<&GP自作部>
地面を叩いても刃こぼれしないよう、先端にちょこんと出っ張った石付きが付けられた特殊形状がグッと来る「エビ鉈」。先人の知恵を感じる造形です。
そういえば、薪で風呂を焚いていた祖母もエビ鉈使いの達人で、カツンカツンと小気味よく丸太を割っている姿を見て、自分も刃物の使い方を覚えたんだっけ…。
そんな昔話はともかく、エビ鉈はその特異な形状のせいか、付属するケースは質素なものが多い印象。ただそれは、刃物にコストを全集中する姿勢ゆえだと評価したいところです。そこで今回は、端切れレザーを使いシースを自作してみました。
■機能や形状を考慮して設計する
▲純正で付いて来るのは、ビニール製純正シース。雰囲気がちょっと…
購入時にケースが付属しているけれど、流石にこれでは本体がかわいそう! ということで、ケースを作ることにしたのですが、エビ鉈はその海老すぎるフォルムのため、抜き差し式の長方形のシースは不向き。
シースというよりは「持ち運び用の刃先カバー」としてデザインすることにしました。
1.まずは厚紙に鉈の形を写し取る
▲図面には刃先はもちろん、柄の部分も描き込んだ方がイメージしやすいです
まずは厚紙に鉈の形を写し取ります。できるだけ実際の大きさ・形を正確に書き出すことが重要。アイデアを書き込んでは消すを繰り返すことで、イメージの具現化が捗ります。
▲「どうすれば抜き差ししやすいか」「どこにガードが必要か」を煮詰めていきます
刃先の当たる位置や特にガードしたい部分を描いていくと、少しずつゴールが見えてきます。刃の形状にフィットするミニマルシルエットを狙いたいところですが、小さすぎだと出し入れしづらくなるので要注意!
このせめぎあいが、自作魂をくすぐります。
今回は、出し入れのしやすさとカバー性能を考慮して、二枚重ねの革で刃先をしっかり受け、開放した背の部分をベルトで押さえるスタイルとしました。
2.型紙を用意する
アイデアスケッチを清書したら切り抜いて型紙として使い、革に切り出し線を描きます。
3.材料をカットし固定する
▲使用したカッターは、オルファの傑作「シルバー」(写真下)と、程よいサイズ感のM厚型刃を採用した「ハイパーM厚型」
型通りにカッターナイフで丁寧に切り出します。「革包丁」という専門の刃物がありますが、カッターナイフでも代用可能。内装のプロ御用達の替刃「特専黒刃」を使えば、エッジもビシッと決まります。
メインのパーツを切り出しました。今回使用するレザーは厚さ約2mm程度と薄め。ちょっと頼りないですが、刃先を受ける部分などに限り二枚重ねにして、極力軽く仕上げるUL(ウルトラライト)仕様。ものは言いようです。
パーツが型紙通りに切り出せているか、設計にミスはないかを確認するため、仮組みします。鉈が出し入れし難いなど問題があれば、この段階で微調整します。
▲接着剤をムラなく塗ってパーツ同士を張り合わせたら。しっかり接着するようクリップなどで挟んでおきます
小物パーツを接着剤で張り合わせます。レザークラフトには一般的に、G17 やGクリヤーといった汎用接着剤がよく使われていますが、今回はアウトドアユースのため耐水性の向上を期待してスーパーXを使用しました。
革は表側を「銀面」、裏側を「床(トコ)面」と呼びますが、縫う前に床面の毛羽立ちの処理をします。使用するのは「トコノール」や「トコフィニッシュ」と呼ばれる、ワックスや樹脂などを配合した液体です。
▲トコフィニッシュは銀面につくとシミになってしまうので、コバの作業をするときは慎重に塗布します
適量を銀面に塗り、硬く滑らかな棒などで擦ると、繊維の毛羽が固まり艶がでます。接着する場所を避けてトコフィニッシュ加工が完成したら、「コバ」と呼ばれる革の裁断面も同じように仕上げておきます。
本体を縫い合わせる前に、ベルトを付けておきます(縫い方は後ほど説明)。付け外しのボタンは「ジャンパーホック」で、こちらもレザークラフトのお店や手芸店で扱っています。
ベルトを付けるとこんな状態。ここまで来ると完成形が見えてきます。
パーツを本体の所定の位置に接着します。パーツの両側を一度に接着するとズレてしまいそうなので、片面ずつ行いました。
▲赤とピンクの洗濯バサミのようなものは手芸店で扱っている布用の固定パーツです
接着直後はズレないようクリップなどで固定して硬化を待ちます。革の表面に傷を付けないよう、不要になったクリアファイルなどを挟んでおくのがおすすめです。
次からいよいよ縫製に入っていきます!
4.縫製の下穴を開ける
接着剤が硬化したら縫い穴を開けるため、シースの端から5mmの位置にノギスや千枚通しなどで軽く印を付けます。印は縫い目で隠れてしまうのでご安心ください。
▲菱目打ちには種類があって、直線部の穴あけに便利な4本、曲線に便利な2本・1本タイプがあるので、使い分けながら下穴を開けていきます
革は硬いため、布のようにそのまま針で縫うことが難しいので、「菱目打ち」と呼ばれる工具を木槌で叩き、縫い針を通す下穴を開けます。
今回は革を4枚重ねているため、裏側まで菱目打ちが届きにくくなっています。穴が通じていない場合は、目打ちなどで穴を貫通させておきます。
5.二本針で縫い上げる
▲縫っている最中に糸が抜けないよう、穴に針を通したら二箇所ほど糸を縫うように刺して引き抜いておきます
最もベーシックな「平縫い」という手法で縫っていきます。糸は蝋(ワックス)処理をした「ロウ引き糸」を、針は先端が丸められた専用のものを使用。
1本の糸で交互に縫い上げるため、糸の両端に針を通します。糸の長さは縫い目の長さの4〜5倍程度が目安です。
下穴に交互に針を通して縫い進めますが、針を穴に刺す際には、反対側の針の糸を進行方向と反対側に斜めに倒しておき、下穴にできた隙間に針先を入れます。そうすることで、針が糸を突き刺すことなく、縫い目がきれいに仕上がります。
縫い終わったら、裏側に両方の糸を出して固結びをして、余分な糸をカット。切り口のほつれが気になるようなら、ライターなどで軽く炙っておきます。
6.下穴に馴染ませたら完成!
結び目のコブが目立たないように下穴に馴染ませたら完成です。撥水効果を期待してグローブの保湿剤を薄く刷り込んだところ、しっとりとした質感がウッドグリップにほどよく調和して“エビ鉈愛”が倍増!
これで焚き火の時の薪作りが一層楽しくなりそうです!
所要時間:約2時間
材料費:約1000円(レザー)
>>&GP自作部
<写真・文/杉山元洋>
杉山元洋|自転車やSuperCubなどの二輪車と大衆酒場を愛する、下町育ちの編集者兼ライター。男性情報誌、ビジネス、生活情報、グルメなど、幅広い分野の雑誌・ウェブ記事制作に携わる。Instagramアカウント:xcub_redbear
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- Original:https://www.goodspress.jp/reports/420959/
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