走りのキレ味も最高!BMW「4シリーズカブリオレ」がソフトトップへと回帰した理由とは

BMWのミッドサイズクーペ「4シリーズ」をベースとしたオープンモデル「4シリーズ カブリオレ」の新型が上陸した。

新型で注目すべきはなんといってもルーフの仕立て。従来モデルとは異なり、古典的なキャンバス地のソフトトップへと回帰したのである。果たしてその理由とは?

■屋根がないだけでクルマはとても楽しくなる

コンバーチブルにカブリオレ、ロードスター、さらにはドロップヘッドクーペやスパイダー…。古今東西、オープンカーといってもさまざまな呼び名がある。

しかも、それぞれ言葉の発祥となる地域が違ったり、微妙にニュアンスが異なっていたりする。例えば同じ意味合いでも、コンバーチブルが英語圏なのに対して、カブリオレはドイツやフランスの呼び方だし、ロードスターは基本的にふたり乗りで、スパイダーはスポーツカーで屋根も簡易的、といった方向性の違いがある。

しかし、いずれもオープンカーであることに違いはなく、今ではクルマのイメージによって使い分けているというのが一般的だ。そして、どれを選んでも「屋根がないというだけでクルマはこんなに楽しくなるんだ」という、オープンカーならではの魅力を味わえることだけは断言できる。

今回紹介するのは、カブリオレを名乗るBMWの4シリーズ カブリオレだ。4シリーズはBMWの定番セダンである「3シリーズ」のクーペ仕様で、かつては「3シリーズ クーペ」と呼ばれていたモデル。2013年デビューの先代から、3シリーズから独立して4シリーズという独自の名称となっている。

大胆なフロントグリルが話題となった現行の2代目4シリーズは2020年にデビュー。その4シリーズをベースとしたオープンカー、4シリーズ カブリオレは、2021年2月から日本での発売がスタートした。

■新型のソフトトップは従来ながらの幌ではない

新しい4シリーズ カブリオレを前にして、「あれっ?」と思ったのはルーフである。先代や先々代モデルに当たる3シリーズ時代は、開閉式のハードトップを採用したいわゆる“クーペカブリオレ”だった。屋根を閉じると普通のクーペのように見えるのが特徴で、パネル自体が硬いので閉じた際の静粛性が高く、ソフトトップと違って劣化に強くて、耐久性にも優れるといったメリットがある。

一方、新型はキャンバス地のいわゆるソフトトップを組み合わせ、従来通りの“幌車”へと回帰。先代ではボディ同色だったルーフは、ブラック、もしくはシルバー光沢仕上げのアンソラジット(黒に近いグレー)の2色が用意され、屋根を閉じていてもオープンカーであることが一目瞭然だ。

4シリーズ カブリオレが開閉式ハードトップからソフトトップへと回帰した理由は、機械的に見れば、軽量化と低重心化のため、となる。ソフトトップに比べるとハードトップは重く、閉じるとそれが車両の最も高い位置を来るため、重心が上がって走行性能に悪影響を及ぼすからだ。

しかし、BMWが新しい4シリーズ カブリオレにソフトトップを選んだ理由は、それだけではない。「ファブリック製の屋根によるクラシカルでスポーティなルックス」と説明しているように、彼らがオープンカーとしての見た目も重視したからだ。ルーフを畳んだ時のクーペとは一線を画す、オープンカーならではの特別なスタイルを求めて、あえてソフトトップをセレクトしたのだ。

ソフトトップの場合、ルーフの色がボディとは明らかに異なるため、ルーフを閉じていてもオープンカーであることがひと目で分かる。さらにソフトトップの採用は、その象徴ともいえるルーフ後部からリアウインドウへと流れる“猫背”のスタイルや、リアピラーの美しさを魅せるための演出にもつながる。つまりオープンカーならではの優雅さを醸し出すには、ソフトトップに限るのである。

それを踏まえた上で新しい4シリーズ カブリオレで注目すべきは、ソフトトップ自体が従来ながらの幌ではない、ということ。閉じたルーフに触れてみると内部は固く、内側にボードが入っていることが分かる。こうした凝った構造が遮音性を高め、また暑い日や寒い日には、熱気や冷気が車内へと伝わったり、車内の快適な温度が外へと逃げたりするのを防いでくれる。つまり新型は、ソフトトップでありながらハードトップ級の快適性を実現しているわけだ。

実際、閉じて走ってみると、室内はオープンカーとは思えないほどの静粛性に満たされる。そして室内側の仕立ても、ルーフ部がしっかりとした内張りで覆われるなど、オープンとは思えないほど手の込んだフィニッシングとなっている。ちなみに、フルオートの電動開閉式ソフトトップの開閉に要する時間は約18秒。

走行中でも50km/hまでなら作動するし、また、車外からリモコンで開け閉めすることも可能となっている。

■2シータースポーツの「Z4」よりひときわ上級の設定

余談だが、オープンカーはかつて一世を風靡した電動開閉式ハードトップから、このところソフトトップへの回帰が進んでいる。

BMWでいえば「Z4」がそれに当たり、メルセデス・ベンツも最上級オープンの「SL」は、新型にソフトトップを採用してきた。日本でも、レクサス「LC」のオープン仕様は、あえてソフトトップを導入している。幌の耐候性アップなど技術的な進化も大きいが、やはりオープンカーはオープンカーらしく、というスタイル重視の選択なのだろう。

ちなみにBMWには、オープンモデルとしてZ4も用意されるが、それと4シリーズ カブリオレの大きな違いは、リアシートの有無である。あくまでスポーツカーとして開発されたZ4が2シーターなのに対し、4シリーズ カブリオレはリアシートを備えるなど実用性に優れる。

もちろん、4シリーズ カブリオレのリアシートはルーフ開閉の都合などで、クローズドタイプの4シリーズに比べて後席の足下が狭く、背もたれの角度も立っているから快適に移動できるとはいいがたいが、「ちょっとそこまで」といった使い方ができるだけでも利便性は随分高まる。また人を乗せない場合にも、コートなどの上着やバッグなどの手荷物を置くスペースとして後席スペースは重宝するのである。

さらに4シリーズ カブリオレのラゲッジスペースは、ルーフを開けた際には中型のスーツケースひとつ分ほどしかないが、ルーフを閉じれば中型のスーツケース3個分程度へと広がり、Z4より明らかに広くて使い勝手がいい。しかもリアシートの背もたれを倒せば、長尺物の積載も可能となる。

その上、4シリーズ カブリオレは、シートヒーターに加え、首や肩の辺りに温風を吹き出す“エア・カラー”と呼ばれる暖房装置をシートに内蔵。快適性においてもZ4を凌駕する。

さらに、渋滞時の高速道路でハンドルから手を放しての運転を可能にするなど先進運転サポート機能が充実しており、ひときわ上級の設定になっている。

■直6エンジンのパワフルさと心地良さは「さすがBMW!」

そんな4シリーズ カブリオレをドライブしてまず感じたのは、オープンカーとは思えない車体のガッチリ感だ。

一般的に、オープンモデルは通常の屋根ありボディに比べて車体の強度を保つのが難しく、段差を乗り越えた際の車体の振動が大きくなりがちなど、動的性能の面においてウイークポイントが生じやすい。しかし新しい4シリーズ カブリオレは、その辺りに万全を期しているのだろう。走行中も驚くほどしっかり感があり、ドライブ時の気持ち良さをスポイルしないのだ。

ちなみにバリエーションは、184馬力の2リッター4気筒ターボエンジンを搭載する「420i カブリオレ」と、387馬力と高出力の3リッター直列6気筒ターボエンジンと4WDを組み合わせた「M440i xDrive カブリオレ」が用意される。今回の試乗車は後者だが、特にエンジンのパワフルさと心地良さは「さすがBMW!」と納得できる出来栄え。ただただ運転するのが楽しく感じられた。

現状4シリーズは、通常のクーペと今回紹介したカブリオレ、そして、「グランクーペ」と呼ばれる流麗なデザインの5ドアハッチバックという3タイプのボディが選べる。その中で、最も贅沢で優雅なのは、間違いなくカブリオレだ。なぜなら実用性ではなく、“心地良さ”という人の心を満たすためだけに作られているからだ。

中でもM440i xDrive カブリオレは、本気で走ればとんでもなく速いモデルだ。だけどそれを“余裕”としてひとまず隠し、ゆったりと走るのが似合うだろう。4シーターカブリオレならではの最高の贅沢を味わえると同時に、最高に洒落て見えるからだ。

<SPECIFICATIONS>
☆M440i xDriveカブリオレ
ボディサイズ:L4775×W1850×1395mm
車重:1880kg
駆動方式:4WD
エンジン:2997cc 直列6気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:387馬力/5800回転
最大トルク:51.0kgf-m/1800~5000回転
価格:1089万円

>>BMW「4シリーズ カブリオレ」

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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