テクノロジーを活用した公教育のあり方とは? 子どもたちが生きる未来から逆算して考える

社会に出ると直面する答えのない問いたち。それらにどのように向き合えばいいのか、「学校で教えてほしかった」と思う人もいるのではないでしょうか。

今、学校教育の現場では、急速にICT化が進んでいます。文科省が発表しているGIGAスクール構想では、義務教育を受ける子どもたちに、1人1台の学習用端末を支給し、それぞれの習熟度に合わせた学習の提供を目指しています。

今回取材したのは、学習用端末向けのソフトウェア「Qubena(キュビナ)」を提供している株式会社COMPASS。

同社は、学習塾から事業を開始し、現在は「Qubena」を世田谷区や名古屋市の小中学校をはじめとした公教育に展開。「Qubena」は、子どもたちが間違えた原因をAIが解析、一人ひとりに個別最適化された問題を出題し、一斉授業では難しい学習の効率化を進めることができるサービスです。

しかし、同社が目指しているのは、学習の効率化だけではないといいます。

学習の効率化の先で何を目指すのかーー。「学校で教えてほしかった」を「学校で教えられるようにする」。子どもたちの未来を見据えた「公教育のあり方」について取締役副社長の佐藤氏にお話を伺ってきました。

もともと公教育に導入したかった

――御社は、学習塾から事業をスタートして、学習塾向けの教材を提供していましたよね。2018年以降、小中学校など公教育分野へ進出していますが、そのきっかけはなんでしょうか?

佐藤:まず前提として、学習指導要領の中で言われている知識や技能の部分は、効率よく学べたほうがいいと思っています。効率よく学んで、空いた時間で社会に出たときに求められる自分らしさを磨いたり、社会にあふれている答えのない課題に取り組む姿勢を学んだり、「未来を生きるための力」を身に付けてほしいなと。

ただ、今の学校には、正解がない問いに対する取り組み方を学んだり、実際に考えてみたりする時間がありません。

なので、多くの時間を知識や技能を学ぶ場になってしまっている今の学校に「Qubena」を提供して、その時間を効率化したいという思いがあったんですが、当時はデジタルで教育を提供する環境がありませんでした。「Qubena」は端末がないと学習できないので……。あとは、学校への導入実績がなかったということもありますね。

――当時はまだ学校でタブレット端末を活用するということが、浸透していなかったんですね。

佐藤:そうなんです。だから、最初は学習塾向けにサービスを提供しました。まずはそこで効果があることを打ち出していこうと。

ただやっぱり、学習の効率化という前提を考えたとき、1日に塾に行ける時間というのは、多くて2,3時間ですよね。学校は毎日6時間の授業があるわけで、その学習を効率化したいのに、塾の時間を効率化したところで子どもたちになかなか時間は生まれません。

公教育側で学ぶ時間をどううまくシフトできるかというのが、一番重要だと感じていました。そこで契機となったのが、2018年の「未来の教室」実証事業です。

公教育での実証と1人1台の端末整備を経て

――「契機」とはどういうことでしょうか?

佐藤:この実証事業では、千代田区立の麹町中学校に「Qubena」を導入しました。

すでにサービスを提供している学習塾や私たちの直営塾では、「Qubena」を使うと、学習時間を最大7分の1まで縮められるという結果が出ていました。ただ、実際に公教育でやったらどうなるのかということを、確認する機会がなかったんですよね。

「未来の教室」の実証事業でその機会を得て、公立の学校でも、例えば数学では、少なくとも半分に学習時間を縮めることができる、という結果が出ました。学習塾だけでなく学校においても「Qubena」による学習の効率化を実証することができたんです。

そして、新型コロナウイルスの流行があり、学校でオフラインの授業が難しくなったので、端末導入のスケジュールが前倒しになりました。1人1台端末を持つようになったので、私たちがもともとやりたかった公教育への提供ができる環境が整ったという流れですね。

ーー「1人1台端末」の整備がほぼ完了し、実証でも良い結果が得られたということは、御社が公教育参入に際して、もともと抱えていた課題は解決されたのではないかと思います。一方で、端末導入にいっぱいいっぱいで、使いこなすまでに至っていないという話をよく耳にしますが。

佐藤:そうですね。環境整備のフェーズから、今まさに活用のフェーズに突入しているタイミングだと思います。

今は端末が揃ったので、その次に「何のソフトウェアを使うのか」「どう活用するのか」というのが重要になってくると思うんですね。

自治体間の差を比べると、ソフトウェアにきちんと投資をして、良いソフトを入れて活用している自治体と、そこに予算を割けなくて何も入ってない自治体とでは、今後は結構差が開いてくるんじゃないかと思っています。

おかげさまで「Qubena」は全国1,800以上の小中学校で50万人以上に利用されるサービスに成長しましたが、この数字は小中学生全体から見るとわずか5%。どうサービスの価値を理解してもらい、多くの子どもたちに届けるかが今後の課題です。

学校は「未来につながるスキル」を育む場

――教科学習の効率化が進むにつれ、空いた時間をうまく活用することも重要になりますよね。今後、学校は「学びの場」としてどのように変化していくのでしょうか?

佐藤:そうですね。これまでの学校現場では教科に紐づく知識と技能の習得に割く時間が大部分を占めていました。それを「Qubena」で効率化して、子どもたち自身が好きなことや興味を持てることを学ぶ時間を増やしたいです。

もちろん、正解がある問題を解くことができる、というスキルとそこで得られる知識は大切です。でも社会に出ると、「それってGoogleで調べればよくない?」ということがあったり、そもそも何が問題なのかわからなかったり、正解がなかったり、みたいなこともよくある話ですよね。

正解がない問題に取り組む力が、これからの未来を生きる子どもたちにとっては、私たち世代以上に重要になってくると思っています。不確定な未来を自分で切り拓いていていくためには、思考や問題解決の手法を身に付ける必要があります。

こうした未来につながるスキルを学校で学べたらいいですよね。

――「未来につながるスキル」を身に付けるためには、具体的にどのような学びが想定されますか?

佐藤:例えば、小学校での必修化が話題になったプログラミングの活用のような、STEAM学習が挙げられます。先ほどお話しした麹町中学校の実証には続きがあって、短縮した授業時間を使ってSTEAM学習のワークショップを行ったんです。

「ロボット」「3Dプリント」「ドローン」「SDGsテーマ4」といった、教科学習で学ぶ知識を生かしつつ、実際の社会で使われている技術を体験できるテーマを設定しました。「ドローン」であれば、数学で学習した座標の知識を使ってプログラミングを行い、ドローンを飛ばしてみる、といった具合です。生き生きと学ぶ子どもたちの姿がとても印象的でした。

さらに、このワークショップへの参加後に生徒たちに向けて行ったアンケートでは「数学で学んだ知識が社会問題の解決に役立つ」と答える生徒が参加前と比べて大きく増えていました。このように、実践を通して、教科学習で身に付けた知識を社会で生かす手段やそのプロセスを、子どもたちに数多く経験してもらいたいですね。

教材は個人最適化、それでも生徒間のコミュニケーションは活発に

――一方で、学習の効率化に注力しすぎると、生徒同士のコミュニケーションが不足しませんか? 特に、1人ひとりに合わせた教材が端末内に用意されているということは、一言も喋らず黙々と問題を解いていくスタイルの授業になってしまう気がします。

佐藤:私たちも最初は、画面に向かって黙々と解くのかなと思ったんです。

ただ、実際は違いました。黙々と進めるわけではなく、周りの子と話しながら進めたり、「私もう一通り終わっているので教えます」みたいな子の周りに人が集まったり。教える側も学びにつながるし、聞く側も質問しやすいし、良い状態ですよね。

一斉授業のときはやる気がないように見えた子が、「わからない」って聞いてくることもあったと先生方からも伺っています。

――学習時間が短縮されて、コミュニケーションも活発になる、と。

佐藤:はい。麹町中学校の場合は、教室ではなく、ちょっと広いカフェテリアみたいなところで授業を行って、時間になると、端末を取って好きな席で学習し始めるというスタイルを採用したことも良かったかもしれないですが。こういうのが、今日的な学習の仕方なのかなと思いますね。

この学習スタイルだと、学校で自由に使える時間が増えるので、未来のための学習を進めることができます。自分で興味のあるテーマを決めて、それに対してどういう風に取り組めばいいかを考えてみる時間をとれるようになります。

社会に出たら答えのない課題を考えることしかないので、学校がそこに対するアプローチの仕方を小中学生のうちから学べる場になればいいなと思います。

(文・Saki Amano)


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