テラヘルツ波で人間も「透視」する画像センサー

赤外線とマイクロ波の間には、現在の電子機器や光学機器では扱うことができない目に見えない電磁波領域が広がっていいる。その領域であるテラヘルツ波がすごい点は、X線によく似ていることだ。テラヘルツ波を使えば、ある種の固体物質を透視することができるが、X線過剰照射時のような「あれあれ、死んじゃった」という副作用はない。Ruonan Han(ルオナン・ハン)准教授が率いるMITのテラヘルツ統合エレクトロニクスグループの研究者たちは、この領域を利用しようとしている。MITの研究室では、電子的に操縦可能なテラヘルツアンテナアレイが開発されたばかりだ。

このトランプサイズのテクノロジーを使うことで、研究者たちはその領域への扉を開けようとしている。この技術により、より高速な通信や、霧や埃の多い環境でも視野を確保できるシステムが実現できるかもしれない。研究者たちはこれを「リフレクトアレイ」と呼んでいて、コンピュータで反射方向を制御できる鏡のように動作すると説明している。

このリフレクトアレイは、1万本近いアンテナを小さなデバイスに集約し、テラヘルツのエネルギービームを微小領域に精密に集めることが可能だ。可動部がないため、正確かつ迅速に制御することができる。この装置が生成する画像は、LiDAR(ライダー)装置に匹敵するものだが、雨、霧、雪を透過することができる。研究者は、この種の商用デバイスで軍用レベルの解像度を実現できる初めてのソリューションだとしている。

「アンテナアレイは、各アンテナに与える時間遅延を変えるだけで、エネルギーを集める方向を変えることができ、しかも完全に電子化されているので、非常に興味深い存在なのです」と、最近MITの電気工学・コンピュータ科学科(EECS)で博士号を取得したNathan Monroe(ネイサン・モンロー)氏は語っている。「つまりモーターでぐるぐる回る空港の大きなレーダーアンテナの代わりとなるわけです。このアンテナアレイでも同じことができるのですが、コンピュータの中でビット少し変えるだけなので、可動部品は必要ないのです」。

イメージ検知装置として使用する場合には、照射角度1度のビームがセンサー前のシーンの各点上をジグザグに移動し、3次元の奥行きのある画像を作成する。他のテラヘルツアレイは、1枚の画像を作るのに何時間もあるいは何日もかかるのだが、この製品はリアルタイムに動作する。これまでは、1万本のアンテナを同時に制御するために十分なビットを計算 / 通信すると、リフレクトアレイの性能が大幅に低下していた。そこで研究者たちは、アンテナアレイをコンピューターチップに直接組み込むことで、これを回避した。フェーズシフターは、トランジスタがわずかに2個という非常にシンプルなもので、このためチップ上の約99%のスペースをメモリとして確保することができた。その結果、個々のアンテナは異なる位相のライブラリを保存することができる。さらに、2トランジスタのフェーズシフターは消費電力を半減させ、別電源が不要になるというメリットもある。

「この研究以前は、テラヘルツ技術と半導体チップ技術を組み合わせてビームフォーミングが行われることはありませんでした」とハン氏はいう。「今回の研究によって、独自の回路技術により、非常にコンパクトでありながら効率的な回路をチップ上に実現し、そこでの波の挙動を効果的に制御することができるようになったのです。集積回路技術を活用することで、過去にはまったく存在しなかった素子内メモリやデジタル動作が可能になりました」。

「このリフレクトアレイは、高速に動作し非常にコンパクトなので、自動運転車のための画像認識に有用です。特に、テラヘルツ波は悪天候でも見通すことができますので」とモンロー氏はいう。

モンロー氏と彼のチームは、とあるスタートアップを通じてこの技術を市場にライセンスしようとしているが、このデバイスは軽量で可動部品がないため、自律ドローンに適しているかもしれないと示唆している。さらにこの技術は、数分ではなく数秒で動作する非侵襲型のボディスキャナーを実現することで、セキュリティの現場にも応用できる可能性がある。

以下は、システムの仕組みを紹介した動画だ。

画像クレジット:MIT

原文へ

(文:Haje Jan Kamps、翻訳:sako)


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