と同時に、その高性能バージョンとして発表された。ボディラインナップはA3と同様、4ドアセダンと「スポーツバック」と呼ばれる5ドアハッチバックの2タイプ。価格はセダンが661万円、スポーツバックが642万円とセダンのほうがわずかに高い。

ボディそのものはA3と同じであるなど、スタイリングにおけるS3とA3の違いは大きくない。とはいえディテールを見れば、クルマ好きなら瞬時にスポーティと感じることだろう。例えばフロントマスクには、ハニカム形状のグリルと、左右の開口部を大きく広げた専用バンパーが与えられ、ボンネットの先端には往年の名車「クワトロ」をイメージさせるスリットが刻まれる。

対するリアは、専用デザインのディフューザーに4本出しのテールパイプを組み合わせる。ちなみに車高は、A3よりも15mm低められている。

こうしたディテールの違いにより、あからさまではないもののA3とは異なるオーラが感じられるS3には、思わずニヤリとさせられる。

一方のインテリアは、立体感が強くカラダをしっかりと支えてくれるスポーツシートが乗員を迎えてくれる。

視線の先にあるメーターは、A3のそれ(10.25インチ)よりひと回り大きい12.3インチ。また、各部に赤いステッチやアルミ製のアクセントパーツをあしらうことで、クールかつスポーティな印象をプラスしている。

こうした装備類を見ても分かるとおり、S3は単なるA3のスポーティ版ではなく、より上質なグレードと位置づけられているのだ。

■ベーシックモデルよりも乗り心地が良好

そんなS3のハイライトはエンジンだ。2リッターの直列4気筒ターボというエンジン形式こそA3の上級グレードと同じだが、最高出力はなんと6割増しの310馬力。イマドキ驚くほどの数値ではないが、実際にドライブしてみればかなりパワフルだ。試しにアクセルペダルをちょっと深めに踏み込んでみたら、その勢いの良さに思わずアクセルをゆるめてしまったほどである。

しかも、2リッター4気筒ターボを積むA3「40 TFSI」との違いは、単に速さだけではない。最高出力の発生回転数が40 TFSIの4200〜6000回転から、5450〜6500回転へとより高回転化していることからも想像できるように、高回転域でのパンチ力が強い。アクセルペダルを踏めば踏むほどわき出すようにパワーが盛り上がり、もっともっとアクセルを踏みたくなってしまう魅惑的な味つけだ。

S3のハンドリングは不思議な感覚で、ハンドルを切るとスッと鋭く曲がっていくキレの良さを感じられる一方、決して過剰に向きが変わることはなく、全体のクルマの動きはとてもなめらか。右へ左へとカーブが続く峠道では、クルマとドライバーが一体化したかのように思い通りに動いてくれる。

さらに驚いたのは乗り心地だ。試乗車には、オプションの電子制御式“ダンピングコントロールサスペンション”が付いていたが、これは走行モードを変えることで足回りの味つけが変化する仕組み。走行モードを「ダイナミック」にすると硬くシャープな味つけとなる一方、「コンフォート」モードでは上質な乗り心地を提供してくれる。この「コンフォート」モードでの乗り心地は、同じ日にドライブしたA3「30 TFSI」より明らかに良好。路面からの入力を巧みにやわらげてくれる上に、普通に走っていてもS3の方が細かな上下動が少なく、車体がフラットに保たれるのである。

確かにこの2台は、ショックアブソーバーやスプリングだけでなく、リアサスペンションの構造自体が異なっている(S3はウィッシュボーン式、A3の30 TFSIはシンプルな構造のトレーリングアーム式)。それを踏まえても、スポーツモデルの方がベーシックモデルより乗り心地がいいというのには驚いた。これならファミリーカーとして選んでも家族からクレームが出ることはなさそうだ。

楽しく走れる上に乗り心地も上質なS3は、単に速くてスポーティなクルマではない。上質さも兼ね備えた上等なA3なのである。

<SPECIFICATIONS>
☆S3 セダン
ボディサイズ:L4505×W1815×H1415mm
車重:1560kg
駆動方式:4WD
エンジン:1984cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:310馬力/5450〜6500回転
最大トルク:40.8kgf-m/2000〜5450回転
価格:661万円

>>アウディ「S4セダン」

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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