ドローンを使った配達や電動垂直離着陸機が、夢のような話から商業化に移行しようとしている今、多忙で騒々しい空が始まる日の前夜だ。NASAの元エンジニアで、Uberのエアタクシー部門を任されていた人物が開発しているのは、空の交通から騒音を取り除く技術だ。
後にJoby Aviationに買収されたUber Elevateの技術部長だったMark Moore(マーク・ムーア)氏は、Whisper Aeroと呼ばれる彼自身の会社を立ち上げた。今週ステルスを脱したこのスタートアップは、デリバリードローンやeVTOLから出るノイズをバックグラウンドレベルにブレンドして、人間の耳が気づかない程度の音にしてしまう電動スラスターを開発している。
これが本当だとすると、恐るべき挑戦だ。ノイズという問題の解決方法は、単純に音量を下げればいいものではない。ノイズと呼ばれる音のプロファイルには、周波数など音量以外の変数がある。たとえばヘリコプターにはメインローターとテールローターがあり、2つが異なる周波数を生み出す。それによって人間の耳は、単一の周波数よりもうるさく感じてしまうとムーア氏は最近のTechCrunchインタビューで話した。
eVTOLは、状況をさらにややこしくする。eVTOL企業が作っているものは、これまでとはまったく違うタイプの航空機で、ヘリコプターのような従来の回転翼航空機とは異なる音響プロファイルを生み出す。米国陸軍が最近行った研究調査によると、eVTOLのローターは、ヘリコプターが生成するトーナルノイズ(単一音調)ではなく、一般にブロードバンド(広帯域)と呼ばれるようなタイプのノイズであることが確認された。それぞれのeVTOL企業が独自の設計を開発しているため、すべての電動航空機が同じレベル、同じ種類のノイズを出すわけではない。
ところがWhisperは、全業界から採用してもらえるようなスケーラブルな製品を設計している。
ムーア氏によると、そのアイデアが形を成すまでに数年を要したという。彼と同社COOで、Elevateで戦略とシミュレーションを指揮していたIan Villa(イアン・ヴィラ)氏は数年前に、ノイズをなんとかしないかぎり、エアタクシーの商用化はありえないと悟った。
「はっきりしてのは、ノイズが最も重要だということです。最も突破困難な障壁です。しかし、解決しようと時間とリソース、マインドシェアを費やしている開発者の数はほとんどいませんでした」とヴィラ氏は語る。
ヘリコプターはあまり頻繁に使われないため、あのひどいノイズもあまり問題にならない。しかしJoby AviationのようなeVTOL企業のプロダクトは、利用頻度が桁違いに多い。ムーア氏がいち早く指摘したのは、Joby(2020年末にElevateを買収)のような企業はすでにヘリコプターよりずっと静かな航空機を開発しており、その開発の方向性は正しいということだ。
しかしながらムーア氏は「彼らの現状は、大量に採用されるほどのレベルに達しているだろうか?その疑問から、我々はスタートしました」と語る。
Whisperはその電動スラスターの詳細について口をつぐむが、すでにLux CapitalやAbstract Ventures、Menlo Ventures、Kindred VenturesそしてRobert Downey Jr.(ロバート・ダウニー・Jr)氏のFootPrint Coalition Venturesなどから約750万ドル(約8億3000万円)の投資を獲得している。同社はまた、2022年にはその暫定特許を国の正規の特許にしたい意向だ。
今後同社はまず小型のドローンを2023年に発売し、それから徐々にエアタクシーのサイズへスケールしていきたいと考えている。ムーア氏によると、乗用機用のスラスターは2020年代に完成するという。第1世代のeVTOLが、Archer AviationやJobyがいうように2024年に市場に出現するなら、Whisperの製品の登場はeVTOLの第2世代になるだろう。
当面の間、Whisperはテストとまだ残っている技術的課題の解決努力を継続する。最終製品のコストを合理的な範囲内に収めることも、その課題の1つだ。同社はまた、テネシー州の本社で行なうスタティックなテストに加えて、風洞を使用する実動試験も準備しており、その一部については米国空軍の協力を求める。
「バックグランドノイズに溶け込むほど静かでなければなりません。私たちはそう自覚しており、そのための技術を開発しています」とムーア氏は語る。
関連記事
・空飛ぶクルマ・eVTOLのテトラが新機種Mk-5の7月末予約販売開始を発表、開発と人材育成で福島県南相馬市と連携協定
・「スター・ウォーズ」のポッドレースを彷彿とさせるeVTOLレースが2021年開催、Airspeeder主催
・2人乗りの自律型デモ航空機「Maker」をArcher Aviationが公開、商業運航への「足がかり」に
カテゴリー:モビリティ
タグ:エアタクシー、Whisper Aero、eVTOL、ノイズ、資金調達
画像クレジット:Whisper Aero
[原文へ]
(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hiroshi Iwatani)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2021/07/14/2021-07-12-whisper-aero-emerges-from-stealth-to-quiet-drones-and-air-taxis/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Aria Alamalhodaei,Hiroshi Iwatani
Amazonベストセラー
Now loading...