東京大学と日本電子は2月10日、新開発の原子分解能磁場フリー電子顕微鏡により、世界で初めて、原子磁場の直接観察に成功したことを発表した。原子が持つ微小な磁場を直接観測できる技術は、磁石、鉄鋼、半導体デバイス、量子技術などの最先端マテリアル研究を大きく推進させるものであり、顕微鏡開発の歴史を塗り替える画期的な成果だとしている。
これは、科学技術振興機構(JST) 先端計測分析技術・機器開発プログラムのもとで行われている、東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構(柴田直哉教授)と日本電子(河野祐二氏)らによる共同研究。原子の周辺に発生している磁場は、磁石(磁力)の起源ともいわれているが、従来の電子顕微鏡では観測が不可能だった。従来方式の電子顕微鏡は、原子を直接観察できる分解能を有しているが、非常に強力なレンズ磁場の中に試料を入れる必要があるため、レンズの磁場と試料の磁場が強く相互作用し、構造が変化したり破壊されたりしてしまうためだ。影響を与えない程度に磁力を落とせば、分解能が低下して観察ができなくなる。
そこで、同研究グループは2019年、試料室を磁場のない環境に保つことができる、まったく新しい対物レンズを開発し、磁性体の原子観察を世界で初めて実現した。そして今回、超高感度、高速検出器を搭載した原子分解能磁場フリー電子顕微鏡を新しく開発し、鉄鉱石の一種であるヘマタイト(α-Fe2O3)結晶の中の鉄原子周囲の磁場観測を成功させた。
ヘマタイト結晶の磁場観察には、走査型透過電子顕微鏡法(STEM)と、原子分解能微分位相コントラスト法(DPC)が用いられた。まず、STEMで観察を行ったところ、鉄(Fe)原子位置が明るい輝点として観察できたが、磁気の作用を示す磁気モーメントの情報は得られなかった。次にDPCを用いたが、すべてのFe原子が同じコントラストを示し、磁気モーメントに対応する磁場は観察できなかった。だがこれは、原子核と電子雲との間に強い電場が存在しているためで、この電場による影響を差し引けば、磁場のみを取り出すことができる。そこで、特殊な画像処理を行った結果、Fe原子層ごとに互い違いに反平行にコントラストが変化する様子が観察できた。これは、磁気モーメントの並びを仮定したシミュレーションと一致した。つまりこれが、「反強磁性的なスピン配列に伴う原子磁場を直接観察できた」ことを意味するという。
今後は、「磁石、鉄鋼材料、磁気デバイス、磁気メモリー、磁性半導体、スピントロニクス、トポロジカル材料など、さまざまなマテリアルやデバイスの研究開発を先導する新計測手法となることが期待されます」とのこと。「今まで見えなかった原子の磁場観察という大きな一歩を記す成果です」と研究グループは話している。
- Original:https://jp.techcrunch.com/2022/02/14/atom-resolution-magnetic-field-free-electron-microscope/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:tetsuokanai
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