従業員を取り巻く環境は1年前とは大きく変化した。テクノロジーという点では、リモートが職場の在り方を変えている。説明責任の拡大やリモートでの新人研修、ソーシャルディスタンスを確保するための何らかの手当など、雇用者は無数の決定を行っている。
ある初期段階(アーリーステージ)のスタートアップは、その決定権の一部を従業員に返すべきだ、と考えている。ニューヨークに拠点を置くUnit(ユニット)は、今日のメインストリームテクノロジーの中で、おそらく最もつかみどころがなく、議論を呼ぶトピックであろう「労働組合」に取り組んでいる。
組合員が非組合員よりもはるかに高い賃金と充実した福利厚生を得ていることは、多くの研究によって明らかになっている。その一方で、組合による収益への影響や、自主性を持った従業員により管理が制限されてしまうことを理由に、組合に反対する企業も多い。
Unitは、従業員が簡単にバーチャルな労働組合を組織し、管理できるようにして、従業員を雇用主から守ることを目的としている。Unit自体は労働組合ではなく、ソフトウェアと人材を組み合わせて、従業員組織による組合の設立、組合員の募集、管理を支援する。
清掃員の起業家精神
「ウォール街を占拠せよ」運動が起こったのは、Unitの創業者かつCEOのJames White(ジェームズ・ホワイト)氏が大学院生の時だった。ホワイト氏は、MIT(マサチューセッツ工科大学)やハーバード大学で働く清掃員がSEIU(Service Employees International Union、サービス従業員国際労働組合)に加盟するのをサポートしていた。サービス従業員国際労働組合はサービス業全体から約200万人が加盟する組合である。
「昼間はMITの生体計測研究室で医療用注射器の研究をして、夜や週末は学生を組織して、給料や労働条件の改善を求める清掃員を支援していました」とホワイト氏は話す。「(ボランティアによる組織化は)手作業で非効率なものでしたが、2、3年かけていくつかのことを勝ち取ることができました」。
その後10年間、ホワイト氏は医療機器関連の会社で働きながら日雇いの仕事の調査を続ける。ビジネスとセールスのノウハウを身につけたところで同氏は退職し、自分のビジネスを始めたが、労働組合のことは考え続けていた。
ホワイト氏は次のように話す。「テクノロジーを駆使した組織化は常に頭の中にあり、最も興味を魅かれたのと同時に最もインパクトのあるものでした。私は所得格差や個人の権利の拡大という側面で世界を変えたいと考えていたのです」。
組合がすぐに利用できるソリューション
Unitは、確実な組合設立プロセスのために、教育から始まる一連のサービスを提供している。具体的には、職場をバーチャルに組合化する方法を段階的に説明し、ウェブサイトで無料公開している。
Unitは組合を結成しようと決断した従業員のプロセスを支援する。従業員はウェブサイトにアクセスして資格調査を受け、同僚を組織化プラットフォームに招待する。興味を持った従業員が書類にサインすると、組織内に小さな集団が形成されていく。
同時並行で、Unitが全国労使関係委員会などの全国組合や地域組合に働きかける際に必要な、法的な自動化プロセスの処理を始める。同社は、従業員に代わって嘆願書を提出するボストンの法律事務所と連携している。
「今までに組織化アプリケーションで得られた最も良いフィードバックは、『全国組合の労働者オーガナイザーやボランティアに連絡するのではなく、Unitを選んだのは、最速な方法だと思ったから』というものです」とホワイト氏はいう。
労働組合が承認された後は、Unitが労働相談窓口の役割を担う。Unitはデジタルサービスと人的サービスを組み合わせて、組合運営の「ターンキー(すぐに利用できる)ソリューション」を実現している。
Unitは、従業員に代わって、アンケートや調査の実施、コンセンサスツールの提供、憲章の草案とレビューのプロセス(組合のガバナンス)の監督を行う。また、交渉の調査、契約書の作成と見直し、報酬、戦略的分析などのネゴシエーションも支援する。それ以外にも、Unitは新規組合員の教育やストライキの計画などの継続的な組織化や、契約の維持にも力を入れている。競合他社のUnionWare(ユニオンウェア)は組合員の管理を行うが、Unitはフルサービスの提供を目指している。
「多くの作業を自動化して作業時間を大幅に短縮することを計画しています。ソフトウェアを使って投票したり更新情報を入手したり、新しい役員を指名したり、小さな組合の中で立候補したり、すべてソフトウェアでできるようにします」とホワイト氏。いうなれば、組合員のためのShopify(ショッピファイ)だ。
従業員は組合が承認されてから組合費を支払うことになるが、同様にUnitは結成プロセスが完了してから課金する。同社によると、全国組合の組合費は賃金の1.5%で、年収4万ドル(約440万円)の従業員は月に約50ドル(約5500円)を支払う。Unitは従業員の月収の0.8%を徴収する。
「No Strings Attached(無条件)」のビジネスモデルでは、いったん組合が承認されれば、Unitは顧客の90%を失う可能性がある、とホワイト氏は話す。同社は現在、Unitのソフトウェアで組合の時間とリソースを節約、というプロモーションで全国規模の組合との提携を進め、Unitのネットワークを経由して同社が承認した組合が加盟するたびに報酬を得られるようにしようとしている。
同社は特に中小企業の組合結成を支援し、ソフトウェア開発会社、デジタルメディア企業、ファストフード店、メンタルヘルス企業などを顧客に持つ。
「解決すべきは技術的な問題ではない」
サービス従業員国際労働組合で20年間、労働組合のオーガナイザーを務めたArianna Jimenez(アリアナ・ヒメネス)氏は、組合結成プロセスが簡単過ぎると、労働者に誤った希望を与える、と注意を促す。同氏の経験では、交渉プロセスは組合結成の中でも最も難しい部分で、6カ月~10年もかかるという。
「カードに署名して法律上は組合員になったとしても、それだけでは労働者の生活を物理的に向上させることはできません」とヒメネス氏。「変化をもたらすには、労働者が法律で保護された法的手続きを踏んで、雇用主との契約を正式に変更し、福利厚生、医療保険、年金の増額などを勝ち取る必要があります」。
Unitや全国の労働組合が交渉プロセスを支援する一方、雇用主主導の弾圧や恐怖政治によって、従業員が雇用の不安を感じ、組合結成に反対票を投じることも少なくない。例えば2021年初め、Amazon(アマゾン)は従業員に圧力をかけて組織化活動に反対票を投じるよう反組合キャンペーンを実施した。その結果、Amazonは組合結成運動を阻止し、同社の27年の歴史の中で最大の組合結成運動は失敗に終わった。
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ヒメネス氏は、組合結成が完全なターンキーソリューションになるとは考えていない。なぜなら「組合の有無が労働者に与える変化を測るのは法的な基準値ではない。(組合結成による変化は)力を奪われ、権利を奪われたと感じている人たちが、力を感じるようになるという、無形の変化」であるからだ。
ヒメネス氏は、Unit の規模拡大は、米国労働法を書き換えることを意味すると話す。
「私たちが解決しなければならないのは技術的な問題ではなく、価値観の問題です」。
「考えたくない問題」を孕むベンチャー
規模を拡大するためにはベンチャーキャピタルに頼らざるを得ないだろう、とホワイト氏はいう。2020年7月、Unitは、Bloomberg Beta(ブルームバーグベータ)、Draper Associates(ドレーパーアソシエイツ)、Schlaf Angel Fund(シュラフエンジェルファンド)、Haystack(ヘイスタック)、E14(イーフォーティーン)、Gutter Capital(ガターキャピタル)などの投資家から、140万ドル(約1億5000万円)の資金調達を完了した。
そして、ホワイト氏によれば、ここにUnitとの緊張関係の核心があるという。規模を拡大するためには、VCの出資を募る必要があるが、その資産を当てにするということは、(労働者を守るという同社の)直観と相いれないことだからだ。
Unitの投資家が投資している企業において、労働組合設立を支援する例を考えてみるといい。利益相反ではないか。あるいは投資家の資本政策に影響が出ないように、投資先の労働組合設立に力を入れないよう、Unitに圧力をかけることができるのではないか。
2020年、カリフォルニア州の有権者は「Proposition(プロポジション) 22」に賛成を投じた。この法案はUber(ウーバー)、Lyft(リフト)、DoorDash(ドアダッシュ)、Instacart(インスタカート)、Postmates(ポストメイツ)による、ギグワーカーには従業員と同じ労働権を与えず、個人事業主という分類を継続させるという主張を支持する。このムーブメントは、世界中の労働者団体の取り組みに打撃を与えるとともに、VCの支援を受けた企業は、労働者の福利厚生や保護への幅広い活動に反対する動機となり得ることを思い出させるものだった。
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ホワイト氏は、スピードと規模の点でVCからの支援が最適だったとしながらも、これらの問題点を認め、特に創業チームが会社の過半数を維持できない場合、投資家が後のラウンドで影響力を行使する可能性について懸念している。同氏は、Unitをできるだけ長期間、VC資金なし、あるいは限られたVC資金で運営することで、そのような懸念が現実になるのを完全に回避するか、先送りしたいと考えている。
Draper Associatesの投資家であるSiri Srinivas(シリ・スリニバス)は、Unitは、規制のある複雑なプロセスに、より優れたツールを構築しているサービスであると考えている。言い換えれば、政治的な要素を排除した、理にかなったSaaS(サービスとしてのソフトウェア)ツールということだ。
「端的にいうなら、私たちはVCとして、人々が求めるテクノロジーに投資しています。私たちはチームとして、タバコなどの特定の製品に投資しないことを強く求めていますが、これは世界にとってマイナスにしかならないと考えているからです。Unitについては、規制業界でソフトウェア製品を開発している他の企業に投資することとそれほど変わらないと考えています。Unitは労働者の公平性を実現し、ユーザーに多くの価値をもたらすことができるので、目的は一致しています」とスリニバス氏は話す。
ホワイト氏は、職場の再構築に対する一般的な関心が高まることで、Unitの案件が増え、収益の確保につながることを期待している。
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がこれほどのインパクトを持ち、労働と安全に関する会話にさらに火をつけることになるとは予想できませんでした。国レベルでこのような問題に直面し、みんなが打撃を受けた今だからこそ、人々は同じ方向に向かって考えることができると思います」。
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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:Unit、労働組合、アメリカ
画像クレジット:Bryce Durbin
[原文へ]
(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Dragonfly)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2021/08/03/2021-06-01-unit-tests-an-easier-way-for-workers-to-organize/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Natasha Mascarenhas,Dragonfly
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