【腕時計の基礎知識:時計百識011】
例年に比べて印象に残るものが多かったからだろうか、2021年に発表された腕時計のなかで目についたのが、GMT機能を搭載したモデル。簡単に言ってしまえば、ホームタイム(母国時間)とローカルタイム(現地時間)の時刻が確認できる機能を備えた腕時計なのだが、一方でGMTウォッチには、そうした実用性だけにとどまらない魅力がある。
■航空会社の依頼によって生まれたGMTウォッチ
GMTウォッチとは、ダイアル中央に備えられた24時間表示のGMT針と回転式ベゼルの組み合わせによって、2カ所以上の時刻を表示する時計。当然のことながら、その誕生にはかつての世界標準時=グリニッジ標準時が大きく関わってくる。
1884年に行われた国際子午線会議においてイギリスのグリニッジ天文台を通る子午線が本初子午線として定められると、以後、世界は24のタイムゾーンに分割されることに。つまり、グリニッジを基準にして経度15度ごとに東側でプラス1時間、西側でマイナス1時間の時差が設定されたのだ。
この規則性を時計に取り入れたのが、スイス・ジュネーブの時計師ルイ・コティエで、1930年代には世界の主要28都市の時刻を知ることのできるルイ・コティエ式ワールドタイムが登場。パテック フィリップをはじめとする多くのブランドが採用した。とはいえ、ベゼルに多くの都市名を刻んだこの方式は表示が煩雑で、ユーザーが知りたい時間帯を瞬時に読み取ることができない。
そこで、旅客機による大陸間横断が盛んになった1950年代に入り、パン・アメリカン航空がロレックスに依頼したのが、ふたつの時刻だけを表示できる時計の開発。これを受けて1954年に誕生(発売は1955年)したのが、GMTウォッチのパイオニア「GMTマスター」で、1982年には時針の単独調整機能を備えて第3時間帯の表示も可能にした「GMTマスターII」が登場する。
■魅力はGMTウォッチ特有のデザイン
これ以降、GMT機能を搭載した時計は各社から発売されるように。当初こそ航空会社からの要請で開発された、パイロットのための時計であったが、海外との往来を頻繁に行うビジネスパーソンやツーリストが増えるに従い、GMTウォッチは人気を獲得。面倒な操作なしに2カ所の時刻を読み取れる実用性が支持されたわけだが、その一方ではGMTウォッチ特有のデザインも注目されるようになった。
多くのモデルでは、ホームタイムの視認性を高めるためにGMT針がビビッドなカラーで彩られており、これがデザインの程よいアクセントに。また、ベゼルに24時間のタイムゾーンを記したモデルでは、昼夜を分かりやすくするためにツートーンカラーを取り入れており、実用面を考慮したデザインがルックスの向上にも影響を与えている。
ロレックスが初代「GMTマスター」で作り上げたこのデザインは、さまざまなブランドがGMTウォッチをリリースするようになって以降、各社の個性が表れるエレメントになった。自由に渡航することが適わない今だからこそ、来るべきその日に備えて最良のパートナーとなるモデルを選びつつ、そのデザインワークをじっくりと愉しんでみるのもいい。
<注目のGMTウォッチ4モデルを紹介>
航空計器をモチーフとするフランス生まれの角型ウォッチ
ベル&ロス
「BR 05 GMT」
(63万2500円)
ケースとブレスレットに一体感を持たせたデザインで支持を得た、ベル&ロス「BR 05」の特徴的クリエイションはそのままに、GMT機能を付与したのが「BR 05 GMT」。赤い先端のGMT針がブラックダイアルのアクセントになっている一方、24時間表示はダイアル外周に控えめにレイアウト。
しかも表示の上半分(夜間)をブラック、下半分(日中)をシルバーで色分けして「BR 05」のクールな雰囲気を損ねていないデザインワークも見事。
名作「アイコン」シリーズのGMTモデル
モーリス・ラクロア
「アイコン ベンチュラー GMT」
(31万3500円)
ケースとブレスレットをシームレスに繋ぐデザインを取り入れ、1990年代に人気を博したモーリス・ラクロアの「カリプソ」。これをモダンに進化させ、2016年に誕生した「アイコン」は、今やブランドを代表するコレクションに成長した。
そのラインナップのひとつが「アイコン ベンチュラー GMT」。ブラックセラミック製の回転式ベゼルにスティールのアームを施したデザインが独創的であるとともに、ホームタイムも確認しやすくなっている。
静謐なる美しさをたたえるダイヤルに輝くピンクゴールドのGMT針
グランドセイコー
「エレガンスコレクション SBGE269」
(72万6000円)
2021年に発表され、日本の四季をダイアル上で表現したグランドセイコーの二十四節気シリーズ。そのひとつ「SBGE269」は、雪原に茜色の夕日が差す、冬至の雰囲気をイメージしたモデル。
白色のダイアルには雪の質感を表現する繊細なパターンを施し、さらにピンクゴールド色のGMT針を採用することで、夕日のニュアンスを表現しつつ、ホームタイムの判読性を高めた。24時間表示はごく控えめに配し、エレガントな表情にまとめている。
チタン素材と特徴的なダイヤルに心惹かれる
ショパール
「L.U.C GMT ワン ブラック」
(145万2000円)
2016年に発表されたショパール「L.U.C GMT ワン」の基本設計はそのままに、ケースにセラマイズド・グレード5チタンを採用した「L.U.C GMT ワン ブラック」。
ユニークなのはケースの質感に合わせたダイアルで、バーティカルサテン仕上げが施されたダークグレーの中心部を、スネイル仕上げのチャプターリングと、ブラック&ホワイトのGMTリングが取り囲むモノトーンデザイン。
GMT針もグレーで揃えているが視認性は良く、他のGMTウォッチにはないクールでモダンな雰囲気が堪能できる。世界限定250本。
>> [連載]時計百識
<取材・文/竹石祐三>
竹石祐三|モノ情報誌の編集スタッフを経て、2017年よりフリーランスの時計ライターに。現在は時計専門メディアやライフスタイル誌を中心に、編集・執筆している。
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- Original:https://www.goodspress.jp/howto/419851/
- Source:&GP
- Author:&GP
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