空の移動手段と言えば現在でもエアタクシーが挙げられるかもしれないが、航空旅行業界を進化させる方法は1つではない。350万ドル(約3億8330万円)の資金を調達したCraft Aerospace(クラフトエアロスペース)は、まったく新しい垂直離着陸航空機で空の移動を実現することを目指しており、同社では都市間の移動をよりシンプル、高速、安価、かつ環境に優しくできると考えている。
はっきりいうとこの航空機はまだ小規模なプロトタイプの状態だが、新しいVTOL技術を使用している。(不安定なことで有名なオスプレイのように)フラップの角度を変えるのではなく、フラップ自体を使用してエンジンからの空気の流れを変える仕組みになっており、非常に強固で制御しやすくなっている。
共同創業者のJames Dorris(ジェームス・ドリス)氏は、この高速で安定したVTOL航空機が空のローカル線の新しい扉を開く鍵となり、大きな空港よりも小さな空港やヘリポートが利用されるようになると考えている。1時間未満のフライトを経験したことがある人なら知っているが、セキュリティチェックの列やゲートに並ぶ時間や、空港への行き来(大きな空港は離れた場所にある)にかかる時間は、フライト自体の時間の3倍にもなる。
「我々はお金持ちを空からショッピングモールに輸送しようとしているのではありません。機内の通路が広ければそれだけ非効率になります」。とドリス氏はTechCrunchに語った。「遅延を短くする鍵は、都市の中で人を乗せ、都市の中で降ろすことです。そのため、このような短距離の飛行では、固定翼機とVTOL機の利点を組み合わせる必要があります」。
同社が実現した技術は「吹き出し翼」または「偏向スリップストリーム」と呼ばれるものだ。古い三流SF雑誌の表紙に載っている飛行機に少し似ている。だが、普通でない形状と多数のローターで目的を達するのだ。
これまで吹き出し翼の基本的な原理は考えられてきたが、製品としての航空機に実装されることはなかった。(見るからに極めて強固な)フラップのセットを、推力装置のすぐ後ろに配置するだけだ。そこでフラップを排気流路に向けて傾けることで、空気の流れを下に向けることができる。これにより機体が上昇、前進する。十分な高度に達したらフラップを格納する。これでエンジンが正常に動作し、航空機が前進して通常どおりに上昇する。
冗長性のためにローターが多数あり、4つある「半翼」それぞれで推力を微調整できる。箱形の翼と呼ばれる形状も一定の制約下(その形状の翼を持つドローンなど)で試されてきたが、最終的に従来の後退翼の有効な代替手段とはならなかった。しかしドリス氏とクラフトエアロスペースは、この形状には大きな利点があると考えている。この形状により、エンジン2機のオスプレイより安定性が大幅に増し、離着陸時の調整が可能になる(実際、多くの人がティルトローターの航空機を提案したりプロトタイプを作成したりした)。
「我々の技術は、既存の技術と新しい技術を組み合わせたものです」と彼はいう。「これまで、箱形の翼が作られて実際に飛行しました。また、高フラップの飛行機も作られて実際に飛行しました。しかし、両者がVTOL航空機でこのように統合されることありませんでした」。
繰り返すが、クラフトエアロスペースのモデルは、規模の面で制約がありながらも、原理的には正しいということを示してきた。同社は完全な規模の航空機の準備ができているとは言っていない。数年後に意欲的なパートナーが進化を支援してくれるだろう。
第5世代のプロトタイプ(おそらくコーヒーテーブルのサイズ)は吹き出し翼の原理でホバリングする。そして数カ月後に予定されている飛行の情報によると、第6世代では移動フラップが導入されるだろう。(私はつながれた状態で屋内ホバリングを行うプロトタイプの動画を見せてもらったが、クラフトエアロスペースはこのテストの様子を一般公開していない)。
現時点では航空機の最終的な設計は確定していない。たとえばローターの正確な数などはわかっていない。しかし、基本的なサイズ、形状、キャパシティはすでに固まっている。
乗客9人とパイロット1人を乗せ、時速約300ノット(時速約555.6キロメートル)で高度約1万668メートルを飛行する。これは通常のジェット旅客機よりは遅いが、空港を利用しないことで短縮できる時間を考えれば、ジェット旅客機のほうが時間がかかるはずだ。ガソリンと電気を使用したよりクリーンなハイブリッドエンジンでは、飛行距離が約1609キロメートルになる。柔軟性と安全性の面で相当な余裕ができる。これは、ロサンゼルスからサンフランシスコ、ソウルからチェジュ島、東京から大阪など、世界で利用者の多い上位50ルートのうち45ルートをカバーする距離でもある。
しかしドリス氏はとりわけ「ロサンゼルスからサンフランシスコ」ではなく「ハリウッドからノースビーチ」を強調したいと考えている。VTOL航空機の特徴は外見だけではない。規制上の問題がなければ、VTOL航空機は、はるかに狭い場所に着陸できる。ただし、離着陸場や「マイクロ空港」の詳細な形式は、航空機自体と同様にまだ構想段階だ。
クラフトエアロスペースのチームはちょうどY Combinator(Yコンビネータ)の2021年夏のコホートをなんとか終えて、洗練された輸送方法を構築する経験を積んだ。ドリス氏は以前、Virgin Hyperloop(ヴァージンハイパーループ)の推進システムの第1人者だった。共同創業者のAxel Radermacher(アクセル・レーダーマッハー)氏は、Karma Automotive(カルマオートモーティブ)のドライブトレインの作成に携わっていた。どちらの企業も航空機を作っていない点が気になるかもしれないが、ドリス氏はそれを欠点ではなく特徴だと考えている。
「みなさんは従来の航空宇宙産業が過去10~20年で生み出したものを見たでしょう」と彼はいう。Boeing(ボーイング)やAirbus(エアバス)のような企業が必ずしも車輪の再発明を行っているわけではないということを言おうとしている。一方、自動車業界の巨人と提携した企業は、規模のミスマッチのために壁にぶつかっている。数百機の航空機と50万台のシボレーのセダンは大きく異なるのだ。
つまり、クラフトエアロスペースは航空宇宙産業を大きく変えてきたパートナーに依存している。そのアドバイザーの中には、Lockheed Martin(ロッキードマーティン)のエンジニアリングディレクターであったBryan Berthy(ブライアン・バーシー)氏、Uber Elevate(ウーバーエレベート)の共同創業者の1人であるNikhil Goel(ニキール・ゴエル)氏、SpaceX(スペースX)の初期の従業員でハイパーループ信者であるBrogan BamBrogan(ブローガン・バンブローガン)氏がいる。
またクラフトエアロスペースは、ローカル路線の低摩擦フライトを提供している小規模航空会社であるJSXとの間で、航空機200機(必要に応じてさらに400機の追加オプションあり)を購入するという基本合意書について発表したばかりだ。ドリス氏は、クラフトエアロスペースのポジションと成長スピードを考えれば、航空機の準備ができた段階で完璧な早期パートナーを得られると信じている。おそらくそれは2025年前後で、フライトは2026年に開始されるだろう。
この動きはリスクがあり普通ではないものだが、ばく大な見返りを得られる可能性がある。クラフトエアロスペースは、現段階では自分たちのアプローチは普通ではないが、数百キロの飛行を行うためには明らかに優れた方法だと考えている。業界や投資家からのポジティブな反応を見ると、その考えは支持されているようだ。クラフトエアロスペースは、Giant Ventures(ジャイアントベンチャーズ)、Countdown Capital(カウントダウンキャピタル)、Soma Capital(ソーマキャピタル)およびそのアドバイザーであるニキール・ゴエル氏から計350万ドル(約3億8330万円)の初期投資を受けている。
「我々は実証してきました。また、多くのコンセプトを目にしてきた航空宇宙産業の人たちからも、非常に多くの支持を集めています」。とドリス氏は言った。「我々はわずか7人のチームで、もうすぐ9人になります。率直に言って、我々に対する現在の関心の高さは非常にうれしいものです」。
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カテゴリー:モビリティ
タグ:Craft Aerospace、VTOL、飛行機、資金調達
画像クレジット:Craft Aerospace
[原文へ]
(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2021/08/10/2021-07-29-craft-aerospaces-novel-take-on-vtol-aircraft-could-upend-local-air-travel/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Devin Coldewey,Dragonfly
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