フロントマスク一新で新たな個性を得たMINI「クーパーS」は走りの完成度が史上最高

多彩なバリエーションを展開することで、ここ日本でも着実に人気ブランドへと成長したMINI。その品ぞろえの中で最もスタンダードな3ドアハッチバックと、それをベースとするオープン仕様のコンバーチブルが、先ごろマイナーチェンジを果たした。

BMW傘下の新生MINIが誕生してから20年、そして、現行モデルが登場してから早8年。最新型MINIは、依然として魅力をキープできているのだろうか?

■見た瞬間にMINIだと分かるアイコニックなデザイン

“クラシックMINI”とも呼ばれる初代MINIは、1959年のデビュー以来、40年以上モデルチェンジすることなく生産された超ロングセラーだ。そのため一部の人には、MINI=全長わずか3mの超コンパクトな2ボックスカー…というイメージが依然として強いかもしれない。

しかし、MINIブランドがBMWグループの傘下に収まり、完全なるフルモデルチェンジでイマドキのクルマとなった“新世代MINIがデビューしたのは2001年。それから20年を経た今では、MINIといえばすっかり新世代MINIをイメージするまでに市民権を得ている。

BMW傘下となったMINIは、2001年に最初の世代がデビュー後、2006年と2013年に次世代モデルへとフルモデルチェンジ。現在販売されているモデルは3世代目となる。とはいえそのスタイリングは、2001年にデビューした新世代MINIのイメージを継承。ひと目でMINIと分かるルックスを守り続けているのはさすがだ。こういった個性の強いモデルは、デザインを変えると「そうじゃない!」とファンから反発を受けるリスクが大きく、フルモデルチェンジが難しい。それは、フォルクスワーゲンの「ニュービートル」と「ザ・ビートル」が存在しなくなった事実を見れば明らかだ。

そんな新世代MINIは、20世紀のMINIが「トラベラー」などの派生モデルを展開していたのと同様、さまざまなバリエーションをラインナップしている。現在のボディバリエーションは、オリジナルというべき3ドアハッチバックに始まり、5ドアハッチバックにオープン仕様の「コンバーチブル」、さらにひと回りボディの大きいワゴン版の「クラブマン」やSUV仕立ての「クロスオーバー(海外では『カントリーマン』と呼ばれる)」などをラインナップ。ボディタイプやサイズは違うものの、いずれも見た瞬間にMINIだと分かるアイコニックなデザインが貫かれている。

■新型はフロントマスクに新しい個性をプラス

そんなMINIのスタンダードである3ドアハッチバックは、2021年5月のマイナーチェンジで各部がブラッシュアップされた。

何を隠そう、従来モデルと最新モデルの違いは、パッと見ただけですぐに分かる。なぜならエクステリアデザイン、特にフロント回りに手が加えられ、新たな個性がプラスされているからだ。ヘッドライトユニットやフロントバンパー、そしてフロントグリルが新しくなっているが、新型で斬新なのは、グリルを黒いフレームで囲んでいること。この特徴のおかげにより、ひと目で新型だと判別できる。この口ヒゲを思わせるデザインは、好みが分かれるかもしれない。しかし、個性を強調するという意味において、大きな役割を果たしているのは間違いない。

もうひとつ、新型で採用された新しい演出が、オプションの“マルチトーンルーフ”だ。コレは、前方がソール・ブルー、中央がパーリー・アクア、そして後方がジェット・ブラックと、グラデーションとなって色が変化していく個性的なルーフ。それぞれの塗装が乾ききる前に他の色を塗り重ねていく工法のため、1台ごとに表情が異なるという。

同じ仕様であっても、世の中に全く同じクルマが存在しないというのは、量産車としては極めて異例のこと。MINIはカスタマイズオーダーによって選べるプランが多いモデルだが、マルチトーンルーフはまさにその極みといえそうだ。ボディカラーとのマッチングの良し悪しはあるものの、MINIの個性を際立てるアイコンとして選びたくなる仕様だ。

新型はインテリアも変更されている。ドライバーズシートに座って正面を向くと目に飛び込んでくるのは、ステアリングコラムの上に載せられたタブレット端末のようなメーターパネル。これまでのアナログ式から液晶ディスプレイへと置き換わり(「ONE」グレードを除く)、左にエンジン回転計、中央にデジタル速度計、そして右に燃料計が表示される。「燃料計はそんなに大きくなくてもいいのでは?」という気がしないでもないが、見た目に新鮮でインパクトがある。

また、歴代MINIのアイデンティティのひとつであった大型のセンターメーターは、円形のフレームを残しつつ、ナビゲーションなどを映し出す液晶パネルへと置き換わっている。新型は8.8インチのタッチ式ディスプレイを全グレードに標準装備。通信ユニットが内蔵されていて、万一の際のSOSコールのほか、オーナーのスマホと連動して離れた場所からも車両の状況や位置の確認、ドアのロック/アンロック操作、換気などが行えるようになっている。

先進性といえば、新型は運転支援機能もバージョンアップが図られていて、MINIとして初めてACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)に渋滞時の停止保持機能が組み込まれた。これはオーナーにとってうれしい進化といえそうだ。

■“MINIらしさ”を味わいたいなら走行モードは「スポーツ」に

今回試乗したのは、ハイレベルな走行性能が魅力のスポーティグレード「クーパーS」。新世代MINIの走り味といえば、過剰なくらいの機敏さとダイナミックな動きを意図的に演出してきた印象だが、新しいクーパーSで走り始めてすぐ「あれ?」と思った。以前のそれに比べると、なんだかマイルドに感じられたのだ。

エンジンは2リッターの4気筒ガソリンターボで、最高出力は192馬力。コンパクトなボディを力強く走らせるだけの高性能ユニットであることに間違いはないが、それを刺激として感じにくいのは、1350回転から発生する28.6kgf-mという厚いトルクのせいだろう。トルクフルで扱いやすくなった分、それと引き換えに以前のようなピーキーな刺激を感じにくくなったのだ。

エンジンだけでなく車体の挙動も同様で、クルマとして見た時の走りの完成度は、MINI史上最高といっていいレベルにある。とはいえ、車体の挙動がマイルドになった=サスペンションがしなやかになって乗り心地が良くなったということは、多くのユーザーにとって歓迎すべきことである一方、乗り心地が悪くてハンドリングがクイックというのがMINIの走り味だと感じていたマニアックな人には、個性が希薄になったように感じられるかもしれない。

そんな、以前からの“MINIらしさ”を味わいたい人は、走行モードを「スポーツ」にすることをオススメする。モードを切り替えた瞬間から排気音が野太くなり、アクセル操作に対するエンジンの反応が俊敏。スポーティさが格段にアップするからだ。

■屋根を開けて走ると欠点さえ忘れるコンバーチブル

最後に、3ドアとともに試乗したコンバーチブルの印象についても触れておこう。

同じクーパーSながら、3ドアハッチバックよりも走りは楽しく感じられた。ソフトトップを開け放ってのオープンドライブは最高に心地いい。ボディの開口部が大きいため、ハッチバックに比べるとボディ剛性はかなり低化しているが、この心地良さを味わってしまうとそんなことなど気にならなくなる。ハード過ぎず、ちょっと肩の力が抜けた乗り味がドライバーのカラダに馴染んでくる印象だ。

3ドアハッチバックに比べると、確かにリアシートは狭いし、ラゲッジスペースも小さい。さらに屋根を開けると、畳まれたソフトトップが後方視界を邪魔する。このように、コンバーチブルはウィークポイントも多々あるが、オープンにして走っているそんなことなどどうでもいいように思えてくる。これこそがMINIのコンバーチブルの魅力だろう。クルマで人生を楽しむなら、筆者は迷わずコンバーチブルを選ぶ。

<SPECIFICATIONS>
☆クーパーS 3ドア
ボディサイズ:L3880×W1725×H1430mm
車重:1270kg
駆動方式:FWD
エンジン:1998cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:192馬力/5000回転
最大トルク:28.6kgf-m/1350〜4600回転
価格:397万円

<SPECIFICATIONS>
☆クーパーS コンバーチブル
ボディサイズ:L3880×W1725×H1415mm
車重:1370kg
駆動方式:FWD
エンジン:1998cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:192馬力/5000回転
最大トルク:28.6kgf-m/1350〜4600回転
価格:453万円

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文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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