テクノロジーの世界が急速に成長するクリエイターエコノミーを受け入れる中、クリエイターの収益化を支援するスタートアップがあちこちに出現している。しかし、2013年に設立されたPatreon(パトレオン)は「インフルエンサー」という言葉が私たちのボキャブラリーに入る以前から存在していた。「Tik Tok(ティックトック)」が誰もが真似ようとしているソーシャルプラットフォームではなく、Kesha(ケシャ)の歌だった頃のことである。
Patreonは2021年初めに評価額を3倍増の40億ドル(約4400億円)とした後、岐路に立っている。クリエイターのための構築という点で、同社は今後も勝ち続けるのだろうか。同時にPatreonは、クリエイターたちに自社のプロダクトが彼らの最善の利益を追求していると感じさせながら、その競争に先んじることができるのだろうか?
「私たちは(クリエイターエコノミーの)最初の8年間を定義した企業の1つになるのではなく、次の8年間を定義する企業になるつもりです」とPatreonのチーフプロダクトオフィサーであるJulian Gutman(ジュリアン・ガットマン)氏はTechCrunchに語った。
2022年のプラットフォーム計画についてTechCrunchに語ってくれたガットマン氏によると、Patreonは特にプロダクトとエンジニアリングの分野で積極的な採用を行い、時代を先取りしたいと考えている。ガットマン氏自身は2021年1月にPatreonに加わったばかりで、以前はInstagram(インスタグラム)でホームフィードエクスペリエンス向けプロダクトの責任者を務めていた。Patreonは2021年8月に、Google(グーグル)やTwitter(ツイッター)のチームを率いていたUtkarsh Srivastava(ウトカルシュ・スリヴァスタヴァ)氏をエンジニアリング担当シニアVPに迎えている。
「2021年前四半期にプロダクト、エンジニアリング、デザイン部門で60名を採用しており、このペースは2022年も続く見込みです」とガットマン氏。「Instagram、Uber(ウーバー)、Square(スクエア)の出身者を仲間に迎えています。これらの企業はいずれもクリエイターエコノミーの第一世代と言えるでしょう」。
Patreonは新しい会社ではないが、創業当初からクリエイティブな人たちの収益化を助けることをミッションとしていたことから、ガットマン氏は、かつての雇い主であるInstagramのようなソーシャルメディアプラットフォームよりも、同社はこの「第二世代」をリードする準備ができていると考えている。いずれにせよ、ソーシャルプラットフォームはクリエイターへの直接支払いに多額の投資をしている。しかしPatreonのモデルでは、クリエイターは一時的なサプライズボーナスではなく、持続性のある月ごとの支払いを受けることができる。
Patreonは現在400人の従業員を擁しているが、2022年末までに1000人近くになることを目指しているとガットマン氏は語っている。Patreonは、特にプロダクト、エンジニアリング、デザインの分野の従業員を、現在の150人(最近採用した60人を含む)から2022年内に400人まで増やしたいと考えている。
「それは私たちが構築したいもの、そして構築する上でのペースと品質を反映していると思います」とガットマン氏。「私たちは今、潜在的なクリエイターたちに大きな期待を寄せており、彼らを支援するためにできる限り多くのツールを、できる限り早く提供したいと考えています」。
Patreonはすでに2022年に向けて取り組んでいるプロジェクトのいくつかの精査を始めており、その中には、ネイティブのビデオプラットフォーム(独占的なビデオコンテンツを限定公開のYouTubeリンクではなくプラットフォーム上で配信できるようにする)、より多くのフォーマットオプションによる投稿エクスペリエンスの向上、Patreonのページ上でコンテンツを整理するさまざまな方法、より多くのデータとアナリティクス、よりクリーンなアプリ設計、よりシンプルなマルチメディア再生エクスペリエンスなどが含まれている。Patreonによると、多くのクリエイターにとって「混乱とフラストレーションの源」であった課金システムの刷新も計画しているという。
しかし、Patreonにとってもう1つの大きな問いは、同社が暗号資産技術をプラットフォームに持ち込むかどうかである。2021年の秋、ガットマン氏は創業者でCEOのJackConte(ジャック・コンテ)氏とともに、クリエイターたちが収益を上げる方法としてPatreonが暗号資産を検討していることを明らかにした。Patreonは同社の秋のCreator Policy Engagement Program(クリエイターポリシーエンゲージメントプログラム)のアップデートで暗号資産クリエイターコインのアイデアを提案したが、その後のライブストリームでクリエイターたちは、Patreonが暗号資産に手を出すことでパトロンとの関係にどのようなインパクトを及ぼすかについて懸念を表明した。
Patreonが企業として取る行動は、プラットフォームで生計を立てているクリエイターの生活にインパクトを与える。このライブストリームに参加したクリエイターの中には、Patreonがクリエイターコインをローンチすれば、自分たちがそのツールを使っていなくても、暗号資産を好まないパトロンが購読をやめるかもしれないと心配する人もいた。
「(暗号資産)技術の中には実に興味深い基本的な要素がいくつか存在します。私たちのミッション、そして誰もがクリエイターエコノミーのために長い間求めていたもの、つまり権利の所有権、独立性、コンテンツの所有、ビジネスの所有、オーディエンスの所有、分散化、これらすべてのテーマに実質的に整合する要素です」とガットマン氏はTechCrunchに語った。「ただし、私たちは特定のアプリケーションやバンドワゴンに飛び乗る準備ができていないと思います」。
Patreonには暗号資産に取り組む専任チームは置かれていないが、暗号資産に情熱を持ち、ガットマン氏がいうところの「空き時間を利用した社内ポッド」を形成した従業員たちがいる。Patreonは2022年の早い時期に、暗号資産を活用してクリエイターをサポートする方法の可能性を調査する目的で、少人数のチームを立ち上げることを検討するかもしれないと同氏は語っている。
「『さあ、今すぐNFTプラットフォームを構築しよう』というものではありませんが、何人かの従業員がこの課題に専任で取り組むことになります」とガットマン氏。「ところで、彼らはこう結論付けるかもしれません。『今すぐここで構築すべきものは何もない』。それも十分理に適った結論です」。
Patreonは、暗号資産に足を踏み入れるかどうかという問題を軽く扱っていない。この選択は、自らのコミュニティを分断し、クリエイターに会社の決定の代弁者として行動することを強制することにもなり、個々のクリエイターのパトロンを遠ざける可能性もある。
2021年12月初旬、Kickstarter(キックスターター)はクラウドファンディングプラットフォームをブロックチェーンに移行すると発表し、特に一部のブロックチェーン技術に環境上の懸念を持つユーザーからの反発を巻き起こした。また2021年11月には、Discord(ディスコード)のCEOであるJason Citron(ジェイソン・シトロン)氏が、チャットプラットフォームのインターフェイスに組み込まれた暗号資産ウォレットMetaMask(メタマスク)の画像をツイートした。しかし、暗号資産に詳しいユーザーでさえ、暗号資産ウォレットをDiscordアカウントと連携させることで、プラットフォーム上で不正行為や詐欺を実行しやすくなるのではないかと懸念していた。ユーザーの間では、暗号化に向けた同社の動きに抗議して、有料のDiscord Nitro(ナイトロ)サブスクリプションを解約するよう互いに促す声も上がった。その後シトロン氏は、Discordは現時点でこの技術を追求する計画はないとする声明を発した。
「私たちにとってもう1つ重要なことは、今後数年間で、クリエイターたちが別々に大きなものを作り上げることのできるツールセットを提供したいということです」とガットマン氏。「クリエイターがそこで使うことを選ぶ可能性のあるものを考慮した場合、そのツールセットの中には暗号資産の要素が含まれるかもしれません」。
しかし、より即時的には、コミュニティがPatreonの2022年の焦点になることをガットマン氏は強調した。
「クリエイターというと、人々はコンテンツを考えます。ですが、クリエイターが大きく従事しているのは、今日のコミュニティです」とガットマン氏は語る。「彼らは実のところコミュニティのリーダーです。関心のある共通のトピックや共通の情熱を中心にコミュニティが集うことに貢献しています。このことは、クリエイターが世界に提供しているものの中で、特に今の時代において極めて過小評価されている部分だと思います」。
現在、クリエイターがファンに提供する一般的な特典は、利用者専用のプライベートなDiscordサーバーへのアクセスである。ガットマン氏によると、PatreonはDiscordのようなプラットフォームとの統合スイートに加えて、コミュニティを構築するためのプラットフォーム上のプロダクトを作りたいと考えているという。
「私たちはクリエイターファーストです。クリエイターが統合を利用したいと思い、統合の方を望むなら、私たちはそのことに大きな喜びを感じます」とガットマン氏。「プラットフォーム上対プラットフォーム外という種類の戦いほどにはなりませんが、より多くのファーストパーティコミュニティツールの構築を考察することに大きな期待を寄せています。私たちの期待の一端は、コンテンツとコミュニティが出会う接点にあります」。
Patreonのような会社における変革は、プラットフォームに依存して生計を立てているクリエイターに不安をもたらす可能性がある。2022年にPatreonは、同社のプロダクトプランの大きなシフトに最も影響を受ける人々との直接的なコミュニケーションを維持するために、クリエイター調査を実施する予定である。
画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch
[原文へ]
(文:Amanda Silberling、翻訳:Dragonfly)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2022/01/11/2021-12-21-patreon-cpo-interview-double-in-size-2022/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Amanda Silberling,Dragonfly
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